特集:目指せ 再生可能エネルギー100%~企業、大学、自治体の取り組み再生可能エネルギー100%地域の実現をめざして

2018年01月16日グローバルネット2018年1月号

地球温暖化を食い止め、持続可能な社会を実現するため、化石燃料や原子力に依存した従来型のエネルギーシステムではなく、風力・太陽光・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーには資源ポテンシャルがあるとして、再生可能エネルギー100%への移行を目指す企業や地域コミュニティが世界的に相次いでおり、国際的なイニシアチブも構築されている。一方、日本国内では、エネルギーの転換については既存の産業構造にも大きく影響することから、産業界を中心にその動きは依然鈍い。しかし2016年11月に発行したパリ協定を踏まえ、一部の企業、自治体、大学では中長期計画などに温室効果ガスの排出ゼロを目標として掲げるなど、独自の取り組みを始めた。その内容を紹介する。

長野県環境エネルギー課

2011年3月の東日本大震災および福島第一原子力発電所事故による国全体におけるエネルギーをめぐる情勢の変化や、県内で顕在化しつつある地球温暖化の影響の可能性などを踏まえ、2013年2月に、地球温暖化対策と環境エネルギー政策を統合して推進する「長野県環境エネルギー戦略~第三次長野県地球温暖化防止県民計画~」を策定しました(計画期間2013~2020年度)。

基本目標

持続可能で低炭素な環境エネルギー地域社会をつくる(経済は成長しつつ、温室効果ガス総排出量とエネルギー消費量の削減が進む経済・社会構造を有する社会の実現)ことを基本目標とし、表のとおり区分別に短期・中期・長期の目標を設定しています。

表 長野県の区分別 短期・中期・長期目標

政策の体系

以下の三つの方向に沿って政策を構築しています。

  1. エネルギー需要のマネジメント(エネルギー需要を減らすことと特性に応じて適切に使うこと)
  2. 再生可能エネルギーの利用と供給を拡大(再生可能なエネルギーによる発電の拡大、再生可能な熱・燃料を拡大)
  3. 総合的な地球温暖化対策を推進(廃棄物の発生抑制や森林整備などによる地球温暖化の抑制、適応策)

これまでの取り組み

2013年3月に長野県地球温暖化対策条例を改正し、一定規模以上の温室効果ガスを排出する大規模事業者に計画書や報告書の提出を義務付ける「事業活動温暖化対策計画書制度」や、建築物の新築や購入の際、建築主に対して環境エネルギー性能と自然エネルギー導入の検討を義務付ける「建築物環境エネルギー性能・自然エネルギー導入検討制度」を導入しました。また、県の事務事業に伴い排出される温室効果ガスについては、第5次長野県職員率先実行計画(計画期間:2016~2020年度)において、ESCOの活用、照明のLED化など、県有施設の省エネルギー化に取り組んでいます。再生可能エネルギーについては、地域主導型の起業・事業化を支援する具体的な施策として、地域金融機関と連携して資金調達の円滑化を図る「自然エネルギー地域発電推進事業」や、FITの対象とならない熱の利活用に係る初期投資負担を軽減する「地域主導型自然エネルギー創出支援事業」などの助成制度を創設し、地域課題の解決や地域経済の活性化に資する再生可能エネルギー事業に対する支援を行っています。

なお、地域の立地や周辺状況によっては景観や環境への影響が懸念されることから、2016年6月に「太陽光発電を適正に推進するための市町村対応マニュアル」(2017年2月改訂)を公表し、地域と調和した再生可能エネルギー事業の促進を図っています。

一方、長期的に避けられない気候変動による影響に適応するため、産学官の連携により2014年度に「信州・気候変動モニタリングネットワーク」を、2016年度に「信州・気候変動適応プラットフォーム」を設立し、気候変動の観測から適応技術などの開発に向けた情報共有・検討体制の整備を行いました。

また、再生可能エネルギー100%地域の実現に向け、先進地域の知見を学ぶため、2017年9月、長野市で「地域再生可能エネルギー国際会議2017」を環境省と「イクレイ(ICLEI)―持続可能性をめざす自治体協議会」とともに開催しました。日独自治体による首長サミットにおいては、再生可能エネルギー100%地域を目指し、新たな取り組みと連携の行動を開始する「長野宣言」が採択されたところです。

進捗状況

2001年度以降の県内総生産と県温室効果ガス総排出量の推移は、2013年度の県内総生産が2001年度比で13.9%増加する一方、県温室効果ガス総排出量は同5.9%減少しており、全国と比較しても、当県は持続可能な経済成長と低炭素化の分離(デカップリング)が進んでいます(図1)。

図1 全国と県内の経済成長と温室効果ガス排出量の関係(2001年度=100)

県内の2013年度の温室効果ガス総排出量は1,542万t-CO2で、基準年度である1990年度比0.8%と増加していますが、2010年度以降、減少傾向となっています。 また、部門ごとにみると、基準年度と比べ、産業部門とCO2以外(フロン類など)を除く運輸、家庭、業務部門で総じて増加しています(図2)。

図2 県内の温室効果ガス総排出量の推移

エネルギー消費量でみるエネルギー自給率は、電気を中心とした自然エネルギー導入量の増加により上昇傾向が見られますが、2020年度の短期目標の達成に向けては、最終エネルギー消費量と再生可能エネルギー供給量の双方で取り組みを加速する必要があります(図3)。

図3 最終エネルギー消費量・再生可能エネルギー供給量の推移

今後の展開

現在、戦略の中間見直しを行っていますが、これまでの成果と課題を踏まえ、再生可能エネルギー100%地域の実現を目指し、さらなる省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの普及拡大に取り組んでいきます。新たに、既存建築物の環境エネルギー性能の簡易診断やリフォーム助成による省エネ改修の促進、中小事業者への簡易診断の実施などによるエネルギーマネジメント支援、ソーラーマッピング(建築物の太陽光発電のポテンシャルを公表して、電気自動車との組み合わせなど他分野と連携することで所有者による発電を促進する)の導入などに取り組みますが、これらが県内に浸透し、発展していくことを期待しています。

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