環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページポートランドを象徴するエコトラストビルとピザ

2017年08月17日グローバルネット2017年8月号

環境ジャーナリストの会準会員
腰塚 安菜(こしづか あんな)

アメリカのオレゴン州ポートランド市は人口60万人以上、面積376.5㎞2というコンパクトな街。他州と比較して、地価、物価の安さ、消費税がないことなど、住みやすさの文脈で評価されることの多い都市である。

市内中心部の北西部に位置するパールディストリクト地区は再開発エリアで、かつて倉庫街だったこの地に目をつけたデベロッパーと市が協調しながら1997年から開発を進め、「全米で最も成功した都市再生プロジェクトの一つ」といわれている。

街歩きをしていると、鮮やかな緑で覆われたれんが造りの建物に遭遇。“ecotrust”と書かれた扉から建物に入ると、休日ということもあり、中のオフィスは静かだった。屋外のゆったりとした空気感と比較し、生態系保護活動に熱心な企業・団体が名を連ねる多様なテナント名が印象に残り、この建造物の歴史や背景情報を調べた。

生態系にも似た「業種多様性モール」のエコトラストビル

建物の正式名称は「ジーン・ボリューム・ナチュラル・キャピタル・センター」。1895年竣工の倉庫を、1998年に生態系保護活動を行うNPO団体エコトラストが買い取り、2001年に改修。同団体が本拠地としていることから、通称「エコトラストビル」と呼ばれる。

築100年以上の歴史的建造物の保存、改修に成功した事例として全米で初めてLEED認証(建物の環境性能評価を認証する制度。グリーンビルディング認証の一つ)を取得したことでも有名となった。さらにソーシャル、エコ、エシカルな価値観を持った行政、企業、団体など多種多様な主体のテナント利用、公のイベントにも活用される様が、自然の生態系にも似ているとされ、「業種多様性モール」(吹田良平著『グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた』より)とも称されている。

ビルの開業式で、当時のポートランド市長、ヴェラ・カッツ氏は「ポートランドのキャラクター、バリュー、スピリットを体現している」と話したという。エコトラストでは持続可能性に配慮した食のケータリングや、自然食品大手のホ―ルフーズ社と連動した食のシンポジウムイベントの開催などレンタルスペースとしてのビルの活用もあっせんする。行政側のトップダウンでなく、市民が自主的に集まる「市民主導型の地域コミュニティの発展」が市の望むことでもあるようだ。

ポートランド住民の食選び基準 “F.L.O.S.S”を象徴するピザ

このビル1階にある赤いリップマークが印象的な「HOT LIPS」では地元産食材のピザやソーダを提供しており、私もピザを注文してみた。ピザはファストフードという印象が強かったが、チキンやサラミ、ベジタリアン対応の野菜に至るまで、「具材をしっかり食べている」ことが実感できる素材が生きたピザは、スライスあたり4ドル(約440円)前後で、普通のピザよりは高い。

ポートランド住民の間で広く知られている言葉に「F.L.O.S.S」があると聞いた。Fresh, Local, Organic, Seasonal & Sustainable(新鮮、地産、有機栽培、旬、持続可能)の頭文字をとった、食品を選ぶ際の基準だそうだ。また、地元の食材が集まる「ポートランド・ファーマーズマーケット」が市内8ヵ所で毎週開催されており、ポートランドのコミュニティ形成にも寄与してきたという。

私は滞在中、2回この店を訪ねたが、いずれも集ってピザを楽しむ家族や友人、カップルでテラス席まで賑わっていた(写真)。その繁盛ぶりに、「少々高くても、地元で生産された食を選びたい」という、ポートランド住民のコミュニティ意識の強さと、豊かさの価値観が反映されているように感じた。

平日夕方も賑わうピザ屋のテラス席

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