世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する団体第18回/植林を通じて生態系の回復を
~中国・内モンゴル自治区での生態混交林造成事業

2016年11月15日グローバルネット2016年11月号

一般社団法人 地球緑化クラブ 代表理事 原 鋭次郎(はら えいじろう)

中国・内モンゴル自治区武川県は、内モンゴル自治区の首府であるフフホト市に隣接しているにもかかわらず、古くから貧困に苦しんでいる地域の一つである。貧困の最大の要因は地形にあると思われる。東西に連なる陰山山脈に囲まれ、周囲が傾斜地で形成されている。山脈に囲まれることで他地域への移動が制限されるばかりでなく、盆地特有の気候により降水量も少なく、生産される農作物も限られた。このような環境下において少しでも生活を豊かにしようと県民たちは傾斜地を開墾し、農地を拡大してきた。しかしこの行為が多くの山をはげ山化し、結果として生態系が失われ、さらには表土の流出や風蝕により土地を痩せさせてしまった。植物が極端に減少し土地も痩せてしまったことで、当地一帯は急速に砂漠化が進行することとなった。このような状況は中国北部から西部にかけての広範囲でみられる。

中国中央政府は当地をはじめ、中国北部から西部にかけての砂漠化や森林破壊が進む現状を重く捉え、さまざまな政策を取ってきた。その中で退耕還林政策は代表的なものといえる。退耕還林とは、主に表土流出あるいは風蝕の影響により砂漠化が懸念される傾斜度が25度以上の農地を、森に戻す政策である。武川県の山間部に設けられた農地の多くはこの条件に当てはまり、森へ戻すこととなった。この政策により、農民の多くは農地を失ってしまった。その後政策に沿いマツなどが植栽されたが、植栽技術の未熟さと不十分な管理により、残念ながらその多くが枯死してしまった。目的や目標は素晴らしい政策だが、十分な成果が得られていない状況にある。

4項目の改善を目的に近隣住民へ苗木の役割を伝える

このような現状を踏まえ、地球緑化クラブは地球環境日本基金の助成を受け、①在来種である高木・低木をバランスよく植栽し、かつての生態系を取り戻す②これら植物の根や地上部の働きにより、飛砂および土壌流出を抑制する③高木などの炭素固定により、地球温暖化防止に貢献する④果樹や牧草を植えることで、近隣住民の緑化に対するインセンティブを向上させる、の四つの項目の改善を目的に本事業を2012年に開始した。

私たちはこれら4項目の内容を達成するために、近隣住民に苗木の1本1本には役割があると認識してもらうことに重点を置いた。まず生態系回復と土壌の固定という目的がある低木類は、果樹や牧草となる在来種を選択し、生活の手助けになるようにした。高木は生態系回復と土壌固定および飛砂防止、さらには地球温暖化防止という目的を持っているが、貧困に苦しむ人々にこのような目的を伝えても関心を示さず、維持・管理など無益なことはしてくれない。そこで彼らには、植栽された高木は果樹や牧草を保護する防風林となる重要な役割があると説明した。彼らにとって関心がない生態系回復や地球温暖化防止といった内容は、一切説明しなかった。余計な情報は伝えず、彼らにとって有益と思える情報だけを伝えることで、苗木に対する愛着や重要性を生むことができると考えたからだ。温暖化防止云々は、彼らの生活に余裕ができ、視野が広がった際に気が付けば良いと思っている。

現地の住民との植林作業

技術と経験を生かして他地域でも同様の事業を実施

植林事業は、苗木が根付かなければ話にならない。私たちは当地から東へ70㎞離れた同自治区卓資県において、2008年から同様の事業を行っている。ここではすでに高木約6万本を植栽し、低木も約30万本植栽した。ここで培ってきた技術と経験を武川県で応用することで、十分な成果を得られると判断した。

まず高木は、在来種であるショウジマツとカラマツの2種を選択した。ショウジマツの成長はゆっくりであるが、寿命が長い特徴がある。カラマツは成長が早く、防風林としての効果が数年で発揮される。また、落葉樹であることから、土壌改良の効果も見込める。当地は灌漑設備が整っていないため、すべての苗木を無灌漑で育てなければならない。そのため植栽方法は、まず直径約50㎝深さ約40㎝の大きな穴を掘り、その中に植栽用の穴を掘り1本ずつ苗木を植栽した。大きな穴は雨が降った際、傾斜地を流れてくる雨水をためる役割と、強風から苗木を守る役割を担う。列間は4m、株間は3mとし、広くとった列間の間に低木を植栽した。高木と低木では根の深さが違うため、交互にすることで水分の取り合いが回避され、さらに砂防効果も向上する。また地上部も高さが違うため、防風効果の向上も見込める。また、ショウジマツとカラマツの列を交互にすることで、生態系が偏らないように配慮した。同種の列が8m間隔となることで、病虫害の拡大も軽減される効果も得られる。

低木はニンティアオとヤマアンズを選択した。この2種も高木同様在来種で、生態系回復の役割を担う。ニンティアオは優良な牧草として知られ、定期的に刈り取ることでヤギやヒツジの飼料となり、さらに、株を大きくし、寿命を長くする効果もある(萌芽更新)。また根には根粒菌を持ち、土壌改良にも貢献できる。ヤマアンズは種子が杏仁豆腐などの原料となり、収穫量が増えれば貧困対策へと結び付く。これら2種も高木同様、列ごとに交互に植栽することで、生態系の偏りと病虫害の拡大を防ぐ効果が得られる。植栽方法は高木と同様、大きめの穴を掘りその中へ植栽したが、穴の大きさは高木よりも小さい、直径30㎝深さ30㎝とした。これは高木よりも水分が少なくて済むことと、穴を掘る労力を軽減させる狙いがある。

極めて高い活着率 他地域の緑化への貢献に期待

当地での事業は今年で4年目を迎えた。この間若干の技術的な修正をしながら進めてきたが、経過は極めて良好といっていい。当地での事業のモデルとなった卓資県での高木の活着率は開始当初わずか3割であったが、武川県での本事業においての高木活着率は9割を超えた。この数値は驚くべきもので、視察に訪れた武川県林業局の副局長も、ここまで根付いている植林地は見たことがないと驚愕していた。極めて高い活着率を得られたのは、技術的な改良を重ねた成果でもあるが、それ以上に現地の人々が「自分たちの森」と認識し、1本1本丁寧に植栽してくれたからに他ならない。

本事業の成果は日本国内でも評価され始め、現在では企業による地球温暖化防止植林や、料理研究家らによるヤマアンズ植林事業が展開されている。このような協力者を得ることは、事業の自立化に向けて大変心強い。各事業地の事業自立化は、環境ボランティア団体の永遠の課題といえる。今後本事業地がはげ山の緑化、そして事業自立化のモデルとなれば、他地域の緑化にも貢献できると期待している。

最後に余談ではあるが、これまで本事業地において私たちが植栽した高木は約4万5,000本に上る。活着率が約9割と考えると、将来的に約4万本の高木が根付くこととなる。4万本の高木が固定できる二酸化炭素は約1万tで、これは日本の一般家庭約1,900世帯が1年間に排出する二酸化炭素量に匹敵する数値となる。

活動3年目の武川県の植林地

 

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