つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す 第12回「つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す」座談会

2018年06月15日グローバルネット2018年6月号

東京都市大学特別教授、地域循環共生圏の構築に向けた有識者会議委員長
涌井史郎さん
滋賀県東近江市森と水政策課(地域循環共生圏構築検討業務実証事業実施自治体)
山口美知子さん
環境事務次官
森本英香さん

中央環境審議会の提言「持続可能な循環共生型の社会の創造」(2014年7月)を受け、環境省が事務局となってスタートした「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクト。活動は全国に波及してさまざまな取り組みが展開されている。プログラム推進のカギになっている3人から、4年目に入った活動の成果、課題についてうかがった。

グローバルネット編集部:「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトが始まって3年が経ちました。全国10ヵ所で実証事業が行われています。将来を見据えた新しい国づくりにつながる事業という思いから、本誌で続けている連載も12回の節目を迎えました。これまでの活動を振り返り、今後の取り組みについての展望をお話しいただきたいと思います(2018年4月19日、東京都内にて)。

●第五次環境基本計画の目玉:地域循環共生圏を築く

森本:第五次環境基本計画が閣議決定され(4月17日)、そこでの目玉が「地域循環共生圏」です。今までの日本の成長のパターンに対するアンチテーゼ。「大きく」「たくさん」消費することが“是”の世界でしたが、これからは地域資源をベースに上手に循環することで豊かに暮らす社会の構築を提唱しています。

実証事業を東近江市など全国10地域で2年間進めてきました。地域循環共生圏づくりを「持続的」に進めるには「経済性の確保」、「人材育成」、「全体を支えるプラットフォーム」という三つが必要です。東近江市では「環境円卓会議」というプラットフォームを作り、人を育て、「東近江三方よし基金」という経済基盤を作って活動していただいています。こうした優れた取り組みをフィードバックして環境基本計画に位置付けました。今後、環境省としてきちんと政策化したいと考えています。

編集部:3月に10事業の報告会がありました。涌井さんは何箇所か現地にも行かれたそうですが、手応えをお感じになりましたか。

●廃県置藩で知る地域循環システム

涌井:10事業の成果を拝見し、手探りながらも内発的に自分たちの地域を考えていこうという取り組みに非常に感動を覚えました。今までは資本とかライフスタイルといったものをすべて中央にフォーカスして、それをどう地域に持ち帰るかという国土政策があったので、自分たち自身で土地に誇りを持って土地の宝物を磨き、そこでより良い暮らしを求めていこう、と呼び掛けてもそれぞれが手探りになることはやむを得ない。皆さんがそれを自覚しながら動き始めたところに大きな価値があると思います。

手探りをもう少し続けていくことがすごく大事で、多様なステークホルダーがどうやったら協働できるのか、ということを模索する。これに一番重要なポイントがあったのではないかと私は高く評価しています。

必ずしも成長が幸せだと考えないで、成熟にこそ幸せのヒントがある。地域で自立的にさまざまな自然資源を利活用しながら再生循環のシステムを作り出す以外に方法はない。グローバルに考えてローカルにしっかり対応していくグローカリズムを掲げ、いかにも経済とは無縁であるかのように見えながら、実はそれこそが経済のけん引役になるという可能性が非常に強い。

私は「廃県置藩」と言っています。江戸時代は鎖国をして、同時に藩に経済的自立を促していた。コメ以外の産品を得るために各藩は自分の所の自然資源を磨き上げ、どうやって産業化するか懸命になっていたのです。そこで知恵を働かせたところが、実は表高というか、何万石というコメの石高を超えた経済収入を手にしていた。地に足が着いた、正に自然共生の地域循環のシステムをどう作っていくのか、そのメカニズムがわかってくると思います。

●地域消滅を食い止める森里川海連環の発想は優れた指針

涌井:地域が消滅しかかっているのです。それがスーパーメガリージョン構想(国土交通省が進めている高速交通ネットワークの整備)という、経済成長を維持するため、モビリティを活発化することにより、労働生産人口をできるだけある一定の個所に集めて、経済の活性化を図り、GDPの落ち込みを防ぐ構想です。これがリニア中央新幹線などで言われています。

その時にストロー現象にさらされた地域がどうやって誇りを持って生き残っていくのか。その戦略がないと繁栄する地域と取り残される地域、消滅する地域が出てきてしまう。そうすると日本の自然は人が入って手入れをし、人手が掛かった自然ですから、防災上の問題や生物多様性が後退し、地域そのものが生きていけなくなる。

国土全体を考えていく上で、森里川海の連環、地域循環共生圏の発想は極めて優れていると思います。これはひょっとすると変な方向に偏りがちな日本を、きちんとローカルに目を据えて、その戦略を指し示す大きな指針になるのではないかと思います。

●環境省の実証事業が地方行政の縦割りに風穴を開ける

山口:東近江市では、琵琶湖環境科学研究センターの内藤正明センター長に何年も前から足を運んでいただいて、持続可能な地域を本気で作ろうと、共感した地域の皆さんとさまざまな活動を起こしていました。しかし、市の全体の方針として取り組みましょうと位置付けられたら良かったのですが、行政の縦割りの中ではどうしても「持続可能な社会づくりは環境の話」となり、環境に対して地方自治体が持っている狭いイメージからなかなか抜け出せなかったのです。

環境と経済と社会を分断せず統合的にアプローチして、地域を持続可能にしていくことがこれからは必要だと、環境省がプロジェクトを立ち上げ、それに私たちが手を上げて実証事業に採択されたこと自体が一番うれしかったです。

財政の話、高齢化、人口減少、子供の貧困などの社会的な課題についても環境部で考えるべき、と国が言ってくれたことが実はとても大きかったのです。環境省のこういう考えの下に支援をもらいながら、東近江市で実証事業をやれているということは、仕事の領域でいうとなかなか理解しにくかったのが今、環境部でやりやすくなっているということなのです。

多様なセクターがまちづくりに参加してくれることが重要なので環境円卓会議を立ち上げ、東近江三方よし基金も去年の6月に法人化することができました。実際に「そんな基金ができたのなら」と寄付を検討する企業や経済団体も出てきており、基金のお金の使い方について「見える化」する段階に入っています。

森本:実証事業に先立つ現状把握として地域経済循環分析を東近江市にも実施してもらいました。この作業はいろいろなセクターや部署の理解を得る上で役に立ちましたか。

●地域経済循環分析で自分の市の実態を把握

山口:地域経済を分析すること自体が初めてだったので、役所の中で勉強会を始めたのですが、声を掛けたら、若手中心に財政や総務などいろいろな部署から20人以上が集まったのです。岡山大学大学院の中村良平先生の地域経済分析の本を読みながら地域経済の重要性、分析方法を勉強し始めました。そこに環境省から地域経済の循環分析を全国で実施する動きがあり、東近江市でも計算してみてはどうかと話がありました。地域経済分析を通じて地域の事業者を見る目を職員が持ち始め、東京に本社のある大手企業が来るより、地元の企業が始めるということに意味があると気づいたのは大きかったと思います。

東近江市は立地が良いので大手企業が多く、働く環境には恵まれています。しかしそれが50年、100年続くかどうかは問い続けなければいけないと思っています。そうした企業がとどまっている理由には、地元との関係性や歴史的な背景、自然環境などがあり、それは私たちにとっても貴重な地域資源だと思います。そうした関係が希薄にならないよう、地元の方々と共有し直す作業はしたいと思っています。

涌井:東近江市を含めた滋賀県に多くの企業が進出しているのは豊かな水と良質な空気があるから。それがなければここに工場が立地している理由はないでしょう。だからこれからの企業は、単に工場出荷額だけでなく、実はうちの事業はこういう環境を大事にして、その環境の総和の条件の中で製品を生み出しています、というトータルでの評価を求めるようになります。今までの大きくて重たいものを効率良く作るという産業形態から明らかに変わり始めているのです。

編集部:山口さんから、うまくいっていることを伺いましたが、課題や悩まれていることはありませんか。

●若者と地元の中小企業をつなぐ仕事も

山口:東近江三方よし基金は、地域のお財布です。今はまだお財布ができただけの状態ですが、どんな目的を持つかということを見える化する作業がとても重要だと思っています。でも地域の皆さんの中に、持続可能な地域にするためにやりたいことはすでにあるので、そういう情報を集めて見える化する作業を進めたいと思っています。

例えば、イヌワシがすむ森を守る「鈴鹿の森おこしプロジェクト」があります。その森から得られる資源をどのように活用して地域で豊かな暮らしを実現していくのか、ということを考えたいと思っている人たちがプラットフォームに集まって、具体的なプロジェクトを決める動きが始まっています。私たちは地域の皆さんや企業の方に会って、こういう地域にしたい、こういう森にしたい、だからこういう協力をいただきたい、と営業に回ることができると思っています。

