特集/セミナー報告環境と福祉の統合と社会への定着 ~2020東京大会に向けた取り組み~<基調講演> 2020年東京大会が目指してほしいこと

2017年04月24日グローバルネット2016年12月号

一般財団法人 保健福祉広報協会と、当フォーラムに事務局を置く「社会福祉施設等の環境の取り組みに関する研究会」主催のセミナーが、国際福祉機器展(H.C.R.2016)の関連イベントとして東京ビッグサイトで10月14日に開催されました。

2020年東京大会を4年後に控え、環境と福祉の統合と社会への定着させるためには何をするべきか。

講演内容を紹介します(2016年10月14日東京都内にて)

社会福祉法人恩賜財団済生会 理事長
地球・人間環境フォ-ラム 理事長
炭谷 茂(すみたに しげる)

2012年に開催されたロンドン五輪がレガシー(遺産)を重視したのをきっかけに、最近はそれまでの大会を契機とした成果(レガシー)を継承していくという流れに変わってきています。今年のリオ五輪をいかに東京五輪に引き継ぎ、東京は次の開催地にどのようにバトンタッチするかが重要です。

多様性重視のロンドン
初めて新興国で開かれたリオ

2015年7月、下馬評ではパリの圧勝だと言われる中、2016年の五輪開催地はロンドンに決定しました。招致に当たり、パリは「芸術の都、美のオリンピック」を強調しましたが、ロンドンは移民のほか、障害者や高齢者などが集まる多様な街で、市民みんなの力を結集して大会を作り上げたいと「多様性重視」を訴えたのです。

さらに、ロンドン五輪では「環境」をもう一つの理念として掲げました。つまり、ロンドン五輪の理念は多様性および環境と捉えていいと思います。

そして今年夏、リオ五輪が開かれました。企業などから資金を集め、先進国で大規模に開催するような商業主義的運営にブレーキがかかり、新興国であるブラジルでも簡素にできるということが示された大会だったと思います。

リオではとくにパラリンピックの成功が印象的でした。多くのメディアで以前は社会面に掲載されていたようなニュースもスポーツ面で取り上げられました。パラリンピックもスポーツとして認識されるようになったことに大きな意義があると感じました。

ソーシャルインクルージョン
社会の実現に向けて

昨年、社会福祉法人「太陽の家」の理事長である中村太郎さんをこのセミナーに招き、講演していただきました。太郎さんの父、中村裕さんは「日本のパラリンピックの父」と呼ばれています。

整形外科医であった裕さんは1950年代にパラリンピックの創設者であるルードヴィヒ・グッドマン博士(1899~1980年)が院長を務める英国国立脊髄損傷センターに留学し、博士が単なる医学的なリハビリでない、障害者のスポーツ大会の必要性を訴えるため、パラリンピックの起源であるスポーツ大会を開いたことを知り、帰国後、日本でのパラリンピックの実現に尽力したのです。

パラリンピックの第1回は1960年にローマで、第2回は1964年に東京で開催されました。しかし、それ以降オリンピックとパラリンピックの両方開催は、しばらく中断し、1988年のソウル五輪でようやく再開されました。

今はパラリンピックも単なる福祉から脱却し、一つの国際スポーツ大会として認められています。競技によっては健常者も障害者も一緒に実施してもいいのではないでしょうか。そこにソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の極意があると思います。障害者と健常者を分けるのではなく、地域社会の中で共に暮らすソーシャルインクルージョン社会の実現に向け、五輪が先陣を切るべきではないかと思うのです。

2020年東京五輪で目指すべきもの

2020年の東京五輪は、環境と福祉を二つの大きな理念として開催するべきだと思っています。そしてこれを機会に、東京が環境福祉都市となるよう望みます。

時に環境と福祉は対立します。福祉を増大するためには富を大きくし、そのために環境を破壊しなければならないこともあります。しかし、今後環境と福祉は両立し、互いの相乗効果によって充実させることは可能ではないでしょうか。

私の言う「環境」には文化環境や住環境など、広い意味の環境を含めなければ意味がありません。一方、「福祉」についても、教育の問題、住まいの問題、スポーツの問題など、さまざまな問題を含めるべきだと思います。

2020年の東京五輪は、2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定の推進力としても重要です。パリ協定の内容は、非常に野心的です。先進国においては、温室効果ガスの排出量を現在の80%近く削減しないと達成できないような目標を掲げています。東京五輪では、その目標達成に向け、すべて再生可能エネルギーを使うべきだと思っています。

また、福祉についても、ロンドンおよびリオでの流れをくんで、ソーシャルインクルージョン社会の実現を目指すべきです。私は2年前、ロンドン五輪の開催された地域を訪れ、障害者や刑務所からの出所者が放置自転車や住民から提供された自転車を修理・販売する事業所を見学し、五輪開催後も誰もが地域に参加する社会を目指すというレガシーが残っているのを目の当たりにしました。

私は2020年の東京五輪でもそのような流れが確立し、レガシーとして未来に引き継がれるよう期待しています。

炭谷 茂(すみたに しげる)
社会福祉法人恩賜財団済生会理事長、地球・人間環境フォ-ラム理事長
社会福祉施設等の環境の取り組みに関する研究会会長

1946年富山県生まれ。1969年東京大学法学部卒業後、厚生省(当時)に入る。厚生省各局、自治省、総務庁などを経て、2001年環境省官房長、地球環境局長、2002年総合環境政策局長、2003年7月環境事務次官。日本ソーシャルインクルージョン推進協議会会長、アジア環境社会フォーラム代表などにより社会貢献活動に従事。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著、環境新聞社、2006)、「ソーシャルインクルージョンと社会企業」(編著、ぎょうせい、2004)など多数。

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