地球温暖化と台風~その関連性と災害リスクへの対応~台風の異変にどう向き合うか~カルビーの経験から考える

2019年08月16日グローバルネット2019年8月号

グローバルネット編集部

世界ではここ数年、強い熱帯低気圧による被害が増加しています。一方、日本国内でも、強い台風が上陸することはほとんどなかった北海道にまで、台風が勢力を維持して移動するなど、自然災害のリスクが年々増大しています。 これらはいずれも地球温暖化との関連が指摘されていますが、果たしてどうなのか。最新の温暖化研究の動向、そして、海外の被災地の様子や日本国内での事例について紹介し、今後このような異常気象にいかに対応し、どんな対策を講じることができるか考えます。

 

史上初めて三つの台風が北海道に上陸

北海道に台風は来ない、または少ない、というのは過去の話。近年は北海道まで台風が到来することも多くなった。2016年8月には、台風(7号)が9年ぶりに北海道に上陸、その後二つの台風(9号、11号)も次々に上陸し、観測史上初めて一年間に三つの台風が北海道に上陸した。

そして、その後さらに四つ目の台風(10号)が急接近。上陸こそしなかったものの、暴風・大雨をもたらし、道内各地で川の氾濫や橋の流失が相次ぎ、鉄道や道路が壊滅状態となるなど、甚大な被害が発生した。

とくに台風10号は発生後、数日間南西諸島周辺の海上に停滞してから針路を北に変えて日本に向かい、岩手県に上陸。1951年の統計開始以来、岩手県に最初に上陸したのは初めてとなる、史上初のルートをとった。さらに寿命11日という、日本付近で生まれた台風としては観測史上記録的な「長寿」台風となり、インフラだけでなく、農業にも過去に例を見ない記録的な被害をもたらした。

この台風による農作物などの被害は1道3県で1万2,945ha(農林水産省発表)。一方、北海道の発表による道内の影響は1万2,310haであったことから、被害のほとんどが北海道であったことが明らかになった。

被害が大きかった十勝地方 ポテトチップスが販売休止に

中でも被害面積が最も大きかったのは十勝地方で、同地方を主産地とするジャガイモは畑の浸水により、土の中で腐ったり、表層の土の流出により露出してしまうなど、大きな被害を受けた。北海道農政事務所によると、2016年産の北海道のジャガイモの出荷量は152万6千tで、前年に比べ10%減少した。

ポテトチップスの国内シェア7割を誇るカルビーは翌年17年4月、ジャガイモを原料とする商品33品目を販売休止とした(うち18品目は終売)。同社は国内からのジャガイモ調達量33万2千tのうち、80%以上に当たる27万8千tを北海道産に頼っている。

同社は台風直後、農家から買い取るジャガイモについては、多少小さいものや緑がかったものなど、大きさや色の規格を緩和し、また貯蔵していたものも使って対応していたが、原料の調達が難しくなったことから、主力商品の販売休止という苦渋の決断を下した。ポテトチップスの生産量は激減し、コンビニエンスストアやスーパーマーケットの棚からは商品が消えた(写真)。同社広報部によると、販売休止からわずか2ヵ月間に、販売再開を求めるメッセージが1,000件を超え、この「ポテチショック」には消費者も大きく翻弄された。

2017年4月の「ポテチショック」で商品が消えたコンビニエンスストア店頭の棚(カルビー提供)

「馬鈴薯対策室」を立ち上げポテトチップス販売も再開

カルビーは2017年4月、ジャガイモ調達と商品販売の部門の連携強化を目的に、「馬鈴薯対策室」を立ち上げた。「緊急対応に追われた両部門が社内的にも近づき、連携できるよう今後のことも考えた」と同室室長の川崎滋生氏は振り返る。

一方、2016年に台風の影響を大きく受けたジャガイモは、その後北海道以外の府県産の収穫も始まり、原料も安定的に調達できるようになったことから、17年6月からは休止されていたポテトチップス商品の販売が順次再開された。

教訓を生かしリスクに備えて安定的に持続可能な調達を

今後も起こり得る自然災害のリスクに備え、同社ではまず、「産地の分散化」を最優先で進めている。北海道内だけでなく、本州・九州においても、これまでジャガイモを栽培していなかった場所について、取り組んでもらう農家を増やそうとしている。これによって、収穫時期に地域差が生まれる()。

図 主要な国内ジャガイモ産地と収穫時期(出典:カルビーWEB サイト)

現在、同社は全国に約1,800戸の農家と契約しているが、そのうち北海道には1,100戸。北海道に大きく依存してきたジャガイモの調達リスクの分散化も必要なのだ。

そして、加工食品用ジャガイモを栽培していなかった地域で、加工食品用のジャガイモ畑に転換してもらうよう働き掛ける取り組みも進めており、調達量増加を狙う。

また、病害虫に抵抗性の強い品種の開発も積極的に進めている。2016年には、10年以上をかけて開発した同社初の自社育成品種「ぽろしり」の使用を始めた。病害抵抗性が高く、収量の安定性が「ぽろしり」の最大の特徴である。

「科学的農業」への転換も求められる自然災害リスク戦略

「産地の分散化」「品種の転換」に加え、カルビーでは現在、高度な技術による「科学的農業」への転換を図っている。行政や大学、研究機関などとの共同研究などにより、栽培技術のさらなる向上を目指している。

また、契約農家に情報提供やアドバイスを直接行う社員「フィールドマン」による技術指導や生産者への情報提供、生産者への対応もさらに強化する。フィールドマンが契約農家を1軒1軒巡回し、足で集めた栽培データや情報を生産者と交換・共有し、ジャガイモ作りを支援するという。

2019年の収穫見込みについて、「今のところ順調」と川崎室長は言う。「台風が来るか来ないか予測することはできないけれど、2016年の教訓を生かし、どんな状況にも対応できるような対策を各方面で強化していきたい」と語った。

従来は、台風は発生しても北海道まで北上する頃には温帯低気圧に変わってしまうため、台風に対する北海道民の危機意識というのは決して高くはなかった。しかし、今後は、その意識を変えざるを得ないだろう。企業も予測の難しい自然災害リスクに対する戦略を、今後いっそう強化することが求められる。

タグ: