日本の沿岸を歩く―海幸と人と環境と第53回 「関あじ関さば」はずっとSDGsの魚―大分県・佐賀関

2021年08月15日グローバルネット2021年8月号

ジャーナリスト
吉田 光宏(よしだ みつひろ)

速吸瀬戸はやすいのせととも呼ばれる豊予ほうよ海峡は、大分県佐賀関(大分市)と愛媛県の佐田岬半島の間にあり、九州と四国が最も近くなる(幅約14km)。架橋構想もある。高級ブランド魚「関あじ関さば」が捕れる海だ。

佐賀関半島にある関崎海星館から望む豊予海峡

●「関もの」は一本釣りで

豊予海峡は潮の流れが速く、沿岸近くにいくつも天然礁があり餌が豊富なため、魚は太って身が引き締まっている。ここで捕れる魚介類はマアジ、マサバだけでなくブリ、マダイ、イサキ、さらにアワビやサザエなども含んで「関もの」と呼ばれ、昔から味に定評があった。

マアジやマサバは回遊性の魚なのだが、ここでは独立した個体群で「瀬付き」とされている。半島で産卵するマアジは頭が小さく、金色に輝くものもいる。マサバも「生息条件に恵まれたこの海域にとどまる期間が長いのでは」と現場の漁業者たちはみている。

釣り方は魚を傷めない一本釣り。一度に大量の魚を捕る網漁と異なり、乱獲する恐れはない。

関あじ関さばを扱う大分県漁業協同組合佐賀関支店総務課主任の高瀬大輔さんを訪ねて聞くと、高瀬さんは「近年SDGs(持続可能な開発目標)が社会的なテーマになっていますが、関あじ関さばが有名になる以前からずっと海洋資源を大切にするSDGsに沿った漁業を営んでいます」。

佐賀関漁港と大分県漁業協同組合佐賀関支店(後方)

関あじ関さばのブランド化は1988年、佐賀関町漁業協同組合(現佐賀関支店)が全国でも珍しい買取販売事業に乗り出したことから始まる。関ものは地元で評価が高かったが、販売先が少なく値段が安かった。そこで漁協が販売先を増やすことによって漁業者の収益を増やすことにしたのだ。

買い取った魚を販売するので、原価割れのリスクも負うことになる。そこで関ものの中から有利な販売ができそうなマアジとマサバを選んで販売戦略を始めることになった。すると地元では当たり前にサバを刺し身で食べていたが、他の地域ではそうではないことがわかった。情報が入りにくい地域とはいえ、意外な事実だったのだが、漁協は「関さばの大きな特長」と魅力をアピールすることにした。

「サバの生き腐れ」というように一般にサバは急速に鮮度が落ちる。ところが関さばは脂の量が一定しており、腐敗しにくいことがわかっている。さらに釣ってからの丁寧な扱いや生け締めによる血抜き処理、それに続く冷やし込みなどでK値(鮮度判定指標)を安全に保つサプライチェーンを盤石にしていた。

こうした鮮度保持は「ヒスチジン」という成分がアレルギー物質「ヒスタミン」に変容するのを防ぐ。じんましんが出るヒスタミン食中毒が防げるのだ。自然が与えてくれた良質の魚とそれを捕る漁業者の努力が相乗効果を生んでいる。

今となっては語り草だが、当初の販売キャンペーンを福岡や大阪などに次いで東京で行おうとしたとき「生のサバは前例がない」としてホテルに会場使用を断られた。最終的に全国漁業協同組合連合会(全漁連)の会館を借りることができ、その後関あじ関さばは評判に。91年から92年にかけて起こったグルメブームの波に乗って全国に知られるようになった。「食べたこと」がステータスになるバブル期には、都内のデパートで一匹8,000円で売られたという。高瀬さんは「イノベーションと言える挑戦的な取り組みには、当時の組合長のリーダーシップに加えて県や市のバックアップがありました」と成功を振り返る。

鮮魚としては初めての商標登録も96年に認可された。シールを作成して出荷時に一尾ずつに添付している。特約店制度を導入して小売店や飲食店に直接配送する仕組みを作り、偽ブランド対策としている。

漁協のホームページにある動画で漁の様子を見ることができる。一人乗りの小型船で日の出から始まる一本釣りは、手釣りでは釣り糸に十数本の仕掛けを付け、疑似餌を流して釣るトローリング(飛ばし)では60~80本、樽流しでは十数本の釣り糸を付ける。

まき餌はせず、サバやカワハギの皮、ビニールなどを材料にした伝統的な疑似餌を使う。魚群探知機を使う場合が多いが、陸の景色を見て漁場を確かめるベテランもいる。漁から戻ると、漁船のいけすの魚を漁協職員が目で見て値付けする。魚を傷めない「つら買い」だ。また、その日釣れた「新魚あらいよ」をいけすに入れて興奮状態を鎮めるなど、配慮が行き届いている。

●高齢化進み後継者不足

関さばの漁獲は2020年度57tでピークの241t(03年度)から大幅な減少傾向にある。「漁業者は『釣れないし、サバが小型化し卵を持っている』と言います。漁獲の減少には水温、黒潮の蛇行などの原因が考えられます」と高瀬さんは自然相手の漁の難しさを語る。

漁業者は平均70歳で高齢化が進み、かつて遠洋も含めて1,400人いた組合員は430人。ほとんどが一本釣り。県外から2009年以降14人がIターンで就業し、うち10人(研修生2人を含む)が定着している。地元では定年後に親を継ぐ人もいるが、子が学校を卒業後に継ぐのはまれだ。

「組合員数は今後5年で半分に減るのではと心配しています。漁業者が減って一人当たりの漁場が広くなるので、共同経営など新しい仕組みで漁を維持していくことも考えなければ」と高瀬さん。

関あじ関さばの情報発信に力を入れており、今年2月に公式オンラインショップを開設した。コロナ禍で買い取りが大きく減少したため、巣ごもり需要を見越して大分県の代表的な郷土料理「りゅうきゅう」を通常の5倍の家庭用380gで販売した。りゅうきゅうは新鮮な魚をしょうゆベースのたれに漬けたもの。時宜を得た商品がテレビで紹介されると注文が殺到、サーバー(ネット用語で「鯖」!)がパンクしてしまった。高瀬さんは「口コミも含めて親しみを感じてもらえるものにしたい」と今後の情報発信を考えている。

●プリプリの刺し身堪能

高瀬さんから話を聞き終わると、漁協を出て佐賀関半島の先端に向かい、関崎海星館の展望台に立った。展望台からはかすかに見える佐田岬など景色を満喫。戻る途中に佐賀関製錬所の高さ200mの巨大煙突を通り過ぎて、高瀬さんに教えてもらった国道197号沿いの食事処「関の亭」へ。そこでプリプリの関あじ関さばの刺し身やブリのりゅうきゅうを堪能した。夫婦で経営する店の主人の「自分でしっかり確かめて出していますからね」の一言も満足度アップにつながった。

関あじ関さばの刺し身

取材後、歌を検索してみると『豊予海峡』(作詞:星野哲郎、作曲:船村徹)という曲があった。海峡を渡る船で男と女が出会うストーリー。仲の良さそうな店の夫婦を思い出した。そういえば、関崎海星館へ向かう途中にあった歌碑には「この鰤は 夫婦ならんか帰り舟 寄り添う如く 雲見ていたり」(森繁久彌)とあった。釣れた2匹のブリがいけすの中から空を見上げているようだと。のどかで豊かな関あじ関さばの海かな。

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