NSCニュース No. 124(2020年3月)NSC定例勉強会報告「IPCCの特別報告書の解説及び温室効果ガス観測技術衛星”いぶき”(GOSAT)による日本の貢献について」

2020年03月16日グローバルネット2020年3月号

NSC代表幹事、横浜国立大学国際社会科学研究院教授
八木 裕之(やぎ ひろゆき)

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から「1.5℃の地球温暖化に関する特別報告書」「気候変動と土地に関する特別報告書」「変動する気候下での海洋と雪氷圏に関する特別報告書」が相次いで発表された。そこでは、地球の気温は、2030年に1.5℃上昇の可能性があり、沿岸洪水、河川洪水などはすでに危険域に突入していることが示されている。

一方、気候変動の原因とされる温室効果ガス(GHG)は、「いぶき」によって、宇宙からその濃度分布を観察する体制が整えられてきた。

企業の気候変動戦略においては、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に代表されるように、企業自らが気候変動シナリオに基づいたリスク・機会分析を行うことが不可欠である。NSCでは、今回は、各社の戦略や政府の政策のベースとなる、気候変動をめぐる科学的知見として上記の三つの特別報告書と「いぶき」に関する勉強会を開催した。

IPCCの三つの特別報告書の解説

IPCCインベントリータスクフォース(TFI)共同議長田辺清人氏からは、IPCCの三つの特別報告書について講演があった。

まず、「1.5℃特別報告書」について、作成の背景が示された後に、「制作者向け要約」に基づいて、1.5℃上昇が2030~2052年の間に起こる可能性、その際に予想される気候変動と潜在的な影響および関連リスクが明らかにされ、1.5℃上昇に抑えるために必要な二酸化炭素(CO2)の排出経路に関する削減目標や対策が提示された。また、1.5℃上昇に対応した緩和策や適応策は、国連持続可能な開発目標(SDGs)との整合性が高いことも示された。

次に、「土地関係特別報告書」について、最新の知見を踏まえた気候変動と土地の関係を特別報告書として作成する意義が示された後に、陸域面気温の上昇率の高さ、食料安全保障や陸域生態系が受ける悪影響の状況、土地利用から排出されるGHGの大きさなどが示され、気候変動への適用や緩和に寄与する土地に関する対応が、砂漠化や土地劣化、食料安全保障の対策にもつながることが明らかにされた。また、こうした土地利用を進めるための選択肢や当面の対策も提示された。

最後に、「海洋・雪氷圏特別報告書」について、IPCC報告書として海洋と雪氷圏を初めて取り上げる意義が示された後、気候変動による、海面の酸性化、海面上昇、海洋生物種の生態、氷雪圏の後退などへの影響とこれらがもたらすリスクおよびその対応策が説明された。

GOSATの観測データを活用した日本の温室効果ガス対策への貢献

環境省地球環境局脱炭素化イノベーション研究調査室室長補佐磯野賀瑞夫 氏からは、温室効果ガス観測技術衛星GOSATによるGHG濃度の観測に関する講演があった。

まず、GHGの吸収・排出量の透明性を向上させ、グローバル・ストックテイクに貢献する日本のGHG全球観測構想と宇宙政策におけるGOSATの位置付けが明らかにされた。

次に、GOSATシリーズの運用および開発状況が説明され、そのGHG濃度の計測方法と計測結果が示され、世界の代表的GHGの濃度分布とその時系列的変化、測定濃度とGHG排出インベントリーとの整合性の高さなどが明らかにされた。

パリ協定は各国にGHG排出量の報告を義務付けているが、GOSATによる排出量や削減量の検証は、こうした報告の透明性と信頼性を高める。そのデータは世界各国で活用することが可能であり、各国の衛星と協力することで、全球常時監視システム構築へのGOSATの貢献が期待される。

約60名の参加者が集まった会場では、炭素回収・貯留付きバイオマスネルギーに関する技術的な質問から、パリ協定への取り組みの国際比較、企業の気候変動戦略の構築方法までさまざまな観点から質疑応答が行われた。

三つの特別報告書が描き出す気候変動の将来シナリオは、確実に、企業や社会の現実の課題や目標になってきており、その妥当性や正確性は、技術や科学の進歩によって高まっている。目標達成までに残された時間は多くはないが、NSCでは、今後も企業の皆さんと一緒にその道筋を考えていきたい。

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