クリーンウッド法見直しへの提言を公表
~違法リスクの高い木材を日本の市場から排除するために

2023年02月21日お知らせ

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2023年2月21日

提言団体

国際環境NGO FoE Japan
地球・人間環境フォーラム

【背景】

違法伐採問題は森林減少・劣化の重要な要因として、1990年代からG7サミット(主要国首脳会議)など国際的な場で長く議論されてきた課題で、特に木材を消費する需要側における対策の強化が重要視されています。森林減少・劣化は近年では、生物多様性保全の観点に加え気候変動との関連でも注目されています。違法伐採への対策は、気候変動対策に不可欠な森林保全の基盤と位置付けられる重要な課題です。

日本では違法伐採対策として超党派の議員立法で「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(クリーンウッド法)が成立、2017年5月から施行されています。欧米豪などの他国では事業者に対して違法伐採のリスクの高い木材の取り扱いを禁じたうえで、リスク評価に基づく確認作業を義務付けるという規制手法をとっているのに対し、日本は合法伐採木材の利用を促進するというもので(i)、事業者が違法リスクの確認をしなくても罰則などが課されず、違法伐採対策としての効果があるのか、私たちは疑問視をしてきました。

法律で規定された施行5年後の見直しのための検討(ii)を進めた農林水産省(林野庁)など所管官庁は「クリーンウッド法の5年後見直しについて(とりまとめ)」(以下、「とりまとめ」)を2022年12月に示しました(iii)。このとりまとめでは、川上・水際の事業者(第一種木材関連事業者)に合法性確認、情報提供および記録保存を義務付け、その義務違反に対しては一定の罰則を適用すること、さらに一定規模以上の第一種事業者による合法性確認等の実施状況を政府が把握することなどを盛り込んだクリーンウッド法の改正案を2023年の通常国会に提出することが打ち出されています。

第一種事業者への合法性確認等の義務化は、消費国の違法伐採対策としては不可欠な要素であり、遅ればせながら日本でも導入されたことを私たちは歓迎します。しかし、日本の木材市場から違法リスクの高い木材を取り除き、違法伐採対策を強化していくためには、今後議論される法案や関連省令等の内容やその運用を注視していく必要があります。

そこで、サプライチェーンを通じて世界の森林に影響を及ぼす日本における木材等の利用のあり方に関心を持つ私たち環境団体は、真に違法伐採木材を日本の市場から排除することができる法律とすべく、改正案の閣議決定に先立ち以下を提言します。

【提言】

1.違法リスクの高い木材の日本市場への流入を阻止する姿勢をより明確にする

クリーンウッド法は制定時に、合法伐採木材の利用に重きを置いたことから、要となる事業者への合法性確認等の義務付けや違法伐採木材の利用があった場合の対応が十分ではありませんでした。今回の見直しにおいて、違法リスクの高い木材を日本の市場に流入させない法律とするべく、日本政府は法律条文または基本方針など然るべき箇所に明記することで、その姿勢を明確にする必要があると考えます。

2.合法性確認等の義務対象となる事業者を政府が補捉する

合法性の確認等が義務化される第一種事業者について、現状、政府が正確に把握できる仕組みになっていません。同法に基づく第一種登録事業者数は250件程度ですが(iv)、登録は任意であるため、リスクの高い樹種や伐採国・地域からの木材を輸入している事業者がすべて登録しているとは限りません。違法リスクの高い木材の日本市場への流入を効果的に防ぐためには、輸入事業者や輸入に関する実態を所管官庁が適切に把握することが前提として求められます。「とりまとめ」では、一定規模以上の第一種事業者による合法性確認等の実施状況を政府が把握することになっていますが、そもそも「誰が第一種事業者なのか」について税関の協力を得るなどして、その全貌を迅速に且つ適切に捕捉することが不可欠です。

3.事業者が行う合法性確認(DD)の判断基準を政府が示す

欧米などで事業者に義務化されているデュー・デリジェンス(DD)は、書類の正当性や信頼性を考慮し、違法リスクの高低を事業者自らが判断し、合法性証明書などの書類の収集に留まらない、リスクの考え方を入れたプロセスとされています。今回の見直しにおいて、第一種事業者に義務化する合法性確認について、それが十分かどうかの基準として「違法性リスクを無視できるレベルまで低くしたことを、事業者自らが対外的に適切に説明できること」を政府が示すことで、「書類のみに頼らない合法性確認(DD)」の実施を事業者に促していくことになると考えます。

