NSCニュース No. 118 2019年3月NSC定例勉強会 報告「気候変動で迫られる『ダイベストメント』とは」

2019年03月15日グローバルネット2019年3月号

NSC勉強会担当幹事、オルタナ総研所長・首席研究員
川村 雅彦

2月1日、東京都内にて掲題の定例勉強会を開催した。以下、概要である。

【講演1:日本の石炭火力発電所問題とダイベストメント】
(NPO法人気候ネットワーク東京事務所長 桃井貴子氏)

気候ネットワークは京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)後に設立されたNPOで、気候変動を防ぎ持続可能な地球社会の実現を目指し、五つのミッションを持つ。

日本の石炭火力発電の現状

  • 既存の石炭火力発電所は117基(4,412万kw≒原発44基相当)。
  • 火力発電の温室効果ガス(GHG)排出量全体に占める割合は30?40%。
  • その半分超を石炭火力発電が占める。

日本における石炭火力のダイベストメントの課題

ダイベストメントより政府方針優先

  • 政府が石炭火力推進である限り、ダイベストメントは限定的であるが、政府もESG投資を言い出し、新規計画を抑える可能性はある
  • 企業には座礁資産リスクがあっても、「最後は政府が何とかしてくれる」という甘い見通し?

金融機関の対応は進むが…

  • 金融機関の方針は、現在ある石炭火力発電所の計画には遡及効果がないのではないか?
  • 未着手の案件に対しては、厳しい融資判断で対応すべき。

【講演2:ダイベストメントの世界的背景と最新動向について】
(国際環境NGO 350.org Japan代表 古野真氏)

ダイベストメントの発祥は、2011年の米国の大学での草の根運動「私たちのお金を環境破壊に使わないで」であり、それが欧州に広がり、年金基金や保険会社に普及し、さらに日本・アジアを含む銀行にも拡大。

ダイベストメントの世界的動向

  • 2018年末のCOP24時点において、化石燃料ダイベストメントの参加機関が1,000を上回り、運用資産額が約8兆米ドル(900兆円)に達した。
  • ダイベストメントは世界的に成長し、この5年で表明機関は5.5倍となり、資産額は160倍に増えた。

気候変動の企業リスクの顕在化

物理的リスク

  • 過去35年で自然災害は3倍に増加し、日本を襲う豪雨では過去最大の被害となった。
  • 過去20年で世界の気象災害による経済損失が150%増加し、日本では熱波・猛暑が全国的に増加した。

賠償リスク

  • 気候変動訴訟(裁判で国や企業に気候変動対策を求める)が世界で1,400件(国内の石炭火力発電所も含む)と増加した。

【講演3:不確実で有害~インドネシアにおける日本の石炭火力発電事業への投資】
(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン ハンナ・ハッコ氏)

アジアにおけるエネルギー転換と金融への働き掛けは、グリーンピースの優先課題。「金融の流れを変える」ため、日本では三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行と協議。

インドネシアの石炭火力と日本

  • 日本企業が計画した石炭火力発電所建設の約6割はインドネシアなど海外にあり、多くは日本の銀行が融資している。
  • その石炭火力発電所の所有企業は、日本の主要商社や電力会社が多い。
  • 高効率のUSC(超々臨界)でも排出740~800gCO2/KWhで、SUB(亜臨界)と比べても約15%少ないだけ。

再生可能エネルギーのメリット

  • スラウェシ島で東南アジア最大の風力発電所が稼働中。現在の再エネは12%、政府目標は2025年に23%。
  • 英国の金融シンクタンクのカーボントラッカーによれば、2021年に太陽光は新規石炭火力より安くなり、2028年には既存石炭火力よりも安くなる。

結論(方向性)

  • グローバルなエネルギー市場で生き残るには、日本とインドネシアの両国は時代の流れに合わせる必要がある。
  • 今年のダボス会議で安倍首相は脱炭素経済の責務について発言したが、石炭火力への投融資は、今年のG20と来年の東京五輪を控え、なお日本ブランドにとってリスクである。

タグ: