特集/IPCCシンポジウム2019「くらしの中の気候変動」発表3:味の素グループ気候変動課題へのチャレンジ

2019年12月16日グローバルネット2019年12月号

味の素株式会社 環境・安全・基盤マネジメント部
環境経営支援グループ長
豊崎 宏(とよさき ひろし)さん

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2019 年、「2019 年方法論報告書」(5 月)、「土地関係特別報告書」(8 月)、「海洋・雪氷圏特別報告書」(9 月)を公表し、現在は2021 年から2022 年に予定されている「第6 次評価報告書」の公表に向け、大詰めを迎えています。  本特集では、11 月21 日に東京都内で開催されたIPCC シンポジウム「くらしの中の気候変動」(主催:環境省、気象庁)での基調講演と、気候変動対策に積極的に取り組む企業からの登壇者も迎えたパネルディスカッションでの各パネリストによる発表の内容を紹介します。(2019年11月21日、東京都内にて)

 

味の素グループはアミノ酸を軸として幅広く、グローバルに事業を展開しています。「食を通じた社会への貢献」という創業の志を引き継ぎ、「社会価値と経済価値の共創」が今の味の素グループの基本となっています。これは、事業活動を通じた社会課題の解決によって得られた経済価値を次の事業活動に再投資することでさらなる社会課題の解決に貢献するというもので、これを私たちはASV(Ajinomoto Group Shared Value)と呼んでいます。

味の素グループのマテリアリティとして「地球持続性」では「気候変動への適応とその緩和」を掲げています。2017年策定の「環境長期ビジョン」では、製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを、「環境中長期計画」(同年策定)では、2030年度までに、温室効果ガスの排出量対生産量原単位を50%削減し、再生可能エネルギーの利用比率を50%に引き上げる目標を掲げています。

気候変動に関連する国際イニシアチブのうち、SBT(科学的知見と整合したCO2削減目標設定を促すイニシアチブ)については2018年に2年以内の目標設定をコミットをしており、現在その設定作業中です。一方、企業が自らの事業を100%再生可能エネルギー電力でまかなうことを目指すRE100についてもコミットを検討中です。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)については2019年5月にその提言に賛同し、コンソーシアムにも参加しています。現在、この枠組みに沿った情報開示を準備中です。

味の素グループのCO2排出量バランス(2018年度)()をみると、自社の活動からのCO2排出(スコープ1)は9%、外部から調達しているエネルギー(スコープ2)は7%です。その他のスコープ3は84%もあり、中でもとくに原料は全体の6割を占めています。スコープ1、2については1.5℃シナリオに沿い年率4.2%の削減率が求められます。スコープ3については原料を中心にサプライチェーン全体での削減が必要です。しかも、味の素グループには多様な製品・製造プロセスがあり、事業展開している国・地域も幅広いため、それぞれ対応したCO2削減プランが必要です。そのため、国・地域、原料サプライヤー等の関連企業との連携が重要になってきます。

削減テーマの例としては、製造プロセスの省エネの深化や、バイオマスボイラーの導入等を推進しています。また、再生可能電力へのシフトは極めて効果が大きいと考えています。一方、アンモニアの自製化新技術の開発も進めています。現状、アンモニアは大型プラントでの大量・集中生産が必要なうえ、輸送・保管も含めて環境負荷とコストがかかるという課題があります。そこで東京工業大学の細野教授らと共に新しいアンモニア生産技術の実用化を目指す新会社つばめBHB(株)を設立しました。2021年を目処に、新触媒を利用した自社工場内での生産実用化を目指しています。

現在は次期中期計画(2020~2022年)を策定中で、SBTやRE100を視野に中長期ビジョンも見直しているところです。また、TCFDによる情報開示も検討を進めています。ただし、これらの高い目標の達成には既存技術の積み上げだけでは不十分であり、イノベーションが必要です。外部機関とも連携して進めていきたいと考えています。

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