4.合法性の定義と範囲を明確にする

現状のクリーンウッド法では、合法性の適用法令の範囲について「樹木が我が国又は原産国の法令に適合して伐採されたことの確認」とされており、幅広く解釈することが可能です。しかし、適用法の範囲すなわち合法性の定義が事業者の判断に委ねられている状況では、場合によって違法リスクの高いものが確認の対象外になってしまうことにつながってしまいます。違法伐採が起きる構造を適切に捉えるためにも、EU木材規則にならって、合法性の定義と範囲を以下のように幅広く、明確化することを提案します。

1)伐採に関する権利
2)伐採に関する税金等の支払い
3)生物多様性や自然環境の保全
4)土地や林産物の利用等に関する第三者の権利
5)貿易及び関税

5.事業者が合法性確認等の実施状況を自ら公表し、外部評価を受けられる仕組みを導入する

今回の「とりまとめ」では、事業者が合法性確認等実施状況の定期報告を政府に対して行うことが盛り込まれています。しかし、提言3に示したように、合法性確認が十分であるかどうかが事業者自らの説明責任に依存するのであれば、事業者による合法性確認等の実施状況を自ら公表することを促すことが必要だと考えます。政府機関が実施状況を把握するだけでなく、外部で関心を持つ関係者が情報提供や評価できる仕組みが導入されれば、事業者による合法性確認等のレベルの向上も期待できます。

6.「合法性確認に至らなかった木材」の取り扱いを減じる策を講じる

残念ながら今回の見直しでは、合法性確認に至らなかった木材の取り扱いは容認されたままになっています。確認材と未確認材は分別管理されることにはなっていますが、その取引は事業者任せであり、確認材を購入・販売するメリットは見えにくく、未確認材が減っていくことは期待できません。よって、事業者ごとの確認/未確認材の割合の公表や、未確認材の取り扱い量を減らす期限付きの目標値の設定(国全体/事業者ごと)、未確認材については樹種や伐採地などを政府への報告などを通じて公開することで注意を促すなど、確実に合法性確認に至らなかった木材の流通を規制する対策を講じることを求めます。

7.クリーンウッド法における合法性確認と合法木材ガイドラインを整理する

「とりまとめ」では、クリーンウッド法とグリーン購入法および合法木材ガイドライン5の間での異なる内容や仕組みについて整理するとされています。クリーンウッド法において第一種事業者による合法性確認等が義務化されていくのであれば、合法木材ガイドラインについては、第二種事業者が参照するガイドラインと位置づける方向で整理を進めると、事業者にとっても混乱が生じないと考えます。

8.業界団体の役割を正式に位置づけ、中小規模の事業者による合法性確認(DD)実施を後押しする

クリーンウッド法において求められる合法性確認(DD)を広く中小規模も含めた関連事業者に普及するためには、個々の製品毎に流通パターンが異なることを考慮し、それぞれの事情に精通する業界団体を、林野庁が組織する同法の運用体制の中に正式に位置づけることが必要です。同時に、DDの手引き(フローチャートやチェックリスト)の作成・利用推進の役割を業界団体に担ってもらうことも期待されます。

賛同団体・個人(2023年3月13日現在、賛同順)

熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
ウータン・森と生活を考える会(Hutan Goup)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC
原田 博夫(専修大学名誉教授)
パタゴニア日本支社
菅原 佐喜雄(岩手県一関市千厩町 岩手やまんばプロジェクト・山チーム・メンバー)
グリーン連合

(i) 同法第一条(目的)に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関し基本的な事項を定めるとともに、木材関連事業者による合法伐採木材等の利用の確保のための措置等を講ずることにより、自然環境の保全に配慮した木材産業の持続的かつ健全な発展を図り、もって地域及び地球の環境の保全に資することを目的とする」とある。

(ii) 林野庁は2021年9月に「合法伐採木材等の流通及び利用に係る検討会」を設け、合法伐採木材等の流通及び利用についての現状や課題等の把握を行い、「合法伐採木材等の流通及び利用に係る検討会中間とりまとめ」を公表している(2022年4月)。検討会の詳細は、https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/ryuturiyou/210915.htmlを参照。なお、クリーンウッド法の所管官庁は林野庁のほかに経済産業省と国土交通省がある。

(iii) 農林水産省、経済産業省、国土交通省(2022年12月)「クリーンウッド法の5年後見直しについて(とりまとめ)」(https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/pdf/2-4minaosi01.pdf、2023年2月16日確認)

(iv) 2022年12月31日現在、第一種登録件数は234件となる。https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/jissikikan/jigyousha.html 、2023年2月16日確認。