ホットレポート地球規模で考える食品ロス削減

2018年02月16日グローバルネット2018年2月号

環境ジャーナリスト
服部美佐子(はっとり みさこ)

スーパーの売れ残りや家庭での食べ残しなど、食べられるはずの食品が廃棄されてしまう「食品ロス」。日本の食品ロスは約621t(2014年度推計)で、これは世界の食料援助量320万tの2倍、都民が1年間に食べる食料の量に匹敵する()。どうすれば食品ロスを削減できるか、昨年11月に行われた「食品ロス削減シンポジウム」(共催:東京都、国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)、日本生活協同組合連合会)をレポートしながら考察したい。

国民1 人1 日当たり食品ロス量は、おおよそ茶碗1 杯分のご飯の量に相当
(出典:農林水産省)

飢餓と飽食が混在する世界の食料事情

「世界には十分な食料があるにもかかわらず、約8億1,500万人(2016年度)、9人に1人が食料不安の状況に置かれています。とくにアフリカでは3人に1人が栄養不足です」。基調講演に立ったンブリ・チャールズ・ボリコ国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所長は流暢な日本語で口火を切った(写真)。

講演するンブリ・チャールズ・ボリコFAO駐日連絡事務所長

1945年に設立されたFAOは130ヵ国以上に事務所を有し、2,000以上の現場でプロジェクトを展開。資金提供を行う国連農業開発基金(IFAD)、食料援助を行う国連世界食糧計画(WFP)とともに飢餓や食料不安の撲滅を掲げて活動している。

徐々に下がっていた栄養不足まん延率だが、2016年に上昇、アフリカでは2015年25%から2016年27.4%と深刻だ。対照的に中国をはじめとする新興国では20年足らずの間に食肉の消費量が4倍に増加し肥満による健康障害が常態化するなど、世界の食を取り巻く状況は二極化が進んでいる。

食料の分配ではなく自立した農業

農業生産も不安定な状況にある。気候変動など自然災害に加え、戦争や内戦という人為的災害も影響しているからだ。急激な食料価格の変動が蜂起や抗議デモを引き起こす国も後を絶たない。近年トウモロコシや大豆がバイオ燃料に使われ、食べる分が減っていくという新たな不安要素もある。

「紛争の影響を受けた国々はミレニアム開発目標にある栄養不足人口の割合半減を達成できていない」とボリコ氏は顔を曇らせる。同目標は国連ミレニアム・サミット(2000年9月)で採択されたミレニアム宣言(MDGs)に基づいて定めた目標で、「極度の貧困と飢餓の撲滅」は1990年を基準に2015年まで飢餓に苦しむ人口の割合を半減させるというものだ。

状況は厳しいが、ボリコ氏は「緊急時の食料供給はやむを得ない」としつつも、「それではいつまでも依存することになってしまう。自分たちが農作物を作り、農業で経済的にも自立していかなくてはならない」と持続可能な農業の重要性を強調する。

先進国と途上国で異なる食品ロス

そんな食料生産を脅かす要因の一つが食品ロスや廃棄だ。ボリコ氏は「食料総生産の約3分の1が食品ロスや廃棄により、食べられていない」と語気を強める。食品ロスは途上国でもみられるが、生産から小売り段階で廃棄される割合が大半だ。ボリコ氏はパキスタンの下水路近くの露地に積まれたバナナの写真を示しながら「道路が整備されていないため運搬中に腐ったり、電気がなくて保管できなかったりするケースが多い。もともと生産性が低く廃棄は死活問題」と話す。

一方、先進国は消費段階のロスや廃棄の割合が3分の1、北アメリカでは半分近くを占める。ボリコ氏は「食品ロスとは食料生産のために消費された土地、水、エネルギー、労力、投入資材をすべて無駄にする。食品ロスと廃棄は温室効果ガス発生の要因で中国、アメリカに次いで3番目、食品の焼却や埋め立て、腐敗が温暖化に悪影響を及ぼしている」と指摘する。

SDGsとしての食品ロスと廃棄削減

ところで食料損失の減少は、2015年9月の国連サミットで採択されたアジェンダに記載された2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)の重要なテーマだ。SDGsは17の目標で構成され「食品ロスや廃棄削減」は2.飢餓をゼロに、12.つくる責任つかう責任、13.気候変動に具体的な対策を、に相当する。

シンポジウムの登壇者もSDGsに言及した。東京都環境局の谷上裕氏は「2020年に向け、昨年9月食品製造業、卸業、小売業、消費者団体が共同で食品ロスに取り組む『東京都パートナーシップ会議』を設置した」と報告。防災備蓄品のフードバンク(流通できない食品を企業から譲り受け困窮世帯などに寄付)への寄贈やリサイクルなどのモデル事業を通じて東京方式を確立し、2030年に食品ロス半減を目指すという。

東日本大震災を機に設立された国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)の中川大輔氏はヤマキ(株)がだしの抽出殻を「めんつゆ」に再利用した事例などを紹介し「収益につながることで継続して取り組める」。日本生活協同組合連合会の板谷伸彦氏は「生協の理念はSDGs目標に近い。受注の仕組みが食品ロス削減に寄与している」と話した。

食品ロス削減の要は消費者行動

どうすれば食品ロスを削減できるのか。パネリストのコメントから紹介する。「フランスでは大手スーパーの食品廃棄を禁止する法律(2016年制定)ができたが、その状況と日本での法制化は?」という質問に、ボリコ氏は「法律は売れ残り食品を廃棄してはいけないというだけでなく、ボランティア団体と契約して寄付すること、違反すると上限900万円か2年の禁固刑が課せられる」と解説。日本の法制化に言及はなかったが、一考の余地はあるだろう。

「流通段階での食品ロスの状況、課題、対策は?」という質問には、生団連の中川氏が「競争がある中、小売りはクレームを恐れて欠品が出せない。『3分の1ルール』の緩和も検討しているが新しい商品を求める消費者ニーズがあり進んでいない」と苦言を呈す。

食品業界では賞味期間を3分割、最初の3分の1の期間までに小売りに納品、小売りは次の3分の2までの間に売り切り、売れなかったものは棚から撤去するという「3分の1ルール」が定説だ。納品期限を越え、メーカーへ返品された食品の大半は廃棄されてしまう。

では消費者行動を変えるにはどうすればいいか。松本市が始めた「残さず食べよう!30・10運動」(宴会の初め30分と終了前10分は自分の席で食べる、家庭では毎月30日を冷蔵庫クリーンアップデーとして消費期限の近いものを使い、10日はもったいないクッキングデーとして野菜の皮などを使って料理し食べ残しを減らす)は広がりを見せており、昨年11月同市で「第1回食品ロス削減全国大会」が開催された。賞味期限が切れていない缶詰やレトルト食品など家庭で余っている食べ物を持ち寄りフードバンクなどに寄付する「フードドライブ」を行う自治体も増えている。

食品ロスは私たちの行動の結果である。「たった一口ぐらい残してもいいんじゃないか、でも何十億人が同じことを考えていると想像してみてください」というボリコ氏の言葉をかみしめたい。

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