そしてもう一つテーマにしているのが若者で、社会になじめない、仕事が続かない、引きこもる、そういう若者がいる一方で、地元の中小企業からはハローワークに求人を出してもなかなか人が来ない、来てもすぐに辞めてしまうという担い手不足の話も聞こえてくるので、そこをつなげられないかと考えています。

森本:そういう人たちがプラットフォームに集まり活動することで、事業や人材のシーズ(seeds)が育ち、つながればいい。

必要な人材も多様です。皆に踊ってもらうよう仕掛ける人(仕掛人)、走り回って自ら作る人(ベンチャーの社長)、踊り方を教える人(アドバイザー)など人材の多層性を確保する。そうした人材を発掘しつなぐのが肝だと思います。

●地域の現実をボトムアップで積み上げていくアプローチが大切

涌井:計画論にしても政策のシステムにしても、今までは上位から下位へというアプローチだったと思うのですが、行政の現場や地域の人たちはどうしたら自分たちの差し迫った現実から、中央へさかのぼりながら窮状を訴えたり、うまいシステムが得られるのかと努力をしてきたのです。

もうそういう時代ではないのです。つまりローカルにこそ、現地・現場にこそ、現実があって、そこから天蓋のような国の戦略があるものと、自分たちの現実をどのようにマッチングさせるかというアプローチだと思うのです。ところが、上流から下流へ流れてくるという一連の経験を200年近く続けてきたわけだから、下流から上流へどうやって遡上していくか、というアプローチに慣れていません。だから、そういう意味では世の中が変わってきた。

自分たちの現実をベースにして、最終的な戦略目標が達成できればそれでいい、という割り切りをどのように地元の人たちが持てるかということが最大の課題ではないかと思います。上からこういう政策なんですよ、と下ろしてくると、地域が身を固くしてしまって自在性を欠いてしまうのです。しかし、自分たちのところにこそ実は意味があり、それを積み上げていくことが非常に大事なのだという考え方に地域の人材を変えていくことが大事だと思います。

編集部:山口さんから、地域の人たちは持続可能な地域をつくるために何をすればいいかわかっている、というお話がありましたが、そんな人が私の周りにいるかと心配でもあります。

●婚活もCO2削減につながると意味付け

山口:持続可能な社会をつくりたいからやっている、と思っている人はたぶんほとんどいないと思いますが、現場で現実に直面すると、その解決のためには持続可能な選択をせざるを得ないのです。

地元で結婚できない若い子が多いので、ある女性が婚活事業を始めていました。独り暮らしをしていた人が結婚して、田舎なので親と同居することになる。単身で住むよりも家族で集まって住む方がエネルギーも少なくて済む。ということは、あなたのやっている事業はもしかしたら二酸化炭素(CO2)の削減にものすごく貢献しているかもしれないですよね、とその女性に話したことがありました。

すると、「そんなことは考えたこともなかった。結婚して親と同居するということにはいろいろな意味があるのですね」と言われました。それまで「田舎で婚活なんてやる必要はない」と言われたこともあったそうですが、いろいろな意味付けをして、これはすごく重要なことだと言ってもらえるのは、単純にうれしいと言うのです。あとは、やはり行政だけではできないことが増えている、と言うところからしか始まらないなと思っていて、「でも何とかしたいのです。だから一緒に考えてもらえませんか」と話すようにしています。

●お祭りは平時の防災訓練、祠は過去の災害の記録

涌井:僕は「祭りは平時の防災訓練」と言っています。地域独特の祭りが生まれたというのは、そこに生じる自然災害に対しての一番の備えを、祭りという形で表現している、と思っているんです。東近江市にもみこしを山の上から落とす祭りがありますね。あの起源なども調べてみると、どうもそういうことらしいのです。だから地域が自然と共生してきた歴史を皆で共有することがすごく大事ではないかと思います。祭りは実はコミュニティの象徴になっているのです。

それから、あちこちにある祠などを調べていくと、過去の災害のことが記されているものもあって、実は地域の自然災害の脆弱性の記録が散りばめられているのに、その意味を知ろうとしないと、地方が大切と言いながらも結果としてはその地域から浮いてしまい、地に足が着いた話ではなくなってしまう。そこをどうやって皆で自分の地域をもう一度知るかがすごく大事ではないかと思います。

●森里川海プロジェクトにつながる意味付けの大切さ

森本:おっしゃる通りです。僕らの仕事の方向性のヒントをいただきました。婚活が持続性とどのようにつながるか。祠が実は防災とつながる。「物」は見えていても、その「物の意味」が見えていないということがあって、「物の意味」を顕在化させることが「持続性」や、森里川海という地域循環につながるということだと思います。

そういったつながりが明確になると、それを応援すること、例えば東近江三方よし基金が活用される環境作りを政策化できます。多様な活動の中でどれが森里川海という循環に役立つのか、という判然としない場合に、歴史や文化、あるいはコミュニティの在り方まで掘り下げると、立派に地域循環のコアであることがわかってくる。こういうことはとても大事ですし、僕らのこれからやるべき仕事だということがよくわかりました。

●なんでおじいさんは山へ柴刈りに

涌井:僕はよく、子供たちに「なんでおじいさんは山へ柴刈りに行き、おばあさんは川へ洗濯に行くのか」と尋ねます。「世界初の持続的環境教育」と言っているのですが、それはおじいさんが山へ柴刈りに行っているのではなくて、おじいさんのように足腰が弱い人でも日常的に裏山の、里山の手入れをしなければ、その山が荒れてしまうと思うから柴刈り行く。ですから、若い者がおじいさんを助けて手入れをしてください。おばあさんは川へ洗濯に行く、というのもおばあさんは神経痛があって、川に足を漬けたら大変なのだけれど、そのおばあさんですら、毎日洗濯をしなければ日本のような湿潤な気候の中では病気の原因になる。常にきれいにしておかないといけないから、若い娘さんはおばあさんと一緒に川に行って洗濯しなさい、と教えています。わかりやすいでしょう? つまり地元にはそういうことは沢山あり、そういうものに出会うと、地域を理解する力につながっていくのではないかと思います。

森本:次の世代へつなげていくということですね。

涌井:言い伝えとか、地域によっては「こんな事をしてはいけない」というのが結構あるので、そういうものを探っていくと意外と次世代につなげていく大切なことがあるのです。暮らしの目線でもう一度、森里川海を考えることが一番重要なことではないかと思います。

山口:大自然だから守ろう、ということではなくて、本当に身近な所に何があって、だから今がこうある、ということが間違いなく見事に全部つながっているのです。しかし、それを意識しなくなってしまっている。

私の所属する森と水政策課は、空間の広がりを政策にしていくことがミッションだったのですが、実は空間だけではなく、その空間が長い歴史を含んでいて、それをひも解いていくと、早くから流域でちゃんと人間関係があったということがわかってきました。お祭り一つをとっても旧町の単位を越えて、みこしを集めて祭りをしている。

ある神社のすぐ裏に大きなため池があって、その池の水が大変重要だったということで、上の郷、下の郷という言葉が今でも残っていて、上の郷と下の郷がこのため池の水の利用について、巫女が神事を行います。でもその神事の意味を忘れてしまうと、なんでわざわざこんな遠い所までみこしを運ばなくてはいけないのか、という議論になり、その祭りの意味と何百年も続いてきた意味をもう一回ちゃんと知ることになる。なおかつ私がすごいなと思うのは、その意味がわからなくなっても、それを続けてしまう日本人なのです。

涌井:だから東近江市の人でなくても、こうやって語ればそれぞれの地域の面白さというものが浮かび上がってきます。さっきローカルな所からグローバルを見るアプローチが大事だと言ったのも、それが地域に対する誇りとか、この土地で生きていこう、ということになると思うからなのです。

●生活の質を高める新しい成長を森里川海プロジェクトで追求

森本:環境省の仕事は、担う人に伴うリスクを減らす、あるいは動きやすくするように燃料(お金など)を供給する、ということでしょうか。

「森里川海」という旗を立てることはできた。どうやって支え、どうやって政策として応援していくのか、というのが今、求められていると思っています。

涌井:少なくとも2030年目標とは一体何かというと、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の「誰もが取り残されない世界へ」ということですよね。しかし今のままの成長路線でいけば、きっと取り残される地域が出てきてしまう。人口が偏在してしまって地域のコミュニティを支える力を失ってしまう。それに伴って財政制約がより厳しくなるから負の循環を放置するということにつながると思います。

私は森里川海の意味は「つなぎのシステム」だと思っています。それは人と自然をつなぐ、過去と未来をつなぐ、それから地域の多様なステークホルダーの違いをつなぐ、そして場合によるとライフスタイルと経済をつないでいく、それがこの森里川海の連環の中から生み出される大きな最終成果ではないかと思うのです。そうすると、われわれが目にしなければいけない戦略は一体何かというと、脆弱性と一言で言われてしまっているけれど、そこにこの森里川海の思想をリプラントする(植え付ける)ことによって、それは脆弱でも必ずしもないのだ、という方向にどうやって価値の転換を図るか、ということです。

