INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第48回 全国生態環境保護大会開催

2018年06月15日グローバルネット2018年6月号

地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

全国環境保護会議(大会)の歴史

去る5月18日および19日の2日間にわたり、北京で実質初めての全国生態環境保護大会が開催された。「実質初めて」と表現したのは、過去に7回ほど全国環境保護大会が開催されているが、今回の大会は①「第8回」と回数が表示されなかったこと②名称の一部が生態環境と変わったこと③歴史上初めて国家主席が出席して重要講話を述べたこと――から今までの大会とは一線を画してみるべきと考えたからだ。将来再び開催されることがあれば、今回の大会は「第1回」と呼ばれるようになるだろう。

まずこれまでに開催された全国環境保護大会がどれほど高く位置付けられていたかを簡単に振り返り、その上で今大会の評価をしてみたい。

第1回全国環境保護会議(注:第5回までは「大会」でなく「会議」の名称)は今からさかのぼること45年、1973年8月におよそ半月間にわたって開催された。前年にストックホルムで国連人間環境会議が開催され中国も代表団を送ったが、この会議に刺激され初めての全国環境保護会議を開催した。周恩来国務院総理が出席し主導した。この会議の最大の功績は環境問題が深刻であることを国内に広く知らしめ認識させたことといわれている。この年、日本でも公害健康被害補償法が成立するなど深刻な公害問題に本格的に取り組み始めた頃である。この会議の後に国務院(日本の内閣に相当)は環境保護指導者小グループ(注:環境保全関係閣僚級会議のような組織)を設置し、その下に弁公室(指導者小グループの指示を受けて実質業務を行う組織)を設けた。これが中央政府に初めて設けた環境保護組織である。日本に当てはめれば1970年に設置された政府の公害対策本部に相当するといえるだろうか。

第2回全国環境保護会議は10年後の1983年12月末から84年年初にかけて約1週間開催された。この会議で「環境保護は国家の基本国策の一つである」と確立されたことは有名である(しかし、法律に明記されるのは2015年に施行された改正環境保護法まで待たなければならなかった)。

第3回以降は表を見ていただきたいが、第4回会議で実施が決められた汚染物質排出総量抑制計画(総量規制計画)は、計画策定の基盤が不十分だったため実効が上がらず、第6回大会以降に再チャレンジされた。この第6回大会では温家宝国務院総理が「三つの転換」というスローガンを発表し、環境保護と経済発展の歩調を合わせ、総合的に(さまざまな)法律を運用して環境保護を進めていくことを宣言した。この頃から中国の環境政策は大きく変化し、実質を伴ってくる。第7回大会では群衆の健康を損ねる突出した環境問題に焦点が当てられた。

習近平国家主席の重要講話

長い発言の中からポイントを絞るのは難しいが、新華社の報道などを参考にまとめると次のとおりだ。

1 .「汚染防止攻略戦」(現在深刻な問題となっており、大気、水、土壌それぞれの汚染防止行動計画を立案して対策に取り組んでいる行動などの総称)を強固に展開すること

突出した生態環境問題の解決を民生の優先分野にすべきであるとして次のとおり述べている。

  • ① 断固として青空防衛戦を勝ち取ることは重点中の重点。大気質を明らかに改善させることを強く要求し、地域間で連携した共同対策を強化し、重汚染の天気を基本的になくし、民衆に青空と白い雲および多くの輝く星を取り戻すべきである。
  • ② 水汚染防止行動計画を深く実施し、飲用水の安全を保障し、都市の黒くて臭い水を基本的になくし、民衆にきれいな水と緑の岸辺、魚が快適に泳ぐ光景を取り戻すべきである。
  • ③ 土壌汚染防止行動計画を全面的に実施し、まずは重点地域、重点産業および重点汚染物から土壌汚染管理・コントロールおよび回復を強化し、リスクを効果的に除去し、民衆の食生活および居住環境を安心なものとすべきである。
  • ④ 農村居住環境の整備行動を引き続き展開し、美しい農村を創出し、民衆のために鳥がさえずり花が香る田園風景を残していくべきである。

また、以上の実施にあたり、次のように強調した。

  • ⑤ 汚染防止攻略戦展開にあたって時間は切迫し、任務は重く難度が大きい苦しい戦いであり、党の指導強化が必須である。
  • ⑥ 各地区各部門は、党中央の権威および集中・統一的な指導を断固として擁護し、生態文明の建設の政治責任を断固として担うべきである。地方の各級党委員会および政府の主要幹部はその行政区域の生態環境の第一の責任者であり、各関連部門は生態環境を保護する職責を履行し、各部門が土地を守る職責を担い、責任をしっかりと履行し、分業協力し、共同で力を発揮すべきである。科学的で合理的な人事考査評価体系を構築し、人事考査結果を各級の上層部および指導幹部の賞罰および昇進の主要な考査項目とする。生態環境を損害する指導幹部に対して、真剣で大胆で厳しく責任を追及し、終身の責任追及を実行すべきである。

2 .生態文明の建設に向かって新たな段階への踏み出しを推進すること

もう一つのポイントは、昨年10月に開催した中国共産党第19回全国代表大会(本連載第45回2017年12月号参照)で示した社会主義現代化国家の全面的な建設に向けての目標、タイムテーブルおよびロードマップを踏まえた提案である。具体的には次のとおりである。

  • ① 生態文明体系を急ぎ構築すべきである。生態価値観念を基準とする生態文化体系、産業の生態化および生態の産業化を主体とする生態経済体系、生態環境質の改善を中核とする目標責任体系、防止対策体系および防止対策能力の現代化を保障する生態文明制度体系、生態系統の良好な循環および環境リスクの効果的な防止コントロールを重点とする生態安全体系を急いで構築し、健全化させるべきである。
  • ② 生態文明体系を急ぎ構築することを通じて、2035年時点で生態環境質の根本的な好転および美しい中国に関する目標の基本的な実現を確保する。本世紀半ば時点で、物質文明、政治文明、精神文明、社会文明、生態文明を全面的に向上させ、グリーン発展方式とグリーンライフスタイルを全面的に形成し、人と自然が調和共生し、生態環境分野の国家整備体系および整備能力の現代化を全面的に実現し美しい中国を建設する。

いつもそうだが、中国の指導者の「重要講話」と呼ばれるものは抽象的でわかりにくい。だからこそ各職場でこの重要講話を「深く学習」する勉強会が開かれ、「深く討論」し、実行に移していくというプロセスが踏まれるのだろう。前出の文中で下線を引いた部分に関する動き(責任追及)は最近とくに目立っている。全国各地で幹部に対する事情聴取と責任追及が行われ、「問責暴風」が吹き始めたと表現する報道もある。新時代の中国の特色ある環境対策が具体化してきた。

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