特集/持続可能な地域づくりを受け継ぐ地域ぐるみ環境ISO研究会
「南信州いいむす21」の成果と課題

2017年04月07日グローバルネット2016年11月号

多摩川精機株式会社 総務部環境エネルギー管理課 沢柳 俊之(さわやなぎ としゆき)

飯田市 環境モデル都市推進課ISO 推進担当 小林 敏昭(こばやし としあき)

 

環境問題は「点」ではなく「面」で

「新しい環境改善活動による地域文化の創造」を活動理念とする民間主導のボランタリー組織である「地域ぐるみ環境ISO研究会」が長野県飯田市で発足したのは1997年。気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催された年で、発足時は「地域ぐるみでISOへ挑戦しよう研究会」の名称で環境改善活動が動き始めた。 

「環境問題は、『点』でなく『面』で行う地域活動。一事業者がそのサイト内だけで行う取り組みでは、本来の環境問題の解決にはならない」。この趣旨に賛同した飯田市内にある6事業所は、その事業所、自治体の枠を超えて連携する“ぐるみ運動”の展開によって地域全体をレベルアップさせようという理念を共有し、「どこに勤めていても家に帰れば皆、市民。環境改善が家庭レベルで伝われば万を超える草の根運動になる」と熱い思いを活動に注いだ。 

折しもバブル経済が崩壊し、地方にある末端企業の行く末が不透明になっていた時期。関係者の間には「ものづくりの体質を変え、強くしないと生き残っていけない」という危機感があり、見いだしたキーワードの一つが「環境」だった。 

当初は緩やかなボランタリーな研究会組織として、事業所の相互見学や情報交換会などを通じ、環境マネジメントシステムの国際規格ISO 14001認証取得の地域での普及・拡大などを図ってきた。さらに環境改善の実務に直接関わる実務者の会議を定期的に開催し、研究会参加事業所の相互研さんを強力に進めてきた。 

こうした中、2000年に飯田市役所が自治体として長野県下で初めてISO 14001を認証取得し、研究会発足当時のすべての事業所がISO認証取得を達成した。研究会参加事業所も徐々に増え、もっと積極的に社会貢献に取り組もうとする会員の提案を受けて、研究会の名称を現在の「地域ぐるみ環境ISO研究会」に発展させた。2000年7月の再出発だった。

研究会のあゆみ

「南信州いいむす21」の取り組み

研究会の活動によりISO 14001は地域内の企業に普及したものの、認証取得の取り組みに多くの資金や労力を必要とするなど、ISO自体が持つ課題が浮き彫りになってきた。また、海外に販路を持つなど広範な営業活動をする事業所には価値があっても、地域内だけで仕事をしている事業所や個人事業所にはハードルが高く、認証取得のメリットが少ないことから、環境マネジメントシステムの本質を洗い出す必要性が高まった。 

そこで、ISOの基本的な仕組みや考え方を踏襲しながらも、地域固有で、しかも小規模事業所にも取り組める簡易型の環境改善システムを構築・運用しようと検討を重ね、2001年10月に飯田版環境ISO「南信州いいむす21」が生まれた。「いいむす」の名は、環境マネジメントシステムの略称「EMS」を呼び変えたものだ。 

「南信州いいむす21」の普及に当たっては、飯田市と3町14村(2001年当時)で構成する行政組織「南信州広域連合」が研究会と連携し、環境改善活動に取り組む事業所の支援や審査、登録証発行に当たる体制を整えた。 

2002年3月に第一号の認証を発行したのを皮切りに、現在では60事業所が認証取得を果たし、そのうちISO 14001と同等の審査基準を使用するが、より安価に取得できる認証書「南信州宣言」は4事業所が取り組んでいる。 

自らの発想と工夫で生み出した「南信州いいむす21」は、2008年には長野県の建設工事入札参加資格審査の新客観点数に加点されるなど、ISO 14001に代わる新しい地域ブランドとして確実に根を張りつつある。

高まる評価にも「道半ば」の実感

研究会のこのような「点から面へ」の活動が評価され、2000年に長野県環境保全協会の「信州エコ大賞」、2003年に環境省の「地球温暖化防止活動環境大臣賞・対策活動実践部門」、2004年にフジサンケイグループの「地球環境大賞・環境市民グループ賞」、2015年には、ムトス飯田推進委員会の「ムトス飯田賞・特別賞」を受けるなど、数々の評価をいただいた。 

