食卓からみる世界-変わる環境と暮らし第16回 テロとサイクロン~高まるモザンビーク北部の食料不安

2020年02月17日グローバルネット2020年2月号

一般社団法人モザンビークのいのちをつなぐ会代表理事・モザンビーク事務局長
榎本 恵(えのもと めぐみ)

アフリカの南東部に位置するモザンビーク。最南部に位置する首都マプトと真反対の北部カーボデルガド州ペンバのスラム・ナティティ地区に筆者は居住し、教育・公衆衛生・食育などの活動を展開している。

現地の近況で特記すべきは、イスラム過激派組織(ISISの関与が疑われる)テロ組織のゲリラ攻撃と未曾有の規模のサイクロン上陸である。これにより住民の食卓事情も影響を受けている。

●北部カーボデルガド州の脆弱な食を取り巻く環境

人間開発指数は189ヵ国中180位(2019年)

世界飢餓指数は118ヵ国中102位(2016年)

5歳未満児死亡率は7.1%(2016年)

5歳未満児の栄養失調率は42.3%(2013年)

 

筆者が2013年にモザンビークで活動を開始した時と比べると上述の数値は改善しているものの、モザンビークはいまだ、食、保健衛生、農業など、多岐にわたる分野で大きな課題が山積している。

2019年は例年に増してトラブルの多い年であった。

2017年に巨大天然ガス開発地区での襲撃事件から端を発したテロ攻撃が激化し、この1年間だけで600名以上が死亡。

また、カーボデルガド州初となる巨大サイクロンの上陸により、農地で作物は流され、数千軒の家屋が倒壊。病死者も発生し、甚大な被害を受けた。当会が農村共同組合と協働している農地も被害を受け、米の備蓄倉庫も倒壊してしまった。

小規模農家が多数を占めるモザンビークであるが、北部地域の長年の課題は水の入手である。山がないから川が少ない。農業用かんがい設備整備も然り、生活用水のための井戸の掘削も然り、安全な水の確保のための活動は、当会設立当初から今日に至るまで、農村地域でも町でも続けている。

またモザンビークは農業生産性が低く、米の自給率は38.3%。スラムの住民のほとんどが輸入米を食べている。中でも比較的安価でおいしいと好評なのがベトナム米である。

一方、州内で生産されている米はChupaという種類の米がメインで、日本米と引けを取らないおいしさだが、地元の米を入手するのはたやすくない。流通システムが満足に整っておらず、その上、価格も輸入米より高いからである。

そして、困ったことにテロ攻撃のターゲットは農村地区であるため、農村での農業を辞めて、まだ安全な町に引っ越す人も増えている。また、幹線を走る車両がゲリラ集団に襲撃される事件が増加し、物流がさらに困難に。農村で穫れた農作物を町に運び出すのも命懸けという状況になっている。

●限られたお金と食材で大家族を賄うスラムの食卓

この日の献立は、いつものおいしい豆シチュー。

さて、スラムの日々の食事はというと、主食はシーマ(トウモロコシの粉を湯で練り上げた伝統食)もしくは米に、副食は豆シチュー。これが通常食である。

モザンビークでは十分な食事を買う余裕がない人の割合が8割。給料は月に8,000~1万円。しかも、北部は物流コストが加算され、食料価格が首都よりも高い。

スラムの市場で売られている作物は、タマネギ、じゃがいも、トマト、オクラ、葉物に、豆類とバリエーションが少ないが、これもテロとサイクロンの影響で例年よりも商品数が少なくなっている。さらに物価が高騰し、食料不安が高まっている。

大家族のスラムでは、10~20人の大所帯で日々の食費を捻出するため、コストパフォーマンスの良い豆シチューがほぼ毎日調理される。この豆シチューの豆は、ササゲやライマメ(バター豆)が一般的である。

次に頻繁に作られる献立は、モリンガやキャッサバなどの葉を使ったシチューで、粉にした落花生やココナツを加えた栄養満点のメニューである。筆者も大好物で、過酷な暮らしの上、病気になってもまともな医療を受けられる病院がないため、健康を考えて、栄養価の高いモリンガの葉を好んで使っている。

このモリンガ。今では日本でも、“スーパーフード”“奇跡の植物”というキャッチコピーとともに販売されているが、モザンビークでは北部地域にのみ自生しており、当会では、スラムの住民の栄養改善と緑化の両立を目的として、播種育成し、スラムの各家庭の庭に移植する活動も行っている。

動物性タンパク質を摂取するメニューとしては、鳥や牛肉、アジのシチューが定番である。

調理の際の熱源はというと、町のスラムでは筆者も含め、木炭を使用している。木炭は農村地区で伝統的な方法で生産されており、貴重な収入源であるため、農村では薪を調理に使う。日本企業も参入し、現在進行中の巨大天然ガス開発により、スラム地区でもガスが手軽に使えるようになるか否か…。

エビや大豆、ゴマなど、モザンビークから海外へ輸出されているが、住民の口に入ることのない食材も少なくない。ガスに関しても同じ道を歩まぬことを祈るばかりである。

●「いのちをつなぐ」から、「いのちを守る」活動へ

当会ではスラムの学び舎・寺子屋を建設運営し、子供や青年に対する道徳教育を基本とした各種学習の場を毎日開所している。寺子屋のあるナティティ地区では両親がそろっている子供の方が少なく、両親共にいない子供もおり、欠食児童に対する配食と同時に、一日3食食べられる子供たちがおなかを減らしている友達に少しずつ食べ物を分けてあげる習慣を付けており、力を入れた配食活動というよりも、子供たちの主体的な助け合いの輪で、「いのちをつなぐ」食と栄養の輪も創っている。

2020年の課題としては、テロやサイクロンにより、これまで経験したことがなかった危機的な状況も発生しているため、「いのちを守る」新たな活動も必要になっている。過激派組織のリクルートも耳にするため、暴力行為に巻き込まれないための知識やコミュニケーション方法も含めた平和教育を子供たちに行う。

また、ナティティ地区は豪雨で全域浸水し、食料が不足するため、食糧備蓄の準備や防災マニュアルの整備など、現地で初の試みとなる防災活動にも着手する予定である。

当会は小さな団体であるが、スラム地区の人たちとともに暮らし、日々の喜怒哀楽を分かち合うことで信頼を強固なものとしている。現場に入り込んだ草の根レベルだからこそできる活動で、困難に立ち向かっていきたい。

誰ひとりとして、失わないために。

農村キサンガ地区での農業活動ではお母さんたちが奮闘

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