【プレスリリース】大手金融機関11社の「木質バイオマス発電」投融資方針を環境団体が比較・評価 ~支援条件厳格化の広がりを評価する一方、課題が明らかに 今後、求められる「既存案件への適用」と「燃焼由来CO2の考慮」

2025年06月25日お知らせ

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<プレスリリース>

2025年6月25日

報道関係者各位

大手金融機関11社の「木質バイオマス発電」投融資方針を環境団体が比較・評価

~支援条件厳格化の広がりを評価する一方、課題が明らかに

今後、求められる「既存案件への適用」と「燃焼由来CO2の考慮」

ウータン・森と生活を考える会

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)

地球・人間環境フォーラム

熱帯林行動ネットワーク(JATAN)

バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)

Mighty Earth

日本の環境NGO5団体はこの度、日本の大手金融機関11社の「木質バイオマス発電」に関する202425年の投融資方針を比較・評価した結果を公表しました。バイオマス発電事業への支援条件を厳格化する動きが広がる

さらに、現在は方針の対象外となっている既存の支援先についても方針の遵守を求めるなど、働きかけや提言を続けていきます。

<評価結果>

木質バイオマス発電は、経済産業省の「再生可能エネルギー固定価格買取」(FIT)制度で「カーボンニュートラルな再生可能エネルギー」とされ、消費者負担の賦課金を原資に市場よりも高い価格で買い取られている。一方で、CO2排出量の多さ、エネルギー効率の悪さ、生産地での森林減少・劣化や地域住民の健康被害など、国内外の研究者やNGOから多様な環境・社会問題が指摘されている。

2024年春、3メガ銀行は自社のサステナビリティ方針に、木質バイオマス発電に関する項目を加えている。その後、同年12月に三井住友トラストグループも追随し、今年4月には三菱UFJフィナンシャルグループが方針を改訂した。この間、大手生命保険会社や損害保険会社の一部でも方針の策定が見られている。

本評価では、2023年に環境NGOが金融機関に要請した項目[1]を用い、大手の金融機関11社(銀行4社、生保・損保7社)[2]の方針を比較した。評価結果は以下の「評価まとめ表」に加えて、別紙の「解説(結果詳細)」を参照のこと。

【評価対象金融機関一覧】
  • 銀行:三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFJ)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三井住友トラストグループ(SMTB
  • 生命保険会社:明治安田生命保険相互会社(明治安田)、第一生命保険株式会社(第一生命)、日本生命保険相互会社(日本生命)、住友生命保険相互会社(住友生命)
  • 損害保険会社:MSADホールディングス(MS&AD)、東京海上ホールディングス(東京海上)SOMPOホールディングス(SOMPO
【評価まとめ表】

 

※「記載はあるが不十分な場合」:設問489に関して、「当該記載が在る」或いは「考慮すべきリスクに挙げられている」が、「『取引先の対応状況を評価して判断する』としている場合」又は「支援の条件として明確に除外を求めていない場合」など

別紙 <解説(結果詳細)>

~方針の有無・適用範囲について~

  • 11社中、住友生命、東京海上、SOMPOはバイオマス発電への投融資方針を持っておらず、早期の策定が望まれる。
  • 明治安田は、パーム油(パーム椰子殻)、木質チップ(木質ペレットを含む)を燃料とする発電所の新設・更新等への投融資は「原則取り組まない方針」としており、「条件付きで支援を行う」とする他社の方針よりも優れていると評価できる。
  • SMBCMUFJは、方針の適用をバイオマス発電事業の新規・拡張案件に限定している。他社の方針も同様であると想定されるが、日本では2022年以降は輸入木質バイオマス発電所の新規のFIT認定は存在しない[3]。既存の発電事業についても、燃料調達契約の更新の際に遵守を求めるなど、方針の実効性を高めるための取り組みが必要となる。
  • 日本生命の方針で「ライフサイクルで100gCO2/kWh以下が目安」と、2050年ネットゼロに整合する厳しいGHG基準を設けた点は評価できる。しかし、セクター方針ではなく取引先の移行計画を評価する際の指針(「トランジションファイナンス実践要領」)であるため、本要件を満たさなくても通常の投融資の範囲内で支援が可能とされている点に注意が必要である。

~バイオマス石炭混焼発電について~

  • SMBCSMTBはバイオマス石炭混焼発電も方針の対象に含めており評価できる。しかし、いずれも条件付きの投融資を許容する内容である点に注意が必要である。
  • 加盟企業の再エネ電力調達を促すイニシアチブ「RE100」では、今年4月の技術要件改定で、石炭バイオマス混焼の電力の使用を禁止した[4]。背景には、混焼分の電気を再エネとして認めることで、石炭火力の延命を助長するという懸念がある。SMTBの方針では、石炭火力発電のバイオマス混焼化が「脱炭素化に向けたトランジション」と肯定的に認識されおり、脱・石炭火力の足かせとなる懸念がある。
  • 今後は、バイオマスと石炭の混焼発電を支援対象から除外することが求められる。

~燃料生産地の環境・社会リスクについて~

  • SMBCは、燃料が未利用材・製材残渣含め原生林由来でないことの確認を支援の条件とした。SMTBMUFJも原生林伐採のリスクを認識している。しかし、特に東南アジアの天然林や二次林は炭素蓄積機能・生物多様性が高い森林が多いが、「原生林」の範囲外になる恐れがある[5]。今後の方針では、天然林や二次林由来の燃料、天然林を転換して作られた植林地からの燃料も、除外対象とするべきである。
  • 銀行4社と第一生命は、燃料生産地などにおける「地域社会への悪影響・人権侵害」を記載している。それらが無いことを明確に支援条件としたのは、SMBCのみである。
  • 現状のFIT制度の木質バイオマス発電に関するガイドラインでは、燃料加工工場までのトレーサビリティとその情報公開が事業者に義務付けられていない。通常、ペレット工場の周囲最大100km圏内から木材が供給されるため、工場までのトレーサビリティ・情報公開がされれば、当該工場が犯した環境法令違反、地域社会や周辺の森林への悪影響(天然林・原生林伐採など)などを把握できる可能性が高まる。各社の上記方針に実効性を持たせるためにも、発電事業者・燃料調達事業者を通して、ペレット工場までのトレーサビリティを把握し、リスク評価を行う必要がある。

~カスケード利用について~

  • カスケード利用(木材を建材などの経済・炭素蓄積面で高価値の利用をした後に低価値の紙やボードなどに利用し、最後に余った部分や古材を燃焼し熱利用を優先する)の徹底について触れた金融機関は無かった。木質バイオマスの発電効率は2030%程度と非常に低いため、貴重な資源でもある木材を高付加価値でかつ炭素ストックとして有効な形で優先して使うべきであることは、より明確に認識される必要がある。
  • サステナブル投資を標榜する投資家の世界的なネットワーク「PRI」による、欧州(EU)のバイオエネルギー政策を分析したレポート[6]では、森の生物多様性や炭素蓄積面の価値も含めた「カスケード利用」を提言している。2023年に発効した改訂「欧州再生可能エネルギー指令」(RED III)でも、加盟国に「カスケード利用」の実施を求めている。
  • エネルギー利用の際も、発電のみではなく熱利用優先または熱電併給であることが望ましい。

~温室効果ガス(GHG)排出量について~

  • 銀行4社と日本生命はライフサイクルGHG排出量について言及している。しかし、いずれの方針も、バイオマスの燃焼によるCO2排出は考慮していない。
  • これはFITのガイドラインにおいて、燃焼によるCO2をゼロと見なしていることが背景にある。しかし、企業の国際的な炭素会計基準である「GHGプロトコル」では、スコープ13とは別に算定・報告することを求められている。前述のPRIポリシーレポートでも、加工・輸送時だけでなく、燃焼時のCO2を含めて排出量を評価することを提言している。日本の金融機関も、GHGプロトコルに則った算定・報告を事業者に求めるべきである。 
【まとめ~今後求められる対応】

今後は、未策定の大手生保・損保は早期に方針を策定することが求められる。既に方針を策定した各社も、上記評価項目に従って方針を強化し、新規・拡張・更新案件の支援を停止することが求められる。さらに、現在は方針の対象外となっている既存の支援先についても、バイオマス燃料の新規調達時に方針の遵守を求めていくなどの検討がなされるべきである。そして、燃焼によるCO2排出量を含めて評価し、排出削減効果の無いバイオマス発電事業の投融資・保険引き受けについて、化石燃料発電同様のフェーズアウト計画を策定することが望まれる。

補足資料

<本件に関するお問い合わせ先>

一般財団法人 地球・人間環境フォーラム(担当:飯沼、鈴嶋)

E-mail:event[a]gef.or.jp

脚注

[1]プロジェクトファイナンスでバイオマス発電事業に関与する上位20位の金融機関(20233月時点)に対して、6つの環境NGOが送付した要請書。詳細はhttps://hutangroup.org/archives/4466を参照。

[2] 2025年1月時点でバイオマス発電事業に関与する金融機関(参照:補足資料②)は、第1SMBC、第2位みずほ、第3位がSMTBMUFJは第5位、日本生命は第6位である(5kW以上の輸入バイオマス発電所のみ、発電容量(kW)順)。

[3] https://www.gef.or.jp/news/info/250212fitbiomass/

[4] https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20250404.php

[5] インドネシアからは、天然林由来の木質ペレットが大量に日本に輸入され始めている。

参考)セミナー「インドネシアの熱帯林を脅かす日本のバイオマス発電」(526日開催)

https://www.gef.or.jp/news/event/250526indonesia_forest_bioenergy/

[6] PRIポリシーレポート『EUのバイオエネルギー政策・投資の気候・自然リスク』(202412月)

https://www.unpri.org/download?ac=22410