NSCニュース No.109 2017年9月定例会「日本企業は気候変動<適応>にどう取り組むべきか」報告

2017年09月19日グローバルネット2017年9月号

NSC事務局

7月20日、東京都内にて、定例会「日本企業は気候変動〈適応〉にどう取り組むべきか」を開催した。  

最初に、気候変動政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)第2作業部会(影響・適応・脆弱性)の執筆を担当した、国立環境研究所社会環境システム研究センター、地域環境影響評価研究室室長の肱岡靖明氏を迎え、IPCCでの「適応」に関する議論の最新動向について解説していただいた。  

AR5統合報告書では「適応と緩和は、気候変動のリスクを低減し、管理するための相補的な戦略である」として、緩和・適応、および低炭素経済への移行の促進を呼び掛けていることが説明された。  

さらに肱岡氏は、すでに日本国内で確認されている気候変動によるさまざまな影響および科学的知見を紹介。海外の先進的な適応への取り組み事例を挙げ、「社会経済の変化を考慮して、緩和と適応の両方を取り込んだ総合的な環境対策」の重要性を強調、企業に対し、「組織として、影響の現状や進行状況についてデータを取ってシナリオを作り、総合的な環境対策を策定することが求められる」と期待を述べた。

気候変動適応情報プラットフォーム  

続いて、環境省地球環境局総務課気候変動適応室の網岡孝夫氏から、環境省の適応計画に基づく取り組みについて紹介いただいた。同適応室は昨年8月、関係府省庁と連携し、2015年11月に閣議決定された「気候変動の影響への適応計画」に基づき、気候リスク情報の提供を通じ、地方公共団体や事業者などの取り組みを促進する基盤として「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」を設立、気候変動の影響への適応に関する情報を一元的に発信するポータルサイトを開設した。  

A-PLATでは、地方公共団体や事業者の適応計画や適応策の事例を紹介。また、さまざまな分野において、個人でできる取り組みも紹介している。網岡氏は「個人の取り組みの促進を手助けするような商品やサービスの開発は企業の新たな適応策になる」と話した。  

今後について、網岡氏は2020年に気候変動の影響評価を再度実施し、必要に応じて政府の適応計画を見直す予定であること、そして、今年度から3ヵ年の予定で、環境省・農林水産省・国土交通省の連携事業として、地域における具体的な適応策の立案・実施を推進するための「地域適応コンソーシアム事業」を開始することを紹介した。  

さらに、気象リスクの情報基盤を国際的に展開し、2020年までにA-PLATを「アジア太平洋適応情報プラットフォーム」に拡大する予定であることを説明した。

すでに進められている適応ビジネス事例  

後半では、すでに進められている適応ビジネスの事例として、企業2社の担当者から概要を説明していただいた。  

まず、積水化学工業株式会社の三浦仁美氏から「気候変動が事業に与えるリスクと機会」についてお話しいただいた。  

同社では、今年4月から3ヵ年の新中期経営計画「SHIFT 2019 -Fusion-」を策定。事業に与える自然災害リスク、原材料調達リスク、規制・法的リスクについて、その大きさや影響範囲などを把握し、リスク回避・予防策を検討している。そして、製品・サービスへの展開を通じた気候変動を緩和する新しいビジネスの創出(「機会」)と拡大を目指しているという。そして、「技術の融合」「機会の融合」「リソースの融合」の三つの取り組み「融合-Fusion-」による加速を目指すことが紹介された。  

次に、国際航業株式会社の坂本大氏が、本業の衛星画像や航空写真などを生かした取り組みとともに自然災害が頻発化・激甚化する昨今、「防災は適応のキーワードになる」として、企業の防災に関する情報をWEB上でわかりやすくまとめた「防災情報提供サービス」を立ち上げたことを紹介した。  

坂本氏は「地域の人々や事業者に寄り添いながら、地域の持続可能性を高めるための適応策に貢献するようなビジネスを進めていきたい」と述べた。  

産業構造が目まぐるしく変わる中、企業が自社のリスクとチャンスをいかに見出すかが、今後一つの適応策として重要となるだろう。NSCでは、会員企業に適応策を導入した中長期計画の策定に生かしてもらえるよう、今後も引き続き情報を提供していきたい。 

タグ: