特集/世界は森林減少を止められるか?-持続可能な森林利用への道CDPフォレストレポート2018

2019年05月15日グローバルネット2019年5月号

CDPジャパン シニアマネージャー
山口 健一郎(やまぐち けんいちろう)

世界の森林減少のスピードは一時期より緩やかになっているといわれるものの、減少は続き、累積で見ると膨大な面積の森林がこの数十年に失われています。持続可能な開発目標(SDGs)の目標15(陸の豊かさも守ろう)には「森林減少ゼロ」が掲げられていますが、その具体的な方法や方向性は明らかにはなっていません。持続可能な森林利用を目指し、世界の森林減少をいかに食い止めるか、世界の森林の現状、および減少ゼロに向けた新たな手法・方策などを紹介します。

 

農林畜産物の生産活動は森林減少に深刻な影響を与えている。私たちが普段何気なく使ったり、食したりしているコモディティの生産活動の中で行われる樹木の伐採や土地の開墾が、森林減少の原因の7割以上を占めるといわれる。CDPでは、その主因となっている四つのコモディティ(パーム油、大豆、牛製品、木材・パルプ)の生産と消費に関して、主要企業に質問書を送付し、取得と使用の現状、リスクと機会、ガバナンス、事業戦略などについて詳しく情報を集め、それをまとめたレポート「CDPフォレストレポート2018」を4月に発表した。

CDPの環境情報開示

CDPは企業や都市の情報開示を通じて持続可能な社会の実現を目指す英国生まれのNGOである。CDPの趣旨に賛同する署名投資家に代わって企業に環境に関する質問書を送り、その回答に対してスコアを付与している。設立は2000年で、35社の投資家からの署名を受け、250社余りの企業に気候変動関連の質問書を送付したことから活動が始まった。その後、署名投資家数も、回答企業数も順調に拡大し、2008年には、投資家からの開示要請に加え、大手購買企業からの自社のサプライヤーへの開示要請にも対応すべく、サプライヤーに開示要請するサプライチェーンプログラムを開始。2010年には、気候変動に加えて、水セキュリティ、2012年からは森林コモディティについての情報開示要請が始まった。

今では650社を超える投資家からの署名を受け、その運用資産総額は87兆米ドルに達する。全質問書を合わせると、世界で7,000社以上の企業から回答を受けている()。サプライヤーへの開示要請を依頼している大手購買企業の数は120社以上であり、その購買金額合計は3.3兆米ドルを超える。

ロンドン、ニューヨーク、ベルリン、東京、北京、サンパウロ、ニューデリーなど世界の主要都市を拠点として、200名以上のスタッフが働いている。

外部認証、外部コミットメントへの参加について

表1は森林減少の原因となるコモディティ別の、2018年の投資家要請スキームと、サプライチェーンプログラムの両方を合計したCDP森林質問書への回答企業数と、回答があった企業のうち、外部認証を取り入れている企業と、外部のコミットメントへの参加を表明している企業の数を表している。

RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)等の認証制度が整っているパーム油では回答企業の92%が、FSC(森林認証協議会)等がある木材では83%が、外部認証を一部もしくは全部について取得している。一方、認証制度がまだ広まっていない大豆では回答企業の35%、牛製品では22%しか、認証制度を利用していない。

外部コミットメント(目標を設定するなどして「これからこうしていく」と宣言すること)に参加している企業数を見ると、森林破壊ネットゼロコミットメントへの参加については、まだ極めて少ない。さらに、高炭素貯蓄アプローチ(HCSA)を用いての森林保全、保護価値の高い森林(HCVF)の森林保全のコミットメントについては、パーム油質問書に回答した企業において40~42%であるが、他のコモディティに回答した企業では、すべて20%以下であり、まだまだ、こうしたコミットメントが企業に浸透していない実態が見えてくる。これはCDPの質問書に回答している企業における数字であることから、全体のコミットメントの割合はもっと小さいと想定される。

CDPサプライチェーンプログラム

さらに、昨年の気候変動、水セキュリティ、森林コモディティの、それぞれのプログラムへの回答企業数と回答率を、投資家スキームとサプライチェーンプログラムで分けて表示した(表2)。三つのプログラムとも、投資家回答要請スキームより、サプライチェーンでの回答企業数の方が多く、回答率もサプライチェーンの方が全般的に高い(水セキュリティはほぼ同じ)。これは、投資家からの開示要請よりも、大手購買者(サプライヤーにとっての顧客)からの開示要請の方が、影響力が強いことを表している。この傾向は、森林コモディティでとくに顕著である。

CDPの三つのプログラムの中で、最も後からスタートした森林コモディティの回答企業数は455社であり、サプライヤーからの回答は、昨年の264社から伸びたとはいえ、他の二つのプログラムに比べて、回答企業数はまだ圧倒的に少ない。

森林コモディティが原因となる森林破壊について、バリューチェーンの透明性を高め、効果的な施策を企業が取り、改善の状況がトラッキングされる仕組みの構築には、回答企業を増やすことが急務といえる。そのためには、投資家回答要請スキームからの回答社数の増加を進める一方、現在14社である森林コモディティの購買者メンバーの企業数を拡大し、サプライヤーからの回答数を増やすことが有効である。

サプライチェーンプログラムでは、投資家や消費者のサステナブルな思いが、小売りから、製品製造、原料製造を経由して、最終的にコモディティ生産者に届き、生産者がより持続可能な生産活動に従事することが望まれる。各企業としては、バリューチェーンのどの段階からでも購買者メンバー企業として参加し、自社の川上にいるサプライヤーにカスケード(小滝が段階的に流れ落ちる様子)的にエンゲージメント(働き掛け)を伝承することで、サステナブルな連鎖が達成される。

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