2020東京大会とサステナビリティ ~ロンドン、リオを超えて第2回 SUSPONシンポジウム2017報告
スポーツを通じた持続可能な社会づくりへの挑戦~2020年オリンピック・パラリンピックを越えて~

2017年03月15日グローバルネット2017年3月号

当財団が事務局となり、東京2020大会の持続可能性に関心を持つNGO/NPOが立ち上げた「持続可能なスポーツイベントを実現するNGO/NPOネットワーク=SUSPON(サスポン)」が、2月16日にシンポジウム「スポーツを通じた持続可能な社会づくりへの挑戦」を開催し、関心を持つNGOや市民が多く参加しました。今回は、このシンポジウムの内容を紹介します。(シンポジウムの動画など詳細はsuspon.netまで)(グローバルネット編集部)

東京2020大会を新しい社会づくりのきっかけに

SUSPON代表の羽仁カンタ氏による開会のあいさつ(下記参照)に続き、持続可能な社会をつくる元気ネット(以下、元気ネット)理事長の崎田裕子氏が2014年にロンドン、2016年にリオ・デ・ジャネイロを視察した経験をもとに、東京2020大会において持続可能性を実現するために何が必要なのかについて講演した。

(開会あいさつ)東京2020大会は持続可能な未来づくりに参加するチャンス SUSPONを通じて参加を

SUSPON代表 羽仁カンタ

オリンピック憲章は、国際オリンピック委員会(IOC)がオリンピック開催のための規約やルールを定めたもので、1925年に制定されています。最新の2011年版では、スポーツ、文化に加えて、持続可能な未来づくりを目的に掲げています。オリンピックでは、選手村で各国の選手が交流をしたり、競技とは別に開会式や閉会式が開催されるなど、サッカーのワールドカップなど他の競技大会には見られない取り組みがあるのも、それらの目的があるからなのです。

SUSPONは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを持続可能な大会にしようと昨年、日本のNGO/NPOがネットワークを結び立ち上げた団体です。なぜNGO/NPOが東京2020大会に関わるのでしょうか。私自身はこれまでさまざまなNGO活動に携わり、国際イベントにも関わってきました。そんな中で、オリンピック・パラリンピックこそが、市民、企業、行政が一体となって、日本だけでなく地球の新しい未来をつくることにつなげることができると考えています。市民参加により透明性が確保される、環境だけでなく人権や福祉など幅広い問題に取り組み、専門性を持つ団体の横のつながりを生かしながら解決策を提案することが、SUSPONの役割です。また、SUSPONは対話の場を作ることにとくに力を入れており、企業や行政と対立するのではなく、課題の解決策の実現のための議論の場をできるだけ平等に作っていこうと取り組んでいます。

東京2020大会は持続可能な未来づくりに関わることのできる一生に一度の大チャンスです。皆さんもぜひSUSPONにご参加いただければと思います。

2012年のロンドン大会は五輪史上、環境・持続可能性を中心テーマに据えた初めての大会と高く評価されている。「4年に一度のスポーツの祭典であるオリンピックは環境負荷が高いという印象がありますが、そうではないことがロンドンに行ってわかりました」と言う崎田氏は、その要因として、大会終了後の街づくりにレガシーとして残すことを念頭に、持続可能性をキーワードとした理念構築とそれを実現するための計画や基準づくりが戦略的に進められたことを挙げた。また、持続可能性を専門に扱うチームの設置、持続可能なイベントマネジメントシステムISO20120の導入、大会関係者20万人とボランティア7万人に対する持続可能性研修の徹底などにより、企業だけでなく、NGOや市民など多様な人の知恵を集め、大会をともにつくり、動かしていたことにも感動したという。

ロンドン大会では、ごみ削減ガイダンスのもとごみ削減目標があったにもかかわらず、大会期間77日間に2,443tもの食品廃棄物(調理時のロス45%、食べ残し34%、調達後保管中の損傷21%)を出した。この結果を受け、ロンドン市は大会後に食品廃棄物削減協定を関係業界などと合意し、2年間のモデル実験でごみ削減5%(1万5,000t)、360万ユーロのごみ処理費の節約につなげたことを紹介した。崎田氏は「オリンピック・パラリンピックは、都市が持続可能な社会に変革していくきっかけを与えるもの」と強調した。

次に、リオのパラリンピックを視察した様子を紹介した。リユースカップが使われていたが、競技ごとのデザインなどが施されていることもあり、会場内で再利用されるというよりは、土産として持ち帰り、再利用することが想定されていたという。崎田氏は「リユースカップをどのように使えばごみ削減に結び付くのか、東京大会に向けた議論が必要」と付け加えた。

最後に、東京2020大会への提案として、崎田氏は、①目標を明確にした持続可能性専門チームの設置②評価基準となるマネジメントシステムの導入③持続可能性基準を浸透させる人材育成研修の徹底④民間・NGO・市民との共創の明確化、の4点を挙げた。

組織委員会では、2017年1月に「持続可能性に配慮した運営計画第1版」を公表し、今後1年をかけて定量的な目標や具体策を入れ込んだ第2版を作成する予定となっている。崎田氏は、元気ネットが第2版作成の議論にインプットするため、第1版に掲げた五つのテーマごとに、NGOなどのステークホルダーが指摘・提案している課題や取り組みを整理した下表を紹介した。最後に「レガシーが出来上がるのを待つのではなく、みんなでできることを一緒に取り組みながら社会の新しいありようをつくっていく、東京大会をそのきっかけにすることが大事だ」と結んだ。

パネルディスカッションでは、「東京2020大会で実現する持続可能な社会」をテーマに、講演、提言を行った元気ネットの崎田裕子氏、日本野鳥の会の葉山政治氏、国際環境NGO FoE Japanの三柴淳一氏、地球・人間環境フォーラムの天野路子の4人に、東京オリンピック・パラリンピック2020競技大会組織委員会(以下、組織委員会)大会準備運営第一局持続可能性部長の田中丈夫氏、東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会施設部施設調整担当課長の臼井万寿雄氏の2人が加わり、SUSPON代表の羽仁氏の進行で、大会が目指す持続可能性、NGO/NPOや若者の役割、企業との関わりなどについて話し合った。

東京2020大会が目指す持続可能性とは

田中氏は、国際オリンピック委員会(IOC)が1994年にオリンピック憲章の中で、スポーツと文化に加え、環境もオリンピック精神の柱にすると宣言したこと、2014年には、東京2020大会を持続可能な大会にするための「オリンピック・アジェンダ2020」が採択され、組織委員会では田中氏が部長を務める持続可能性部で、具体的な取り組みのバイブルともなる運営計画、競技場建設のための木材調達や食材調達の基準づくりが進められていることを紹介した。

そして運営計画には、①気候変動②資源管理③生物多様性④人権・労働・公正な事業慣行⑤参加・協働、情報発信の五つのテーマが掲げられているが、これらを実現するため、組織委員会が持続可能なイベントのマネジメントシステムであるISO20121を取得する予定であることが明らかにされた。田中氏は「持続可能な大会をオリンピックだけにとどめず日本全国に広めたい」と話した。

臼井氏は、「持続可能な東京2020大会を実現させ、大会後のレガシー(遺産)として、豊かな都市環境を次世代に引き継いでいくことが東京都の取り組みの方向性である」と紹介。選手村を水素社会実現のモデルにするとともに、都の施策として、水素ステーションの整備(2020年までに35ヵ所)、燃料電池自動車、バスの普及(同自動車6,000台、バス100台以上)、家庭用燃料電池の普及(同15万台)などの具体的な取り組みが明かされた。

また、東京2020大会が真夏に行われることから、暑さ対策として、路面が熱くならない道路の舗装、街路樹による木陰の確保、クールスポットの創出を推進するとともに、資源循環型都市を実現するため、食品ロスの削減、廃棄物の3R(リデュース、リユース、リサイクル)の徹底などが進められるという。

天野は、東京2020大会にリユース食器を導入することを提案。ロンドン、リオの大会では廃棄物のリサイクルはかなり進められたが、洗って何度も使うリユース食器は十分な形では導入されなかったことから、「廃棄物のリデュース、リユース対策を優先的に導入すべき」と述べた。さらに、日本の場合、リユース食器を洗浄する場所として福祉施設が活躍しており、環境と福祉が両輪で動くようになっていることを紹介し、運営計画に取り込むよう求めた。

三柴氏は、「持続可能性を考える場合、そのスパンはどのぐらいか、森林は再生するのに100年もかかる地域があるので、そのことを考えて運営計画を作っていただきたい」と注文。「木材の産地で働く人びとに対する労働条件や人権への配慮も必要。組織委員会や都は既存の森林認証基準を超えた高い基準で大会運営に当たってほしい」と述べた。

葉山氏は、オリンピックのようなビッグイベントでは自然破壊による生物多様性の喪失が起きることが多く、1972年の札幌大会では、恵庭岳の原生林が破壊され(編集部注=札幌冬季大会組織委員会は大会終了後植林したとしている)、1998年の長野大会では、高山植物を守るためにスキー滑降のコースが変更されたことを紹介。「大会によるさまざまな影響をプラスに転換していくことが必要で、大会後にどのような遺産が残るのかが大事」として、「施設を作るにあたっては、環境や経済影響を事前に評価し、地方の負担にならないようにしてほしい」と要望し、さらに「東京大会では、スポーツイベントだけで終わらずに、都の生物多様性戦略を皆で考える機会にしたらどうか」と提案した。

パネルディスカッションに参加した6人のパネリストとSUSPONの羽仁代表(左)

NGO/NPOの役割とは

崎田氏は、NGOの一員として組織委員会の街づくり・持続可能性委員会に参加し、発言しているが、「大会が終わった後にオリンピック精神の良さをレガシーとして社会に伝えていくのがNGOの役割ではないか」と述べ、「大会運営に向けて一歩先の提案を常に考え、もし案が受け入れられた時は、一緒にそれを育てて行くことがNGOに求められている」と強調した。

例として、廃棄された携帯や小型家電など都市鉱山といわれるこれらの廃棄物から、金、銀、銅のメダルを作ろうという考えは、社会の呼び掛けを組織委員会が受け入れた結果で、「NGOとしても応援していきたい」と述べた。

臼井氏は、「NGO/NPOはそれぞれ専門的な立場で持続可能な取り組みを進めてほしい」と述べ、「行政としてはそれを参考に予算をつけることがある」としたが、「自分たちの価値観を相手に押し付けたり強制することは避け、社会には多様な価値観があることを理解してほしい」と要望した。

田中氏は、ロンドン、リオの両大会の組織委員会に参加したNGOは一団体だけだったが、日本では多くのNGO/NPOが連携して参加しているため、「組織委員会としても一緒になってやっていくことで良い大会が実現できると思う」と述べた。また、「大会を機会にNGO/NPO自身が発展してほしい。さらに一般の人びとに持続可能性について理解してもらうための啓発活動もNGO/NPOに期待している」と述べた。

会場の参加者より、気候変動問題に取り組むNGO「クライメイト・ユース・ジャパン」の黒田琴絵さんから発言があり、「さまざまな若者の団体が東京2020大会の持続可能な運営について考えており、若者の声が届く場としてSUSPONの中にユース(若者)の部会が作れないか」との提案があった。これに対し、SUSPONの羽仁代表は、「ぜひ参加してほしい」と回答した。

企業と連携できることは

臼井氏は、「企業の発展にもつながる取り組みがあるのではないか」と述べ、都市鉱山からメダルを作ろうという運動に関しては、都庁で2月16日から専用のボックスが置かれ、回収が始まったことを紹介。「このような取り組みは新たな事業の開発につながると思う。産業振興の視点は欠かせない。ものづくりの日本の技術を生かす良い機会になる」と述べた。

天野は、「NGOには蓄積した専門知識や経験もあるが、実際に社会で活用するためには企業との協働が必要で、ビジネスとしても成り立つことが重要。東京2020大会でのリユース食器の導入も一過性の取り組みとして終わるのではなく、大会後も社会の仕組みとして定着させるためには企業との連携は不可欠と考えている」と述べた。

三柴氏は、「企業の中にはNGOを怖がったり、遠ざけたりするところもあるが、NGOは人権、調達などさまざまな分野の、企業にとってのリスク情報を提供できる」とした上で、「耳の痛いことを言うNGOとも対話を重ね、的確なリスク情報を得てほしい」と述べた。

崎田氏は、「オリンピックには多くのサプライヤーが関わっており、実際に担当する人たちと現実感のある話し合いをすることが必要。選手村でも、使い終わった机や椅子をどのようにリユース、リサイクルするか、食品ロスを少なくするためにNGOとケータリング(顧客の指定する元に出向いて食事を配膳、提供するサービス)業者との話し合いを続ける。そうしたことを考えていくことで、世の中は一歩も二歩も持続可能な社会に近づいていく」と述べた。

田中氏は、「組織委員会は持続可能性に配慮した調達基準を作っており、大会のサプライヤーだけでなく、大会後は一般の事業者もこれを使うことで、世の中全体が変わることを期待している」と述べ、東京2020参画プログラムでは、「オールジャパンで参加しよう」と呼び掛けており、NGOが使える公式のエンブレムも用意されていることを紹介した。

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