フロント/話題と人中村 稔さん
壱岐市マグロ資源を考える会 会長

2016年07月15日グローバルネット2016年7月号

クロマグロを増やしたい!
漁師が産卵期の禁漁を呼び掛け

壱岐は長崎県玄界灘に浮かぶ、人口約2万8,000人のマグロ漁と農業の島だ。中村さんは15歳で父親の船に乗り始めて以来、一本釣りでヨコワと呼ばれる小型のマグロを捕ってきた。深夜1時ごろ海へ出て餌のイカを釣り、日の出ごろからマグロを釣る。多いときは一日で100~200匹釣っていた。

しかし2010年ごろから釣れない日が続くようになる。地元漁協のマグロの水揚げは最盛期の10分の1に減り、漁師の出稼ぎや廃業が増えた。「このままではどうにもならん、何かしないと」と考えた中村さんたち若手漁師が中心になり、2013年の夏「壱岐市マグロ資源を考える会」を立ち上げた。日本海南西部にはクロマグロの産卵場があり初夏に親マグロが集まるが、会では6~7月の自主的な禁漁を決めた。漁師が魚を捕らないのは死活問題だが、それほどの危機感がある。国からは今のところ指導も支援もないが、今年は遊漁船も禁漁に加わった。「他の地域も加わってほしい。この取り組みの広がりが資源の回復につながるはず」と中村さんは言う。

今年4月には「2016マグロサミットin壱岐」を開催。マグロ漁が盛んな北海道、千葉県、青森県大間市、沖縄県石垣島の漁師など500人が手弁当で集まり、マグロ資源の将来について話し合った。クロマグロの減少という危機感を共有し、資源の継続的な利用と速やかな回復のための管理の在り方を国に提案することを宣言した。中村さんは国に対し「一本釣りのような小規模漁業者と、一度に大量に捕る大規模漁業との間で調整を進めることも必要」と期待する。

中村さんの高校生の息子は小さい頃、漁師になりたいと言っていた。島で育ち、海の近くで暮らしたいのだろうと思う。しかし「いつ魚がいなくなるかわからない現状では、漁師を継がせようとは思えない」。

スーパーには安値の付いたマグロの切り身がたくさん並んでいるが、マグロが減少していることやどのような漁法で捕られているか、適切な資源管理がされているかなどの情報は消費者には届きにくい。「マグロ資源の現状を知って、大事に食べてほしい」と中村さんは訴える。48歳。 (ぬ)

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