環境条約シリーズ 394プラごみ条約 条文案に合意できず
2025年01月17日グローバルネット2025年1月号
前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)
20年時点で、プラスチックの生産量は約4億3,500万トン、プラごみは3億6,000万トンと、どちらも20年間で約2倍に増えた。その回収・再利用は9%にとどまり、20%以上は適切に管理されておらず、川や海への蓄積量は20年の推定1億5,200万トンが40年には3億トンになるとされている。汚染や漂着ごみ問題に加え、細分化された5ミリ以下のマイクロプラスチックや1マイクロメートル未満のナノプラスチックが人を含む生物に入り込み引き起こす神経系や内分泌系のかく乱などの健康被害も懸念されている。
こうした状況を受けて22年の国連環境総会において、プラ汚染を終わらせるため法的拘束力のある国際条約を策定すること、政府間交渉委員会を設置して5回の会合を開き、24年末までに条文案を作成することが決まった。その最後の会合が24年11月25日から12月1日まで、韓国・プサンで開かれた。
その会合において、生産から使用、廃棄、再利用までの全期間を通じてプラ汚染は増大し続けているとして、EU、アフリカ、島嶼国などは、新規プラ素材の生産量に対する一律規制を求めたが、中国やインド、プラ原料の石油の産出国である中東諸国やロシアは生産規制それ自体に反対した。また、プラスチックに使われていて発がん性などが懸念される化学物質や使い捨て食器などについても、EUは禁止を求めたが中東産油国やロシアは反対した。そのほか、適切な再利用や処分のための製品設計の国際基準の設定、環境中への流出防止策の各国への義務付け、また、開発途上国への必要とされる資金の支援措置についても、参加国間の意見の隔たりは大きいままだった。
最終的に、交渉継続のためこの会合を休会し25年に再開すること、その際は、最終日に提示された議長案を基礎とすることが決定された。しかし、その議長案は国家代表のみによる非公式協議で作成されたので、非政府組織関係者からは、市民との協働が必要な内容であるにもかかわらずその作成過程で市民参加と包括性が損なわれたことへの懸念が表明された。