マダガスカル・バニラで挑戦!~アグロフォレストリーでつなぐ日本とアフリカ第9回 泥まみれのちっぽけな橋
2025年06月16日グローバルネット2025年6月号
合同会社Co・En Corporation 代表
武末 克久(たけすえ かつひさ)
「どうしてこんなところに造った?」。思わずそう声に出してしまうような場所にその小さな橋はありました。街からバイクの後ろに乗せられて1時間くらい山道のような道を行ったところで、案内をしてくれたラドヴィクがバイクを停めました。周りは水田。進行方向の先には、さっきまでの雨でぬかるんだ細い泥道が続き、登りながら木陰に消えていきます。視界の手前に「えっ、これ?」と拍子抜けするほど小さなコンクリートの橋がありました。生い茂る植物に隠れてはいますが、確かに下の方に小さな川が流れていて、その上に橋が渡っています。1時間、泥道を苦労しながらバイクを走らせて見に来たものがこれか…と、思わず苦笑い。ラドヴィクに対して申し訳ない気持ちが湧いてきます。目の前にあるのはそんなにちっぽけな橋だったのです。でもこの橋が、実はすごいものであるとの思いに至ります。今回は、今年2月に協同組合を訪問したときに見てきた彼らの取り組みの素晴らしさをお伝えします。
●売り上げの一部を地域のインフラ整備に
バニラビーンズのサプライヤーである協同組合は、取引の際にフェアトレードのプレミアムとして5.9 USD/kgを要求します。私たちはこの金額を製品の価格に上乗せして支払っています。このお金は、協同組合や地域のインフラ整備など社会貢献活動のためのもので、それ以外の用途で使われることはありません。この数年間に何度も彼らを訪問してきましたが、これまではアグロフォレストリーばかりを見て回って、彼らのこういった取り組みを見ることはありませんでした。そこで今回は、協同組合が行う社会貢献活動を視察することにしました。冒頭で紹介したとても小さな橋はその活動事例の一つです。この橋の他にも、もう少し大きな橋、道路、小学校、集会場、倉庫、種苗施設などを見てきました。どれもかなり辺ぴなところにあって、でもそこで暮らす人々の役に立っていました。そのうちのいくつかを紹介します。
●いくつかの事例
まずは例の橋。苦笑いしながらも、橋の周辺で写真を撮ったりラドヴィクに話を聞いたりしていると、ちょうど作業帰りの人たちが通りかかりました。食器をたくさん入れた大きな桶を頭に乗せた女性たちや、なたなどの農具を持つ男性たちです。彼らがこの橋のことをどう思っているか聞きたくて、ラドヴィクに話しかけてもらいました。でも、動画を撮影しようとスマートフォンのレンズを向けると、恥ずかしそうに走って行ってしまいました。そんなわけで直接彼らから聞くことはできませんでしたが、荷物をたくさん持ちながらも、軽やかに橋を渡っていくその姿を見て、この橋がとても役に立っていることはわかりました。走り去った彼ら以外にも、3メートルを超えるであろう大きな枯れ木を背負って歩いていく人もいました。移動手段が限られるマダガスカルでは、とにかくびっくりするほどの大きさや量の荷物を持って歩く人の姿をよく目にします。そんな彼らにとって、川を渡るために、道の下の方を流れる川まで降りてまた登るというのは大変な苦労だろうと思います。小さな橋でもとても有難いはずです。私たちはここが目的地でしたのでこの橋を渡る必要はありませんでしたが、よく考えると、そもそもこの橋がなければバイクでこの先に進むことはできないわけで、収穫物などの大量の荷物を運ぶためには不可欠な橋に違いありません。
別の日に小学校を視察した際には、子どもたちと話をすることができました。学校に着いたのは夕方で、放課後に学校の敷地で遊んでいる子どもたちがいました。子どもたちに「学校は楽しいか?」と聞いたところ、勉強はあまり好きじゃないという答えが返ってきました。それでも「僕は算数が好きだ」とか、「将来はお医者さんになりたい」などと夢を語る子どももいてとても頼もしく思いました。
この小学校も街からバイクで1時間くらい走ったところにあります。子どもたちはこの学校まで歩いて通学するわけですけが、おそらく1時間以上かけて歩いて来る子もいるだろうと思います。こんなに人里離れたところにも学校があるということに、良い意味で驚きました。そして、これを協同組合が支援していることを誇らしく思いました。
余談ですが、マダガスカルのバニラセクターでは児童労働が行われているとの報道があります。しかし、僕が見ている範囲では、子どもたちが親についていって農園で遊んでいる姿は目にしますが、強制的に働かされているという場面には遭遇したことはありません。家族単位の小規模な農家がほとんどのマダガスカルにおいて、児童労働と呼ばれるものがあったとしてもそこまで深刻なものではないのではないかと思います。生産者に対して、収入が増えたらそのお金を何に使いたいかと尋ねると、子どもたちの教育に使いたいという答えが返ってくることも多く、教育に対する意識は高いと感じます。
また別の日に集会場兼倉庫だという建物を視察した際には、その集落の人からゆっくりと話を聞くことができました。インタビューに応じてくれたのはオリビエという中年の男性。とても陽気な人で、彼が、“My name is Jona Olivie”と英語で自己紹介してくれたときには、周りから歓声が上がりました。彼曰く、この建物は2024年に建てられたもので、これまでに数回の集まりをここで開いたそうです。また、バニラやクローブなどの作物を一時的に保管する場所として活用しているとのことでした。
この辺りで収穫された作物は、ここに集められて協同組合の集荷トラックを待ちます。街から離れている上、村民のほとんどは移動手段を持ちません。そのため、このような集荷システムは、組合員の負担を減らす上でも、そして品質管理の観点からもとても大切です。この倉庫ができるまでは、収穫物はそれぞれの生産者の家で保管されていたそうですが、それだと保管条件がまちまちで、製品の一部が傷むこともままあったとのこと。倉庫で集中的に管理することで良い状態を保てます。この施設をとても重宝していると、オリビエはうれしそうに話してくれました。
●その橋が輝いて見える理由
これらの事例は、協同組合の取り組みのほんの一部です。他にも数十の事例があります。いずれの設備も組合員の要望を受けて建設されています。組合員から挙がった要望を基に理事会や総会で議論され、最終的にどこに何を造るのかが決定されます。組合員がかなり広い範囲に分布しているこの協同組合では、それだけ広い範囲までその支援の手が伸びます。日本では自治体が行うようなインフラ整備ですが、マダガスカルの、特に地方では公共サービスの手がそこまで回りません。そのため、協同組合のこういった取り組みは、地域の人々、その中でも街から遠く離れた場所に住む人々にとって、非常に重要なものです。また、この決定プロセスがとても民主的であることにも感心します。賄賂や汚職が横行しているといわれるこの国で、農民たちは愚直に民主的な仕組みを運用している。しかも、外国からの支援を受けることなく自立的なやり方で。これらのことに気付いたとき、泥にまみれたちっぽけな橋が輝いて見えました。この人たちのやっていることはとても素晴らしい。この取り組みを絶対に失敗させてはいけない。成功事例として他の地域でも展開されるべきものである。やっぱり彼らを応援したい、一緒に事業をしたいと、改めて強く思ったのでした。そのために私たちができることは、彼らの製品をより多く、そして継続的に買い続けることなのです。

荷物を頭に乗せて、小さな橋を渡る女性
