2020東京大会とサステナビリティ~ロンドン、リオを越えて キーパーソンに聞く<第6回 第3回公開ブリーフィング>2020 SDGs 東京五輪「持続可能性運営計画第2版」に向けて、企業との情報共有

2017年11月15日グローバルネット2017年11月号

当団体が事務局となり2020東京大会の持続可能性の実現に貢献しようと集まったNGO/NPOのネットワークSUSPON(持続可能なスポーツイベントを実現するNGO/NPOネットワーク)が、9月14日に第3回公開ブリーフィングを開催しました(主催:当団体に加えて、サスティナブル・ビジネス・ウィメン、公益財団法人自然エネルギー財団、SUSPON/協力:NPO法人サステナビリティ日本フォーラム、三菱地所株式会社/助成:平成29年度独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金)。 来年3月までに策定・公表される「持続可能性に配慮した運営計画第2版」に向けて、学識経験者たちが持続可能性配慮施策として何を提言し、それに対応するアクションとして、民間部門や国内NGO/NPOがどこまで準備を進めているのか、その実現のためには各主体がどのように参加することができるのかを議論した公開ブリーフィングには、大会関係者やスポンサー企業、そして関心を持つ市民が参加しました。今回は発表・議論された主な部分を紹介します。誌面に掲載できなかった詳細については、映像や発表資料などが掲載されているSUSPONのウェブサイトをご覧ください。(グローバルネット編集部、2017年9月14日東京都内にて)


ブリーフィング1
持続可能なオリパラ2020の意義

東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
街づくり・持続可能性委員会 委員長

小宮山 宏(こみやま ひろし)さん

21世紀の持続社会の全体像を示す機会に

東京大会の意義は、日本が21世紀の持続社会をこう考えるんだというのを示す機会にすべきだと考えています。ロンドンやリオのように持続社会の要素一つひとつを示すのではなく、全体像を示す機会にすべきです。そのために、モデルプロジェクトや参加の形態について議論すべきだと考えています。

先進国における持続社会の特徴は「飽和」です。都市鉱山といわれる鉄を例に見てみます。日本には自動車が6,000万台あり、鉄は14億t、1人あたり11tで飽和している。中国はすでに1人あたり9tで、あと5年で飽和します。世界で飽和するのが2050年と予測されています。日本では毎年500万台が廃車になり、500万台の新車が売られているのですが、廃車の中には鉄もレアアースなどすべての必要な金属が含まれている。だから飽和というのは量的な経済成長から、質的な経済成長へ移っていくのが必然であると同時に、持続社会の希望なのです。なぜかというと、必要十分な量が都市鉱山にあるからです。これは別の言い方をすれば、21世紀中に自然の鉱山というのはなくなるのです。人類は採掘という行為から解放され、循環させる時代に入っていく。メダルをスマホから作り、競技場をスクラップ鉄から造ることが21世紀の持続社会を示す象徴的なプロジェクトになるのです。

エネルギーはどうか? エネルギー消費は経済成長に伴い減少しています。1973年に200兆円だった日本の国内総生産(GDP)は、今では500兆円と150%増えているのに対して、エネルギー消費は23%しか増えていない。このようにGDPが上がり生活は良くなり、エネルギー消費は減る、これが希望です。去年世界で設置された再生可能エネルギーの発電所は全体の70%、25%が火力発電所、5%が原子力発電所。これが自由主義経済が選んだ結果です。すでに再生可能エネルギーは経済的な競争力を得ており、今後優位性はさらに大きくなっていく。ですから日本が省エネによってエネルギー消費を減らして、再生可能エネルギーでカバーし、なおかつ持続社会を実現するというのは極めて合理的なモデルです。

では、自然はどうでしょう? 半世紀前の東京の隅田川は臭くて花火大会を止めましたが、今や花火大会は復活しました。また、多摩川には毎年鮎が1,000万匹遡上するようになり、世界でも先進的な街である渋谷から20分で行けるような所で鮎釣りができるというのは、世界のメガ都市では東京しかない。

東京だけではないのです。去年私は静岡県三島市の源兵衛川で蛍の群舞を見てきました。50年前は蛍が群舞し、お母さんが洗濯をして隣で子供が遊んでいた。一時期、人々は下水を流し、企業は地下水を大量にくみ上げましたが、これではダメだと動き始めた県庁職員にNPOが続いて、企業も地下水を使った後きれいにして上流に戻すという契約をして、三島に蛍が復活。その結果、観光客は25年間で4倍に増えたのです。自然共生と経済というのは両立するということです。

皆で協力することで絆を復活させるきっかけを

今、絆ということが盛んにいわれるようになりましたが、これは絆が失われていることの逆説だと思います。では絆はどうやったら生まれるのか? 共通の目標に向かって皆が努力したときに生まれるのではないでしょうか? 昔は稲作、その後は会社。テレビや自動車を買いたい、豊かになりたい、と皆が一緒に働きました。では、これからどうするか? 僕は持続社会をつくるという目標に向かって、皆で協力することで、絆も復活していくと思います。地球の持続、社会の持続、人間の持続に向かっていく、このきっかけをオリンピック・パラリンピックで創りたいのです!

