21世紀の新環境政策論~人間と地球のための持続可能な経済とは(第29回)環境資源の活用による地域の発展と「永続地帯」研究

2018年05月15日グローバルネット2018年5月号

千葉大学 教授
倉阪 秀史(くらさか ひでふみ)

再生可能エネルギーの地域自給率を把握する

倉阪研究室と認定NPO法人環境エネルギー政策研究所の共同研究である「永続地帯」研究では、市町村別に再生可能エネルギーの供給量を把握し、地域のエネルギー自給率を推計しています。毎年、年度末に各市町村に存在している再生可能エネルギー設備を把握し、その設備が年間稼働した場合のエネルギー供給量を推計します。また、住み続けるために必要なエネルギー需要として、民生用と農林水産業用のエネルギー需要について、市町村別に推計します。そして、このエネルギー需要と再生可能エネルギー供給から、地域エネルギー自給率を計算しています。

今年3月30日に公表した最新の報告書によれば、域内の民生・農水用エネルギー需要を上回る量の再生可能エネルギーを生み出している市町村(エネルギー永続地帯)が82になりました。域内の民生・農水用電力需要を上回る量の再生可能エネルギー電力を生み出している市町村(電力永続地帯)も136になり、固定価格買取制度の本格導入(2012年7月)前と比較すると、それぞれ1.6倍に増加しています()。

図:永続地帯市町村数の推移(出典:「永続地帯2017 年度版報告書」)

この間、再生可能エネルギーの供給量自体は約2.6倍になっています。とくに、太陽光発電の供給量が9倍以上となり、固定価格買取制度の効果が今のところ、主に太陽光発電の供給量の増加に現れていることがわかります。最新報告書では、風力発電の伸び率が増加してきたものの、太陽光発電の伸び率がここ数年低下してきていることなどもわかっています()。

表:再生可能エネルギーの供給量推移(出典:「永続地帯2017 年度版報告書」)

「永続地帯」研究が目指すところ

「永続地帯」研究は2005年から継続的に行っていますが、この研究を始める際に「永続地帯」指標には以下の三つの役割があると考えました。

第一に、長期的な持続可能性が確保された区域を見えるようにすることです。第二に、「先進性」に関する認識を変えることです。人口が密集する都会よりも、自然が豊かで人口の少ない区域の方が「永続地帯」に近い存在となります。第三に、脱・化石燃料時代への道筋を明らかにすることです。現段階でも、再生可能エネルギー供給の可能性の大きな地域が存在することを明らかにして、このような地域を徐々に拡大していくという政策の方向性を明らかにします。

当時、化石燃料の供給制約が顕在化するようになってくれば、都会に土地を所有するよりも、「永続地帯」に土地を所有する方を選択する人が増えていき、さらに「永続地帯」が増えていくという流れが生まれるのではないかとも考えていました。

再生可能エネルギーの供給量の増加がその地域の住み良さを増大させることにつながっていけば、一時的に人口が減少したとしても、長期的には人口が戻っていくかもしれません。「永続地帯」研究には、再生可能エネルギー供給量が需要を上回るだけで本当に地域の持続可能性を確保することになるのかという批判がありますが、この場合には、この批判は当たらないこととなります。

再生可能エネルギーの供給量と地域の住み良さ

しかし、固定価格買取制度の導入以降の状況を見ると、再生可能エネルギー供給の増加がどの地域の住み良さの増大につながっていないケースが見受けられるようになってきました。再生可能エネルギー設備を地域外の主体が設置し、生み出されたエネルギーも利潤も地域外に持ち出されるというケースです。自然破壊など地域の風土を乱されてしまい、かえって地域にとってマイナスとなる計画もあります。これは、利潤目的での投資を誘発することによって再生可能エネルギー設備を増やそうとしたことの「つけ」といえます。

企業主体で再エネを増やそうとした「つけ」は、他にもあります。まず、再生可能エネルギーの投資資金を集められる者がますます儲けることができるシステムであることです。すでに資金を持っている人がお金を借りやすい日本では、薄く広く電力料金に上乗せされたお金で運営される固定価格買取制度によって、富める者がますます儲けることができる仕組みとなってしまっています。また、企業主体で導入するために投資収益を高めに見込んで買い取り価格を設定しているため、国民負担が大きいことです。たとえば、事業用太陽光発電は、投資収益率を当初6%に設定して、買い取り価格を決めました。条件の良い場所では想定以上の収益を得ている企業も現れています。

地域の発展のために再エネを開発するには

私は、企業主体による再生可能エネルギーの導入から、地域主体による再生可能エネルギーの導入に政策転換すべきであると考えます。地域主体での再生可能エネルギーの導入とは、地域がその地域の再生可能エネルギー資源の開発権を持っていることとし、地域住民が主体的に再生可能エネルギーの開発計画を進めることができるように政策的に支援することを指します。固定価格買取制度は維持しますが、銀行預金よりも高い利率を確保する程度に投資収益率を抑えます。

地域の環境資源は、再生可能エネルギーに限りません。バイオマス資源(動植物に由来する有機物である資源)全般、リユース・リサイクルによって得られる循環資源、水資源といった地域分散的資源は、まず、地域の発展のために使われなければなりません。

私は、毎年、秋に自主講座である「法案作成講座」を開いていますが、2016年の「地域分散的資源の地域主体による活用促進法案」では、「地域主体は、当該主体に係る地域分散的資源を活用して生活を営む権利を有する」とし、地域外主体は、この権利を尊重しなければならないと規定した上で、地域主体による地域分散的資源の活用への税制優遇・資金援助・情報提供などを定めるとともに、専ら地域外主体による地域分散的資源活用事業へ法定外税を課すなどの措置を定めました(こちらを参照)。

人口が減少していく中、農林水産業の就業者が高齢化し、農地や林地が次第に荒廃しています。農林水産業などの副収入として再生可能エネルギーを位置付け、地元資本で再エネ開発ができれば、地域に人を残せます。これまで域外に流出していた地域のエネルギー支出を地域内の雇用につなげられます。このため、地域分散的に得られる環境資源は地域の発展のために用いるという原則を打ち立て、企業主体の再エネ開発から地域主体の再生可能エネルギーに転換する必要があるのです。

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