改正クリーンウッド法の適正な施行・運用に向けた提言を公表
2024年10月01日お知らせ
地球・人間環境フォーラムと国際環境NGO FoE Japanの2団体は、来年4月に施行予定の改正クリーンウッド法の適正な運用に向けた提言を公表しました。
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改正クリーンウッド法の適正な施行・運用に向けた提言
2024年10月1日 国際環境NGO FoE Japan 地球・人間環境フォーラム
【背景】
違法伐採問題は森林減少・劣化を引き起こす重要な要因の一つです。これまでの違法伐採対策は、1990年代後半のG7/G8サミット(主要国首脳会議)における合意に基づき、木材消費国が木材生産国に対して、違法伐採に由来しない木材・木材製品を求めるという方法で取り組みが進んできました。
近年、違法伐採対策に留まらず、気候変動対策や生物多様性保全の観点からも、包括的な森林減少・劣化対策の必要性が認識されています。欧州森林減少防止規則(EUDR)では、木材に加えて、パーム油、牛肉、大豆、カカオ、ゴムなど森林減少を引き起こす要因となり得る産品が対象品目とされ、その要求事項には伐採・収穫地点の緯度経度を含む完全なトレーサビリティの確認が含まれるなど、より厳しく森林減少・劣化防止の実現を目指しています。
日本の違法伐採対策としては、2006年グリーン購入法基本方針見直しに基づいた政府調達における取り組みに端を発し、2017年に施行されたクリーンウッド法によって木材を取り扱う事業者に対して合法性の確認できた木材・木材製品の取り扱いを奨励しています。本法は施行5年後見直し議論を経て2023年5月に改正され、細則の主務省令、施行規則、基本方針についてもパブリックコメントを経て確定し、2025年4月に施行されます。
【概要】
改正されたクリーンウッド法では、木材輸入事業者、国産丸太取扱事業者の合法性確認・報告、販売(譲り渡し)時の確認の有無の情報伝達の義務化や、小売事業者が新たに法の対象に含まれるなど、一定の規制強化につながる内容になりました。また基本方針には「違法伐採リスク」という語句が明記され、事業者による厳密なリスクベースのデュー・デリジェンスの実施実現の足掛かりは確保されました。
一方、持続可能性や人権への配慮については自発的な取り組みを促すのみ、法の方針においても違法伐採の根絶に留まり、「違法伐採対策のみでは森林減少は止まらない」という認識のもと、方針転換を打ち出した国際社会の課題認識との乖離は極めて顕著です。
日本政府による違法伐採対策によって日本の木材市場から違法リスクおよび森林減少リスクの高い木材が取り除かれ、世界と日本の森林保全に寄与することを期待する私たち環境団体は、責任ある木材利用の実現に向けて以下を提言します。
【提言】
以下は改正法細則の見直しや運用において対応が可能と考えられるものです。
提言1. 国はすべての第一種木材関連事業者から報告を受けること 提言2. 第二種木材関連事業者(特に最終消費者を顧客とする事業者)の情報伝達・受理行為を義務化すること 提言3. 合法性の確認について外部評価を受けられる仕組みを導入すること 提言4. 合法性の確認において人権分野を含めること 提言5. クリーンウッド法における「合法伐採木材」とグリーン購入法における「合法木材」とを整理・統合すること
以下は法改正もしくは新しい法の制定が必要と考えられるものです。
提言6. 森林資源、経営・管理における持続可能性の確認を法の要件とすること 提言7. 合法性の定義と適用法令の範囲を森林減少・劣化リスクの回避可能なものにすること
提言1. 国はすべての第一種木材関連事業者から報告を受けること
改正法では、一定規模以上の第一種木材関連事業者に合法性確認関する報告義務を課し(第十二条)、合法性確認省令において対象となる事業規模や取扱量等の詳細が明記されました(第九条)。これは大規模事業者によるボリュームゾーンを対象とすることで、合法性が確認された木材の流通量の増加を意図したものと考えられます。しかし、違法伐採リスクを考慮した場合、中小規模の事業者による中小規模の取引のほうが、リスクは高い可能性があります。
したがって、中小規模の事業者の取引に対しても、国が把握することは重要であり、負担軽減に配慮しながらも、生産国の違法伐採リスクに応じて報告を促すなどの措置が必要です[i]。
提言2. 第二種木材関連事業者(特に最終消費者を顧客とする事業者)の情報伝達・受理行為を義務化すること
基本方針では「木材関連事業者の取組が消費者等に伝わること等が重要」とし、木材関連事業者による合法性確認の結果が消費者等に伝達されることの重要性、および「消費者から合法伐採木材等が選好されていくことが重要である」と情報が伝達された後の選択的購買への期待について触れています。
しかしながら改正法において、第二種木材関連事業者の合法性確認の結果に関する情報伝達・受理行為は義務化されていないため、合法性確認の結果が確実に最終消費者へ伝達されることは確保されておらず、彼らの選択的購買を期待するには不十分です。そもそも法改正において小売事業者を木材関連事業者の対象に含めた目的は、川下事業者から川中、川上事業者への合法性確認に関する情報伝達・提供・開示を求めることを促すためと理解していますが、特にその効果が最も期待できる最終消費者を顧客としている小売事業者からの川中、川上事業者への情報提供・開示を求める行為に対して何ら拘束力がありません。
したがって、第二種木材関連事業者に対しては負担軽減に配慮しながらも、最終製品、半製品を問わず、木材・木材製品の購入に際して、合法性確認等に関する情報を求めること、その情報を受理することを義務化して、一般の最終消費者に適切に合法性確認等に関する情報が伝達される流れを確保する必要があります。
提言3. 合法性の確認について外部評価を受けられる仕組みを導入すること
法改正により、第一種木材関連事業者に対して合法性の確認(第六条)、原材料情報の記録作成と保存(第七条)、譲り渡しの際の情報伝達(第八条)、主務大臣への毎年一回の報告(第十二条)の義務が課されました。また合法性の確認においては従来からの証明書等の入手・確認に加えて、違法伐採リスクを考慮した情報等に基づき合法性が確認できたか否かを事業者自身が判断する、デュー・デリジェンスの概念が明確に示されました。
しかしながら、国が木材関連事業者の取り組み状況を把握するだけでは、その第三者性やリスク情報収集力、リスク評価の妥当性確認、信頼性の面において十分とは言えません。近年、気候変動対策や生物多様性保全分野において企業に対して非財務情報の開示を求める流れが定着しつつあり、適切な企業努力が正当に評価されることは、企業側にとっても歓迎されるものと考えられます。
したがって、事業者が合法性確認等の実施状況を自ら公表し、関心の高い外部の評価機関等が評価できる仕組みを導入し、事業者による合法性の確認等の透明性と信頼性を確保することが大切です。またNGOなど第三者からの情報提供が促されることによって、事業者の合法性確認等の質の向上も期待できます。
提言4. 合法性の確認において人権分野を含めること
クリーンウッド法施行5年後見直しについてのとりまとめに「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(経済産業省)」に基づく取組の推進が明記されました[ii]。しかしながら法改正により見直された基本方針では「人権の尊重及び持続可能性の確保に係る木材関連事業者の自発的な取組を促す観点から」、国が提供する情報の一つに加えるにとどめています。
国が情報提供するのみでは、事業者にとって何の取組根拠にもならず自発的な取組は期待できません。森林伐採など森林開発が起きている地域周辺の先住民族や地域住民の土地に関する権利等への配慮の重要性は国際社会の共通認識であり、この取り組みを法の枠に盛り込み、合法性確認要件の一つに加えることが必要です。そのためには何をどのように「確認」することで、「人権尊重」とするのか、より具体的な手続きおよび判断基準や指針を国から示す必要もあります。
提言5. クリーンウッド法における「合法伐採木材」とグリーン購入法における「合法木材」を整理・統合すること
クリーンウッド法施行5年後見直しについてのとりまとめにおいて、クリーンウッド法とグリーン購入法の間での異なる内容や仕組みについて整理するとされています[iii]。現行のクリーンウッド法においては、グリーン購入法に基づく合法木材ガイドライン(木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン(平成18年2月林野庁))が合法性の確認の信頼性及び簡明性を担保する一環として活用できる、との見解が示されており[iv]、多くの事業者が同ガイドラインに基づき合法木材供給事業者認定団体によって認定された合法木材供給事業者として供給できる「合法木材」をクリーンウッド法における「合法伐採木材」として扱っています。
しかしながら「合法木材」では、違法伐採リスクにもとづくデー・デリジェンスの概念が導入されておらず、追跡可能性(トレーサビリティ)も確保されていないため、改正クリーンウッド法が目指すところとは大きく異なります。このため、例えばバイオマス発電の燃料についてのトレーサビリティや持続可能性(合法性)についての事業者による確認が、不十分なまま認められてしまっていることにもつながっています。
したがって、改正クリーンウッド法が目指す効果を最大化するためには、合法木材ガイドラインの見直しを速やかに実施し、「合法伐採木材」と「合法木材」の内容や仕組みを整理・統合することが重要です。
提言6. 森林資源、経営・管理における持続可能性の確認を法の要件とすること
クリーンウッド法の目的は「自然環境の保全に配慮した木材産業の持続的かつ健全な発展(第一条)」となっており、持続可能な森林経営・管理および森林資源に関する持続可能性については言及されていません[v]。一方、グリーン購入法の環境物品等の調達の推進に関する基本方針では判断基準において「持続可能性を目指した原料の調達方針に基づいて」、配慮事項において「原料とされる原木は持続可能な森林経営が営まれている森林から産出されたものであること」と明記されています。
木材・木材製品を調達する国等を対象としたグリーン購入法と、木材・木材製品を供給する事業者を対象としたクリーンウッド法とで「持続可能性」について差異が生じていることは望ましくありません。持続可能性については改正法の国会審議の際に幾度も触れられ、その必要性について言及されています。クリーンウッド法においても、森林資源、経営・管理の持続可能性を目指し、木材・木材製品を調達する際の持続可能性の確認を要件に含めることが必要です。
なおグリーン購入法の環境物品等の調達の推進に関する基本方針で採用されている「持続可能性」の定義は「持続可能な森林経営が営まれている森林から産出されたものであること」[vi]となっており、持続可能性に関する定義または詳細な規定について、国が具体的な指針を示すことも必要です。
提言7. 合法性の定義と適用法令の範囲を森林減少・劣化リスクの回避可能なものにすること
クリーンウッド法は「合法伐採木材等」を「我が国又は原産国の法令に適合して伐採された樹木を材料とする木材及び当該木材を加工し、又は主たる原料として製造した家具、紙等の物品(第二条二項)」と定義し、合法性の確認(第六条)に関して判断基準省令や原材料情報政令によって、その確認の内容や範囲について示しています。
しかしながら「樹木の伐採に係る原産国の法令に適合して伐採されたこと(原材料情報政令第一条八項)」の確認のみでは、合法的に農地や他用途への転換(いわゆる合法コンバージョン)された森林減少を伴う原材料や製品の調達を回避することができません。森林減少を容認することは法の目的である「木材産業の持続的かつ健全な発展(第一条)」の達成においても、その原材料供給元である森林の保全を蔑ろにすることにつながります。
また原産国において林業従事者の労働安全や人権配慮などが法令によって規定されている場合は「樹木の伐採に係る」法令と判断すべきと考えらます。加えて、国の責務として提供すべき情報(第四条二項)には我が国及び外国の森林の持続可能な利用に関する法令やその他木材等の適正な流通の確保に関する法令も明記されており、適用法令の範囲について幅広く解釈する余地もあると考えられます。
したがって、違法伐採リスクのみならず森林減少・劣化リスクを回避可能とするために、欧州森林減少防止規則(EUDR)等にならって、合法性の定義と適用法令の範囲を幅広く、明確化する必要があります。
[i] 「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律第三章に規定する木材関連事業者による合法性の確認等の実施等に関する省令案等についての御意見と回答」(令和6年6月農林水産省、経済産業省、国土交通省)では「法第十二条に基づく報告については(中略)定期報告の対象とならない事業体の実態把握について、どのような手法がありうるのかは今後検討する」という見解を示している。
[ii] 「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)の5年後見直しについて(とりまとめ)」(2022(令和4)年12月農林水産省、経済産業省、国土交通省),2.(7).
[iii] 「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)の5年後見直しについて(とりまとめ)」(2022(令和4)年12月農林水産省、経済産業省、国土交通省),2.(6).
[iv] クリーンウッド・ナビ,「クリーンウッド法の概要」.https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/summary/summary.html
[v] 「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律第三章に規定する木材関連事業者による合法性の確認等の実施等に関する省令案等についての御意見と回答」(令和6年6月農林水産省、経済産業省、国土交通省)における回答でも「人権の尊重や持続可能性については本法で規定されていない」との国の見解が示されている。
[vi] 「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(平成18年2月林野庁), 2.(2).