つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す第6回 地域活動を効果的に続けていくためには~多様な人材と中間支援

2017年11月15日グローバルネット2017年11月号

NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット
鬼沢 良子(きざわ りょうこ)

1996年発足の持続可能な社会をつくる元気ネットは、「持続可能な未来」をテーマに全国各地の団体と連携しながら活動しています。「持続可能な未来」を実現するために各地でさまざまな団体が活動していますが、その中から、当法人が2001年から12年間実施した「市民が創る環境のまち“元気大賞”」を受賞し、現在も広く活動している団体と、環境省が実施している「協働取組加速化事業」からそれぞれ1事例を、多様な人材の活用とさまざまなステークホルダーとの関わりがあって成功した事例として紹介します。

地域と都市を結ぶプロジェクト

2010年元気大賞受賞プロジェクトに新潟県上越市の豪雪山間地区桑取谷の「中ノ俣“棚田米”プロジェクト」があります。この地域は過疎高齢化が進み、耕作放棄に歯止めがかからない山村という全国どこにでもある状況です。ここで、NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部が実施したのは、「共に働く」ことで山村と都市との交流を生み出し、お互いに抱える問題を解決するものです。稲作技術を学ぶ棚田学校を開設し、生徒は都市から、先生は地元住民。年に10回程度の授業と「有縁の米」販売を展開。都市住人にコメと安心を提供し、集落行事に参加してもらい、文化や芸能の継承・育成支援も行っています(写真1)。

(写真1)はさがけ技術の実習(写真提供:かみえちご山里ファン倶楽部)

このNPOのスタッフは、農業、森林や環境保全について学んだ全国各地から集まった若者です。地域活動支援のほか、上越市からの受託事業(くわどり市民の森や上越市地球環境学校の管理)、自主事業として棚田学校の開催、古民家再生、カフェや旅館の運営、農産品加工、高齢者サロンの実施など、桑取地区の他、日本海に沿った谷浜地区、かやぶき古民家の残る中ノ俣地区、正善寺地区など、上越市西部中山間地域での地域づくりに取り組んでいます。

地域外の人は外もの、よそ者と言われる地方で、地域住人と地域再生を進めるまでには、想像以上の苦労があったと思われます。しかし、むしろよそ者の人材、体制による発想と行動力が都市から人を呼び、棚田の保全、支え合う関係から移住にまでつながり、新たな価値を見出す存在とその力は大きかったといえます。今では、視察や研修の受け入れ、講演依頼やメディアでの紹介も何度かありますが、中山間地域の課題はまだ山積みです。中間支援者として「よそ者」性を生かし、地域づくりの挑戦はまだまだ続きます。

中間支援機能とコーディネートの重要性

2013年4月の環境教育促進法完全実施に伴い、環境省の「地域活性化に向けた協働取組加速化事業」として、5年間に49の協働取り組みが実施されています。筆者は、アドバイザリー委員会の委員としてこの事業に携わっていました。この事業の特徴は、以下の三つです。

  1. 民間団体、企業、自治体などの異なる主体による協働取り組みを実証
  2. 支援事務局(地方環境パートナーシップオフィス(地方EPO)、地球環境パートナーシッププラザ/環境パートナーシップオフィス(GEOC/EPO))がそれぞれ協働取り組みの支援を行い、アドバイスしながらプロセスを明らかにする。事務局は中間支援組織として、情報や場の提供、協働取り組みを支援
  3. 協働取り組みを促進するため、協定の締結や具体的取り組みなど、参考になる先導的な事例を形成し、協働取り組みのノウハウを蓄積・共有

この事業は2017年度も継続して実施されています。

ステークホルダーを巻き込んだ地域材の活用

2015年度に関東EPOで採択された事業の一つを紹介します。

神奈川県相模原市は、津久井郡4町と合併し、面積の60%を森林が占めているにもかかわらず、豊富な森林資源への市民の関心は薄く有効活用ができていませんでした。木材価格の低迷、林業労働者の減少により荒廃した人工林という状況は、やはり全国どこにでもある課題です。

さがみ湖 森・モノづくり研究所は、2012年から相模原市協働提案事業「津久井の間伐材で森林を再生する商品開発および環境学習事業」を3年間実施しました。2015年にこの加速化事業に応募し、「地域材を活用した商品開発・販売および環境教育事業」として実施。川上から川下までをつなぐ生産・加工・販売のサプライチェーンづくりを目指し、合意形成の場として「森とつながるフォーラム相模原」を設立し、多くの関係者が主体的に関わり、地域材を活用した商品開発と販売および環境教育事業が進行していきました。

地域循環の仕組みとして地元に製材所・集成材工場をつくりスタートした事業により、フォーラムメンバーである地元の大工さんたちの手で市内6校の小学校の机の天板を地元の間伐材を使った天板に変えることができました(2017年10月現在(写真②))。そして地域の環境学習を実施するなど、子供・保護者・教師に木のぬくもり、森の大切さが伝わり、地域愛も育まれたはずです。

(写真2)2015年度小学校の机の天板80枚を地元の間伐材に( 写真提供:さがみ湖 森・モノづくり研究所)

この加速化事業は、地域課題解決のために、自治体と政策協定を結ぶことを最終目標としていて、「ひと」「カネ」「モノ」「仕組みづくり」など、5項目の協働の加速化やステップアップ、広がりの判断基準指針を確認の上にスタートします。途中には同じ項目で協働の課題や停滞箇所を見極め、的確なアドバイスをします。従って伴走支援をした各地の地方EPOとGEOCのスキルも年々向上しました。

このステークホルダーを巻き込んだ民間の取り組みは、やがて相模原市の教育政策として、庁内での合意形成が取れるまでになりました。成功の秘訣の一つに、ステークホルダーの変容があります。以前からある、市との協働提案事業による信頼関係をもとに、必要と思われるステークホルダーへ呼び掛けを実施し、採択団体を中心に放射状にステークホルダーの拡充を狙ったことです。

加速化事業に関しては、現在49事例から見る「政策協働の手引き」作成が進められています。

組織・活動の拡大は人材の豊かさ

紹介した二つの組織では、いずれも世代、専門性、価値観の違う新しい人とともに活動を広げ、同時に自治体の政策と協働が進んでいます。地域活動や市民活動は、どうしても世代、価値観の同じ人たちで運営されがちです。その方がやりやすいからです。私は長年NPO活動を継続してきて、世代の違う人とともに活動を広げていくことがどんなに重要であり難しいかを実感しています。組織が新たに活動の範囲を広げ、挑戦していくためには、価値観の違う人、若い世代と一緒に活動していくことが重要と思っています。

地域課題の解決と継続に向け、さまざまなプロフェッショナルを見つけ、つなぎ合わせ、組織・個人が持つ中間支援機能と的確なアドバイスが新しい展開になると実感しています。

タグ: