環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ太陽光発電事業者のひとりごと
2025年12月17日グローバルネット2025年12月号
BFエナジー合同会社 代表、ジャーナリスト
大場 淳一(おおば じゅんいち)
気候変動への対策として、大量導入が必要な再生可能エネルギー。中でも太陽光発電は太陽光パネルの価格低下などもあり、風力発電とともに再エネの本命とされている。ところが、わが国では「太陽光バッシング」とも呼べるような風潮が一部にみられる。
筆者は耕作放棄地などで比較的小規模(連系容量が50キロワット未満)の太陽光発電所を運用する傍ら、環境・エネルギー分野を中心に記事を執筆しているジャーナリストでもある。そこで、我々事業者を取り巻く現状をご紹介させていただくとともに、我々に対する誤解や風評被害を多少なりとも払拭することを本稿にて試みたい。
太陽光発電の状況は10年で一変
筆者が太陽光発電を事業として始めたのは、今から10年ほど前である。当時は太陽光パネルも現在ほど安価ではなく、また空き地は空き地のままという状況だった。電柱から近く日当たりの良い土地には現在、ほぼ例外なく太陽光パネルが設置されていることを読者諸兄の多くもご存知だろう。10年前には予想すらできず、我々を悩ませている問題が今いくつもある。まず、ケーブル盗難である。太陽光発電や電気自動車の普及が近年急拡大しており、銅線の需要が大幅に増加した結果、銅の相場が世界中で高騰していることが背景にある。この9月中旬には、茨城県の某所で筆者の発電所の隣まで犯人グループが盗みに来たため、深夜の見張りや大慌てでの高価な盗難対策を余儀なくされた。太陽光発電所からのケーブル盗難が急増したことなどを受け、損害保険各社は太陽光発電に対する損保の免責額を大幅に引き上げたり、この分野での付保自体を中止したりといった状況となっている。つまり、太陽光発電事業における損失の補填を保険に頼ることすら現時点では相当に厳しいのが実情である。
太陽光発電による売電収入自体が、目減りする場合も多々ある。具体的には、出力制御(抑制)という制度である。これは、電力会社側が太陽光発電所からの電力の買い取りを一時的に取りやめるというもの。太陽光発電が大幅に増加したことも一因だが、天気の良い日中に太陽光発電による電力の供給が需要を大きく上回ると送配電網が不安定となって停電などの恐れがあるためとされる。出力制御が発生すると、せっかく発電した電気がただ捨てられてしまうだけとなり、実に悲しい。例えば、5月のゴールデンウィーク。会社の大半が休業となり、多くの人々が外出するなどで電力需要が大幅に減少する一方、五月晴れで太陽光発電がフル稼働し電力の供給量が増加すると出力制御が連日発生したりする。電力大手各社は一切損しないが、我々発電事業者には大損失となる。
「悪玉」だけではないメガソーラー
もう一つ忘れてはならないのが、「太陽光バッシング」とでも言うべき風評被害だ。メガソーラーが一般に1メガワット以上の大規模太陽光発電所を指すという知識すらないような人々が「日本中からメガソーラーパネルを無くせ!」といった暴論をSNSで主張する始末である(メガソーラーはともかく、「メガソーラーパネル」なるものはそもそも存在しないと思われる)。
特に、以前「迷惑系YouTuber」として名をはせ、現在某市で市議会議員を務める某インフルエンサーにはフォロワーが何十万人もいるため、生半可な知識で虚偽や極論を吹聴されると影響が甚大で本当に迷惑だ。最近問題化しているクマによる被害が、メガソーラーのせいだと主張する人もいる。だが恐らく逆で、クマが人里に出てくるようになった主因の一つは、気候変動によるドングリなどの不作という。太陽光発電は気候変動の原因ではなく、解決策となろう。貴重な湿原や原生林などの自然や景観を破壊して建設するような「悪玉メガソーラー」には、太陽光発電を生業とする筆者も大いに反対だ。一方、深刻化する気候変動を食い止めつつ我々の生活に必要な電気を賄うためには、化石燃料を減らし太陽光や風力、地熱といった再エネを大量に導入することが急務である。この現状を一人でも多くの方にご理解いただきたいと切に願っている。