●地銀・信金と地域金融システムを起こす

涌井:私は最近、信用金庫や地方銀行に働き掛けています。信用金庫や地銀は大変厳しい経営環境にあります。地域とともにどうやって生きていくのか。滋賀銀行など環境に対して一生懸命に取り組んでいる金融機関と一緒になって、地域金融システムみたいなものをどうやって起こすのか。そういうシステムをもう一度、脆弱なところに打ち込むことによって、より強靭で持続的な地域社会を構築するかというつなぎのシステムが森里川海の一つの非常に重要なもくろみなのではないかと勝手に思っています。

森本:金融庁が盛んに、デューデリジェンス(投資対象の企業の価値やリスクを調査すること)が大事と言っているのも正にそういうことですね。

涌井:東近江三方よし基金などが良い例ですが、これからクラウドファンデイングのようなものを地域の金融機関と一緒になってやっていく、ということもあって良いのではないかと思います。

森本:彼らの持っている信用・調査能力を活用できればいいですね。

山口:東近江市に本社のある湖東信用金庫という信用金庫へいろいろなことを提案しています。地域のプロジェクトを債券化し、それを地域の方に買っていただくというような仕組みを作りたいと思っているのです。

これからの成熟社会を思い浮かべたとき、どの程度のお金の流れを、誰と一緒に変えればいいのか、実は今、探っている状態です。信用金庫も大きなパートナーだと思っていますし、地域にある企業もそうです。お金の流れを変えていく戦略を、行政ではない法人がやることに意味があると思っています。

●川に水を返すためにも野菜の栽培を推奨

山口:近畿トップの農地面積を誇る東近江市で、一次産業は最も人が必要な産業なので、そこに力を入れるのはありかなと思い、東近江三方よし基金も農業サイドとリンクしようとしています。今までのように無理してコメを作るというだけじゃなく、野菜に転換して収益の上がる農業に変えていきましょう、ということをやり始めています。大量にダムに水を貯めたために川にほとんど水がなくなってしまったものを、野菜を作ることで少しずつでも川に水を返すことができないか。ですので、形にしていくことは、環境にとってもすごく重要なことだということを環境基本計画にも書き、東近江三方よし基金でその資金調達と普及活動を支援できるのでは、と話し合っています。

涌井:老人生産法人みたいなのを上手に作って、野菜栽培に切り替えていけばとても意味があると思います。

山口:農業分野の法人化のように、組織化した率が滋賀県は非常に高く、東近江市も集落営農が組織化できている率が9割を超えています。コメだけだと法人経営が厳しくなっていくので、「だからもうかるものをやらないと駄目ですよね」と働き掛けると、「そういう話を待っていた!」となります。兼業ですから機械もどんどん導入できますし、今は野菜の栽培面積が一気に広がっているんですよ。

森本:森里川海プロジェクトにうまく乗るといい。

山口:そうなんです。東近江的にはそれを完全に乗せているんですけれど。川にちゃんと水が返る、耕作放棄されず農地が維持されていく、ということは、ものすごく重要なことなんです。

編集部:森里川海プロジェクトについて、涌井さんからは新しい国づくりの戦略を示す指針になるとの評価をいただき、東近江市ではこのプロジェクトの推進が、自治体にとって部署横断的に地元を考えるきっかけになったとの指摘がありました。環境行政が新しいフェーズを迎えた象徴的な事業で、是非成功してほしいと思います。環境省の目玉政策として継続していただきたいですね。

森本:今日はお二人の話を聞いて大変勉強になりました。環境省としてもしっかり予算もつけ、地域資源をベースにした循環共生型の社会の構築を目指したい。森里川海プロジェクトはその先行プロジェクトとしてさらに発展させたいと考えています。

編集部:ありがとうございました。

森本 英香 (もりもと ひでか)さん
環境事務次官。環境省官房長の時に森里川海プロジェクトを立ち上げ、チーム長を務める。プロジェクトを通じ、「いのち輝く国づくり」を提唱している。
涌井 史郎 (わくい しろう)さん
東京都市大学環境学部 特別教授。岐阜県立森林文化アカデミー学長、名古屋環境大学学長、国連生物多様性の10 年日本委員会の委員長代理を務める。
山口 美知子(やまぐち みちこ)さん
滋賀県東近江市市民環境部森と水政策課 課長補佐。2015 年にできた同課で、自然資本の保全、再生、活用、つなぐ仕組みづくりを核とした環境基本計画策定に関わる。東近江三方よし基金の設立に奔走。

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