NSCニュース No.131(2021年5月)スウェーデンが目指すポストコロナのグリーンリカバリー

2021年05月17日グローバルネット2021年5月号

スウェーデン在住 環境コーディネーター
高見 幸子(たかみ さちこ)

新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、国内外の企業は大きな影響を受けています。そこで2021年3月号から3回(奇数月)にわたり、スウェーデンおよびEUの企業動向について、スウェーデン在住の環境コーディネーター、高見幸子氏に寄稿いただき、コロナ後に企業が目指す経営の在り方について考えます。

日本は昨年10月、菅総理大臣が「2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロ」を宣言しました。これでやっと、日本もパリ協定に沿った目標を宣言し、スタートラインに立てたと思います。

スウェーデンは、2015年のパリ協定の翌年がスタートラインでした。世界で最も早く化石燃料に依存しない福祉国家になることをビジョンにしました。そして、5年前倒しして、「2045年までに実質排出量をゼロにする」ことを国会で採決しました。さらに気候変動法を作ると同時に、企業、地方自治体、組織が自主的に取り組みを進めるために「化石燃料ゼロのスウェーデン(Fossil Free Sweden)」という政府機関を創設したのです。4年間のプロジェクトで、ナショナルコーディネーターには元自然保護協会事務局長のスバンテ・アクセルソン(Svante Axelsson)氏を採用しました。彼の役割は、政府と企業、地方自治体、組織をつなぎ、迅速に化石燃料ゼロに向けた対策が実践できるように、何が障害かを特定し、政策提言をすることでした。

22業界がロードマップ作成

また、ほとんどの業界が脱化石燃料の戦略とロードマップの作成をサポートしました。今年2月に、22の業界が、それぞれの業界の戦略とアクションプラン、そしてそれを達成するためにどのような政策が必要なのかをまとめた文書を政府に提出したのは画期的なことでした。22業界には、航空、コンクリート、建設、ガス、暖房セクター、鉱業および鉱物、石油およびバイオ燃料、農業、林業、自動車、トラック、食品などの産業が含まれ、スウェーデンの二酸化炭素排出量の70%を占めており、産業界の基幹といえます。

どのようなロードマップを作ったか、一部の例を挙げると、建設業界は、2015年比で2030年に50%削減、2040年に75%削減、2045年に温室効果ガス排出ゼロを宣言しています。石油およびバイオ燃料業界は、2030年までに70%削減目標を達成し、遅くとも2045年までに実質ゼロにするとしています。暖房セクターは、2030年には、完全に化石燃料ゼロを実現し、2045年には、バイオマス燃料のコジェネ施設においてCO2回収・貯留(CCS)の技術を使って温室効果ガスをマイナスにするロードマップを作っています。

サステナビリティ分野の最新情報を提供している専門雑誌『Aktuellt Hallbarhet』は、2021年にサステナビリティに最も影響力があった人物としてアクセルソン氏を選びました。理由は、ほぼすべての産業界の気候対策の変革をまとめることに成功したからです。彼は、「22業界がロードマップを作ったが、今度は、それを言葉から行動に移す、サッカーの試合でいうなら後半戦に入った段階だ」と語っていました。

グリーンリカバリーで経済発展を

スウェーデンのポストコロナのグリーンリカバリーの狙いは、産業界がボトムアップで気候危機の解決策を提供し、国際的なグリーン技術競争において優位に立ち、経済的にも発展することです。アクセルソン氏は、「この数年間に驚くような進歩があった」と言っています。その一例を紹介します。

スウェーデンは、鉄鉱山があり、鉄鋼業は歴史的に重要な産業です。しかしながら、鉄鋼業は、国内の産業で最も温室効果ガス排出量の多い産業で、鉄鋼大手スウェーデンスティール(SSAB)だけで全排出量の10%を占めています。ところが、そのスウェーデンスティールと鉄鉱石採掘株式会社(LKAB)、大手電力会社(Vattenfall)の3社が、2018年に化石燃料を一切用いない製鉄の実証プロジェクトを開始し、2020年に運転開始にこぎつけたのです。2035年までに商業化したいと考えています。

アクセルソン氏は、脱化石燃料のビジネスアイデアの収益性が急速に高くなってきていると言います。しかしながら、世界の温室効果ガスの排出量は今も逆方向に向かっており、スウェーデンももっとテンポを速めなくてはならないとも言っています。そのためには、国は、産業界がグリーンな技術変革を実現できるように法的な障害を取り除くことが必須なのです。

政府は、「化石燃料ゼロのスウェーデン」のプロジェクトをあと4年延長することを決議しました。気候危機との試合で後半戦に入っているスウェーデンの産業界は、優秀なコーチの元、ポストコロナのグリーンリカバリーを契機に、リカバリーだけでなく経済的な発展を目指しているのです。

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