シンポジウム報告気候変動によるリスク―私たちはどう立ち向かうか―(その2)<プレゼンテーション>気候変動問題と外交政策の連関

2017年12月15日グローバルネット2017年12月号

外務省 国際協力局気候変動課長
石垣 友明(いしがき ともあき)さん

 気候変動は、すでに存在しているリスクを増幅し、自然および人間システムにとって新たなリスクを引き起こし ています。さらに、貧困や、内戦などの暴力的紛争のリスクにも間接的に影響を与える可能性も指摘されています。
 このような気候変動によるリスクについてのシンポジウム「気候変動によるリスク―私たちはどう立ち向かう か―」が9 月13 日に東京・千代田放送会館にて開催されました(主催: 環境省・外務省・国連広報センター)。
 11月号に引き続き今月号では、気候変動と安全保障の問題についての基調講演と、パネルディスカッション登 壇者のプレゼンテーション内容の一部をご紹介します。

 

気候変動問題の幅広い影響  外交政策との連関

「気候変動や地球温暖化は環境問題」と考えている人は多く、「外務省も気候変動問題について何かやっているのですか?」と聞かれることがあります。外務省は、COPなどでの交渉に携わるだけでなく、気候変動問題に関する国際的な動きを国内に周知するとともに、日本が行っているさまざまな取り組みを海外に発信し、それによって気候変動対策のグローバルな機運を高めていくという役割を担っています。

気候変動問題は環境問題であることに間違いはないのですが、加えて防災や都市計画などの開発課題、ビジネスとしてのチャンスなどの経済成長、そして難民の増加や食料不足などによる不安定要素の増加など外交分野に密接に関連があり、幅広い影響を受けます。

気候変動問題と外交政策との連関については、とくに2013年以降G7での議論で認識が高まりました。昨年4月に広島で開かれたG7外相会合において、気候変動の脆弱性リスクを検討する作業をさらに2年間続けることが決まり、今年1月、外務省は「気候変動と脆弱性の国際安全保障への影響」に関する円卓セミナーを東京で開催しました。

「アジア・太平洋地域における自然災害の分析と脆弱性への影響」

アジア・太平洋地域は経済成長と人口の増加が非常に高いスピードで進んでいます。一方で、台風、高潮、洪水などのさまざまな自然災害リスクの脅威にさらされている国が多く、国連大学がまとめた「世界リスク報告書2016年版」によると、世界各国の中で最も災害のリスクにさらされている上位20ヵ国のうち12ヵ国がアジア・太平洋地域にあります。つまり、この地域は経済成長の一方で、気候変動の長期的なリスクによってその国の安定や地域の平和が損なわれる可能性が高いのです。

今年9月、外務省では報告書「気候変動に伴うアジア・太平洋地域における自然災害の分析と脆弱性への影響を踏まえた外交政策の分析・立案」を公表しました。

この研究の目的は大きく二つに分かれています。一つは文部科学省や国立環境研究所を含むさまざまな機関がこれまで行ってきた自然科学の知見をまとめ、対外発信するということです。50年、100年周期での気候変動、とくに気候変動対策をまったく行わなかった場合どれだけ災害が大きくなるか、というリスクの分析を示しています。例えば、将来、メコン流域のアジアの穀倉といわれる地域では洪水が頻発し、コメの収量に大きな影響が及ぶことが高い確率で見込まれています。

また、外交当局としてとくに重要だと思っているのは、気候変動が各国・地域に社会経済上どのようなインパクトを与えるのかという分析です。

例えば、東南アジア、アジア太平洋地域は人口増加が著しいのですが、一方で、タイなど一部の国では、日本と同じように高齢化が始まっています。それによって労働力の不足が発生しており、その労働力を確保するために外国から多くの人が流入し定着しているという状態です。このような人々は不景気などの要因によってどのような影響を受けるのか、そもそもなぜそのような不景気あるいは経済的なリスクが発生するのか、そこに気候変動に伴う影響があるのではないのか、といったことも考えなくてはいけません。2011年にタイで大きな洪水が起き、日本の自動車産業も大きな打撃を受けたということも一例です。

そこで、気候変動によって発生するであろうリスクと、それぞれの国がもうすでに抱えていて将来も続くであろうさまざまな社会的・経済的情勢によって発生するリスクを地図上で重ね合わせることにより、どのような影響が相互に見られるかを確認し、それを踏まえて外交政策に取り組もう、というのがこの報告書の中身です。報告書はWebサイトからダウンロードすることができます。ぜひとも多くの方に読んでいただければ、と思います。

今後の検討課題

この調査報告は短期的な経済社会の変化しか見ておらず、人口動態の変化や産業別就業者人口の推移、労働者の海外への移動などの中長期的な傾向と、気候変動の中長期的な変化との相関関係についてはまだ検討できていません。また、マラリアやデング熱など気候変動が及ぼす健康被害に関する検討と、関連し得る国際的な保健政策の把握、医療機関との連携強化の可能性についての考察も今後の重要な課題として提起されています。さらに、安全保障問題に起因する国家・非国家アクターによる行動が環境に与える影響についても、今後さらに検討しなければいけないと考えています。

SNSで気候変動の情報発信

外務省がさまざまな国際会議で他国と交渉していることは皆さんご存知なのですが、そこで何が起こっているか、実際にどんな対策を実施しているのかなど、さらに詳しく知っていただこうと、SNSを使って情報を発信しています。今日の会場の模様も同僚がツィートしています。また、気候変動の最近の状況についても、外務省のWEBサイト「気候変動」にさまざまな情報を掲載しています。

さらに、国際機関での日本の研究者や実務家の活躍の機会を増やすべく、外務省は全面的にサポートしています。「自分もこんな分野で活躍できるのではないか」と思う方はぜひ、外務省のWEBサイトで情報やチャンスを探していただけたらと思います。

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