全体として持続社会の基本を示すことになるプロジェクトを是非やりましょう! まず都市鉱山からメダルや競技場を造りましょう。悪い伐採などしていない、オリンピック後どうするか循環まで十分考えられた木材で競技場を造りましょう。そしてすべて福島と東北の再生可能エネルギーを使いましょう!

自由な参加型社会も重要です。バリアフリーはもちろんですが、エンゲージメントも極めて重要で、「募集型」のものが中心になるのが参加型オリンピックの基本です。サステナビリティとエンゲージメントは、東京がオリンピック・パラリンピックの開催地を獲得したときの世界に対する約束であり、これをやらなかったら約束を果たしたことにはなりません。(編集部まとめ)


総括
東京都の持続可能性に関する取組みについて

東京都知事(サスティナブル・ビジネス・ウィメン最強顧問)
小池 百合子(こいけ ゆりこ)さん

いよいよ2020東京大会まであと3年となりました。次の2020東京大会というのは、その後のオリンピック・パラリンピックの持続性を占うベースになるものだと思っており、責任は重大であると感じています。

今後の街づくりにもつながる三つのシティづくり

以前から私は三つのシティをつくりますと申し上げています。安心安全な「セーフシティ」、女性も男性も、子供もお年寄りも、障害を持った方やLGBTの方も、みんな輝く東京にしていくという「ダイバーシティ」、「金融」と「環境」の「スマートシティ」と、この三つのシティをつくるということが私の知事選の時からの公約であり、今、一つひとつの項目で肉付けを行っているところです。

「セーフシティ」について、地震やゲリラ豪雨など考えられないような豪雨に対し都の水道局はため池を地下につくっています。今後起こるかもしれないことへの対策にはお金がかかります。何も起こらなければ皆が気付かないことに対するジレンマはありますが、先にきちんと対策を打つという防災の観点で進めなければなりません。

「ダイバーシティ」については、子供も障害者もみんな元気であるために、スポーツというのも一つの大きな観点になり、今回のパラリンピックに照準を合わせることは、これからの高齢社会の街づくりにもつながると考えています。

東京大会後に残したいソフトなレガシー

前回大会の1964年に首都高速や新幹線を残したというハードなレガシーではなく、働き方やバリアフリーにするなどのソフトなレガシーを残すことが、2回目の東京大会の意義付けではないかと思います。

環境面でのアピールポイントは、「水素エネルギー」です。ベストなのは福島で作った再生可能エネルギーを水素エネルギーに変えて東京に運び、選手村で活用することです。都バスではすでに燃料電池車(FCV)を2台購入しています。ヨーロッパでは電気自動車(EV)に替えようとする大きな動きがありますが、水素ステーションの設置場所が確保でき、同じルートで戻ってきて充填する形がとれる都バスのように、移動距離が長いバスやトラックなどでFCVを生かしていくのも一つの在り方ではないかと考えています。

東京大会の環境対策等に使う「東京グリーンボンド」を発行します。自治体では初めてであり、200億円規模となります。

そして、「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」は、都市鉱山で作られた金・銀・銅のメダルを自分の国の選手が持って帰るんだと、世界に対してメッセージ力があるプロジェクトだと思いますが、まだまだ回収しなくてはならない2,000万個には届いていません。事業系の古い携帯電話を集めやすくするために、マニフェストの扱いを若干変えてもらえるよう現在対応をお願いしているところです。

パラリンピックを念頭に置くと、これから加速度的に高齢化が進む東京のバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化に一挙に進めるきっかけになると思います。受動喫煙防止対策を考えており、バリアフリー、スモークフリー、そしてエミッションフリーの三つを目指せるよう対策を講じていきたいと考えています。

知恵を出し合い東京大会を真にサステナブルな大会に

そして、新国立競技場の木材の使用について、各国のNGOからクレームがついたとのことですが、主体は新国立競技場なので国にしっかりとやっていただかないといけません。「金は出すけど口は出すな」みたいなことがないよう、東京都としてもモノはしっかり申していかなければならないと思っています。

お金をかけず、かつサステナブルという非常に困難な道を乗り越えると、新しい世界が開けてくるのかなと思っています。そして東京大会を真にサステナブルな大会にして、世界へのモデルケースとなるように、これからも皆さまと知恵を出し合っていこうではありませんか。(編集部まとめ)


パネルディスカッション
東京大会に向けた持続可能性の取り組みへの貢献と提案 ~各ステークホルダーから

モデレーターの藤野純一さん(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の街づくり・持続可能性委員)は、来年3月までに公表される予定の「持続可能性に配慮した運営計画第2版」について、遅くとも今年の秋までにドラフトを作成し、パブリックコメントを実施する必要があること、同計画の重要な要素である気候変動(カーボンマネジメント)について議論を進めている低炭素ワーキンググループで排出ゼロを目指した削減策(オフセットを含む)を検討中であることを報告した。ロンドン大会350万t、リオ大会450万tという直近2回の大会の二酸化炭素(CO2)排出量を示した上で、東京大会でのCO2削減のために、大会運営の工夫や、施設の設計の工夫、機器の効率化など五つの方策を提案した。最後に、「東京大会は、競技もおもてなしも良かったけれど、『サステナビリティってこういうことなんだ!』といろんな場面で触れて、実感できて、来て良かった!」と言われるような大会にしましょう」と呼び掛けた。

次にスポンサー企業としての立場で、内田光喜さん(アサヒビール(株)経営企画本部環境・ARP室担当課長)が、主力商品である「アサヒスーパードライ350ml缶」にグリーン電力証書を採用している事例を紹介した。2009年5月から対象商品の出荷量と工場の電力使用原単位によって電力量を算出し、その分のグリーン電力証書を買い取るという仕組みで、現在ではその資金の9割が北海道・津別町の間伐材を燃料とする発電事業者に循環しているという。東京大会をきっかけに、ビールを通じてグリーン電力の仕組みを多くの人に認知してもらいたいと内田さんは意気込みを語った。

そして企業3社が、2020年東京大会に絡めた持続可能性の取り組みについて、各社の実績の紹介や提案を行った。まず、星山英子さん((株)スーパーホテル経営品質部部長)は、ホテル業ならではの顧客参加型環境負荷低減活動として「エコ泊」と「エコひいき」という二つの取り組みを紹介した。エコ泊は、自社WEBサイトから予約した宿泊者にカーボンオフセットを付けるというもので、2016年度には約154万泊分、8,493tのオフセットを達成したという。これを東京大会期間中の都内の店舗にあたる約2万4,000室分、約132tのオフセットに取り組みたいと提案した。加えて「復興につながるような福島由来の再生エネルギークレジットを創出してもらいたい」と東京都のリーダーシップに対する期待も語った。

「廃棄物の100%再資源化を実現するために」と題して、鈴木孝雄さん(スズトクホールディングス(株)代表取締役会長)が、「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」に参加した経緯と背景を説明した。同社は「世の中から出るあらゆるモノを再資源化しよう」というコンセプトで、廃自動車や廃小型家電、ビル解体から出る鉄をはじめとする資源約100万tを集め、その85%を再資源化したという実績を持っている。その実績を背景にメダルプロジェクトの入札に参加したが、「国民運動にしようと参加したのに、会社の名前は出せない、コストも負担せよ」と通告されたことへの不満を漏らし、商業主義的なオリンピックのやり方を批判した。

次に登壇した西本利一さん(東京製鐵(株)代表取締役社長)は、再資源化された鉄スクラップを使って鉄鋼製品を製造する電気炉メーカーである同社が、低炭素社会と資源循環にどのように貢献したいかを語った。日本には国内の普通鋼需要の数十年分に相当する13億5,000万tもの鉄スクラップが蓄積しているにもかかわらず、有効利用されておらず輸出に回されているという。また、製造段階でのCO2排出量が高炉に比べて4分の1の電炉鋼材は資源循環だけでなく低炭素社会の切り札として利用拡大を求める動きを紹介し、東京都が全国に先駆けて発表した電炉材を優先する方針を全国でも採用してもらいたいと結んだ。

坂本有希(地球・人間環境フォーラム専務理事、SUSPON事務局長)が、新国立競技場におけるリスクの高い木材調達について国内外の47の団体が声を上げている事例を紹介し、「NGO/NPOからの情報提供を受けとめて、できることばかりではなくて、できないことも情報公開し、NGO/NPOとのエンゲージメント・協働を2020年大会のレガシーにしていきたい」と大会関係者に呼び掛けた。

次の発表者の森澤充世さん(責任投資原則(PRI)ジャパンヘッド)は、ESG(環境社会ガバナンス)投資の現状について紹介した。責任投資原則(PRI)に署名している金融機関は世界で1,700、70兆米ドルを超えており、投資家は企業がどのように社会課題に取り組み、その取り組みを情報開示しているのかに注目している。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年に同原則に署名したのを皮切りに日本でも署名機関が増え、アジアで最大の機関数になっていることが紹介された。

最後に、梅原由美子さん(Value Frontier(株)取締役、サスティナブル・ビジネス・ウィメン)は、東京大会の持続可能性施策実施を前進させる方策についてIOC(国際オリンピック委員会)から得た回答について紹介した。スポンサー以外の企業は参画していることを公表できないが、持続可能性施策実施のための仕組みづくりについては前向きな回答だった。これを受けて国または東京都が公的な基金を作ることはできないかと梅原さんは提案した。

 

パネルディスカッションでの発表や意見交換はまとめられ、組織委員会に対して東京大会における持続可能性の意義の徹底共有と持続可能性部の組織内位置付けの改善・向上、新たなマネタイズの仕組みの構築など4項目からなる提言の形で提案されている。SUSPONでは、組織委員会、東京都などスポンサー企業など大会関係者との連携を進めていく予定だ。

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