研究会は、現在は28事業所(表)、従業員数で約7,000人が登録する大きな輪となった。 

ISO 14001の規格改訂を受け、2004年12月および2016年2月には研究会主催でいち早く合同研修会を開催し、改訂規格に合わせた各事業所の移行の取り組みをスムーズに進めた。 

また、2005年の京都議定書発効を期に、ノーマイカー一斉行動週間、環境の日を記念した一斉行動週間、夏の一斉行動週間、秋の一斉行動週間、冬の一斉行動週間などを展開し、長野県環境保全協会飯田支部など地域内の組織や事業所と連携し、マイカーの使用の制限や家電製品の使用制限についての取り組みなど環境に対する取り組みの輪を広げて、現在も継続実施している。 

飯田市が「環境モデル都市」の指定を受けたことを契機として、2010年に温室効果ガス削減のための「いいこすいいだプロジェクト」を組織し、省エネ活動の支援を開始した。直後に発生した東日本大震災(2011年3月)に端を発した全国的な電力不足に対して、研究会代表者会で「省エネ取り組み宣言」を採択し、参加事業所が独自で省エネ活動に取り組むことを確認し、実行した。 

その他、2週間に1回程度発行している「ぐるみ通信」で活動の情報発信を行い、相互内部環境監査、地域ぐるみ環境講座の開催などに取り組んでいるが、まだまだ、目に見える大きな変化は生まれてきていない。環境改善活動は、もっと長い時間をかけてじっくり取り組む地道な挑戦である。表彰を受けるなど華やかな話題が取り上げられるものの、本質の部分は道半ばである。

成果と課題

研究会の活動によって参加事業所間の交流が生まれ、地域にある事業所の連帯感が高まったこと、そして、会議に直接出席する実務者(従業員)間で「新しい仲間意識」も芽生えてきたことは確実な成果である。また、「まだ道半ば」ではあるものの、環境改善の取り組みがこの地域に徐々に広がっていることは、少なからず研究会の活動も寄与していると自負している。 

しかし、課題も山積している。研究会活動をしっかり支える事務局体制の強化、「南信州いいむす21」の取り組みの有効性を生み出すための審査員の資質・人数の確保、事業所内の活動から家庭での活動への展開等々。環境マネジメントシステムの根底にあるアプローチの基礎は、PDCA(Plan-Do-Check-Act)であり、終わりなき進化が求められ、同じ事をしていては、すぐマンネリ化(停滞)する。常に新しい仕掛けが必要であり、その分岐点が20年という節目の今である。 

気候変動枠組条約締約国会議は、研究会の発足時の「京都会議」(COP3)から昨年の「パリ会議」(COP21)と重ねられ、京都議定書に代わる新たな国際枠組みである「パリ協定」が発効した。歴史的な国際合意に基づき、脱炭素社会の実現を目指す取り組みが始動する。そのような時代の変わり目で、地域ぐるみ環境ISO研究会の活動も今後、持続的に発展し続けることが求められている。

地域ぐるみ環境ISO研究会 参加事業所一覧(50音順)
(2016年10月31日時点)
事業所名 業種
㈱アイパックス 紙製容器製造業
㈱アース・グリーン・マネジメント 廃棄物処理業
旭松食品㈱ 食料品製造業
飯田市役所 地方自治体
飯田商工会議所 経済組合・団体
飯田信用金庫 銀行・信託業
イワタニ長野㈱飯田支店 電気・ガス・水道業
TDK庄内㈱飯田工場 電気機械器具製造業
井坪設備工業(有) 設備工事業
エコトピア飯田㈱ 建設材料製造業
おひさま進歩エネルギー㈱ 電気・ガス・熱・水道業
オムロンオートモーティブエレクトロニクス㈱ 飯田事業所 電気機械器具製造業
化成工業㈱ プラ製品製造業
木下建設㈱ 総合工事業
神稲建設㈱ 総合工事業
㈱光和 葬祭業
シチズン時計マニュファクチャリング㈱ 電気機械器具製造業
多摩川精機㈱ 精密機械器具製造業
中部電力㈱長野支店飯田営業所 電気業
㈱トーエネック 飯田営業所 設備工事業
夏目光学㈱ ガラス製品製造業
南信共同アスコン㈱ セメント製品製造業
㈱八十二銀行飯田支店 銀行・信託業
㈱原鉄 建設機械の販売、修理、レンタル業
㈱マエダ 廃棄物処理業
三菱電機㈱中津川製作所飯田工場 電気機械器具製造業
盟和産業㈱ プラ製品製造業
吉川建設㈱ 総合工事業

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