INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第53回 中国の大気環境改善~日本が一助

2019年04月15日グローバルネット2019年4月号

地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

ウィンウィンの協力成果

先月19日、環境省は中国大気環境改善に向けた日中都市間連携協力による5年間の取り組みの成果について発表した。私がこの5年間ずっと実施してきた協力事業といった方がわかりやすいだろうか。前回の連載で越境大気汚染をめぐる中韓の論争について紹介した。韓国はその後もずっと自国の大気汚染の大部分は中国からの越境汚染が原因であると声高に叫び、環境大臣のみならず大統領まで前面に出てきて泥沼化の様相を呈しているが、6年前、日本も一歩間違えると同様な論争に発展するところであった。

2013年1月に中国において激甚な大気汚染が発生し、日本国内でも一時的に微小粒子状物質(PM2.5)の濃度上昇を観測したことから、2月に日本政府は関係省庁等から構成される合同ミッションを中国に派遣し、中国環境保護部(当時)等との会合を持った。実は私もこのミッションに参加していたが、当時非常に悪化していた日中関係の下で、気を遣いながら話し合ったことを覚えている。もし越境汚染の責任論などを前面に出して話していたら、一触即発の危機であったろう。3月には安倍総理から石原環境大臣(当時)に対し、アジアの大気汚染問題の解決に取り組むよう指示が出されたが、中国大気環境改善のための日中都市間連携協力事業は、この指示により実施した中心事業の一つであったと言ってよい。2014年度からの5年間で10億円以上の予算を投入し、表1に示すような活動を実施し、また、中国の各都市との間で表2に例示したような事業を展開した。協力の対象に挙げられた都市は17に上る(図1)。

このような協力や中国によるさまざまな政策の実施により、中国国内の大気汚染状況も2013年当時と比較し、PM2.5濃度は35%、二酸化硫黄濃度は57%減少するなど大きく改善された(図2)。また、国務院(日本の内閣に相当)が2013年に制定通知した大気汚染防止行動計画の目標もすべて達成した(本連載第49回参照)。同時期に日本国内のPM2.5濃度も改善され、年平均値は15.3μg/m3から11.6μg/m3に低下し、環境基準の達成率も16.1%から89.9%へと大幅に上昇した。ウィンウィンの結果を出したといって良い。

今後の協力の方向性

しかし、中国では環境基準の達成にはなお遠く、また、中国およびアジア地域における大気環境の改善は日中双方にとって重要な課題であることから、引き続き双方の協力をさらに強化していくこととし、2018年6月、中国・蘇州で日中韓3カ国環境大臣会合を開催した際に、日本国環境大臣および中国生態環境部長の間で覚書に署名し、新たに3年間の協力を実施することとした。この新しい覚書に基づく協力についてはすでに一部開始されているところであるが、図3に示すような枠組みで実施することで調整されている。また、今後具体的な協力内容を決定していく際には、以下のような視点で大気環境改善のための研究やモデル事業を実施していくことが検討されている。

  1. 政策へのインパクトと具体的な大気環境改善への貢献
    事業の実施により青空保護勝利戦3年行動計画で示す政策の実現および大気環境改善に向けて貢献
  2. 温室効果ガス排出削減へのコベネフィット効果
    具体的なコベネフィット効果を明確に説明
  3. 日本の環境技術・設備の貢献
    日本の環境技術や環境設備を積極的に導入
  4. 中国国内への水平展開、アジア地域(第三国)への普及

タグ:,