あすの環境と人間を考える~アジアやアフリカで出会った人びとの暮らしから第9回 「貧者の斧」から「賢者の斧」へ~タンザニア南部の火入れ農耕をめぐって

2016年12月15日グローバルネット2016年10月号

総合地球環境学研究所
田中 樹(たなか うえる)

写真① ミオンボ林を切って積み上げられた幹や枝

焼畑あるいは「火」を用いる農耕技術について多くの人々は、植生や土壌を破壊し、地球温暖化を助長するものとして、好ましくないイメージを持っているかもしれません。熱帯の小規模農民の暮らしの様子と火入れの破壊的なイメージをつなげて、「火」は「貧者の斧」と呼ばれることがあります。一方で、農耕の歴史は「火」とともにありました。そこには、まだ私たちが知らない、あるいは、忘れられてしまった知恵が込められているかもしれません。今回は、東アフリカ・タンザニアの焼畑耕作での「火と土」の関係を見ながら、「火」が「賢者の斧」になる可能性を考えてみましょう。

タンザニア南部の村落風景

タンザニア南部のムビンガ地域は、モザンビークとマラウィという国にほど近い半乾燥地で、6月~11月までの半年間の乾季と12月~5月までの雨季があり、年降水量は1,200㎜程度です。自給用の作物として、メイズ、インゲンマメ、トウジンビエ、サツマイモなどが栽培されます。標高1,500~1,800 mの山間地は、古い村が多く、換金用の作物としてコーヒーの栽培が盛んです。余談ですが、ここで生産されるコーヒーは、北部に位置するキリマンジャロ山の麓のモシの街に運ばれ、日本でも有名なキリマンジャロ・コーヒーとして世界中に輸出されます。1,200~1,500mの丘陵地には、ミオンボ林(東・南部アフリカの半乾燥地に分布し、マメ科ジャケツイバラ亜科を主体とする樹木がまばらに生えている林)が広がり、山間部から移住してきた人々の集落が点在します。ミオンボ林が開拓される最前線ともいえます。

写真② 火入れ後の土壌

丘陵地のミオンボ林を歩いていると、斧で切った樹木の幹や枝が積まれているのを見ることができます(写真①)。土地の人々はこれをマテマと呼びます。乾季の終わりから雨季の始まりにかけて、これに火を入れ、次いでシコクビエやカボチャなどをまきます。火入れをした場所は、窒素やリン、カルシウム、カリウムなどの養分が多いため、作物がよく生育し確実に収穫が得られます。なお、マテマの周囲の土壌は、鍬で3~5㎝位の厚さに薄く削がれ、反転させて3層ほどに積み上げられます。この場所あるいはこのような作業は、キクユと呼ばれます。ここにまかれたシコクビエの生育は必ずしも良くありませんが、雑草の生育を抑えながら柔らかく厚い表土を作るための大切な工程です。

この時期になると、丘陵地のあちこちで火入れの煙が上がり、人々は雨季の到来を告げる雨を待ちます。

火入れされた土壌はどうなる?

積み上げた幹や枝(マテマ)に火を入れると、炎を上げて燃え、それが10~20分ほど続きます。炎が収まると、幹や枝はおき火(バーベキューの時の炭火のような状態)になり、それが数時間から一昼夜にわたり続きます。深さ2㎝までの土壌の温度は、300℃を超えます。写真②は、火入れをした後の土壌を30㎝ほど掘ってみたものです。表面には白い灰が積もっています。0~2㎝の深さでは、表面が赤いレンガのように焼け固まり、その直下では植物の根や土壌有機物が失われ、pHがアルカリ性になります。この深さを、減耗層と呼び、土壌は火入れによる温熱で破壊され元に戻ることはありません。2~10㎝の深さの土壌では、火入れ前よりも易分解性有機物(微生物による分解を受けやすいもの)や無機態窒素(アンモニアなど)の量が増えます。この深さを、焼土効果層と呼び、作物の生育を助ける養分環境となります。また、固くしまった土壌が火入れによってやわらかくなります。火入れは、土壌や有機物中に含まれる養分を、作物が吸収しやすい形にして引き出すための操作なのです。10㎝以下の土壌は、火入れの前後で大きな違いはありません。

図 火入れに伴う土壌温度の変化

は、火入れから30分間の異なる深さの土壌温度の変化を記録したものです。縦軸は温度(℃)、横軸は経過時間(分)です。ここで興味深いのは、幹や枝が炎を上げて燃えているとき、土壌の温度に変化がないかむしろ下がることです。このことは、草原の野火のように、草が炎を上げて燃えすぐに灰になるような場合は、土壌が破壊されないことを意味します。一方で、炎が収まりおき火の状態になると土壌の温度が上がり始めます。

「火」を賢者の斧に

上記の発見とタンザニア南部の別の地域の「伏せ焼」と呼ばれる火入れの技法にヒントを得て、枯れた草や枝葉を集め、そこに軽く土をかぶせ燃やす実験をしてみました(写真③)。こうすると不完全燃焼(炎を上げずにくすぶって燃えること)の状態となり、0~10㎝の深さでは、土壌温度が40~50℃ほどになりそれが数時間続きました。 この技法は、例えば、昼間は土壌の中に潜み、夜になると作物の苗の根元をかみ切るネキリムシと俗称される害虫を防除するのに使えます。作物の病気を引き起こす微生物が潜むとみられる作物残渣(作物の収穫後に残る刈り株や茎葉)をかぶせることにより、それによる害を少なくすることができます。また、チガヤというイネ科の雑草(地下に匍匐茎をもつためその駆除に手間がかかる)は、東南アジアでの畑作や植林で邪魔者扱いされていますが、土壌を5㎝ほど掘り下げてから「伏せ焼」をすることで匍匐茎を根絶することができます。

写真③ 土をかぶせて不完全燃焼させる

私たちは、ともすると「火入れ=土壌や環境に悪い」という先入観を持ってしまいがちですが、それを捨て、「火と土」の関係を詳しく知ることで、賢く「火」を使ういろいろな土壌管理のアイデアが出てきそうです。

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