フロント/話題と人永島 太一郎さん(株式会社 永島農縁 代表取締役)

2020年06月15日グローバルネット2020年6月号

コロナ禍にシイタケ栽培が話題に
~「農業の楽しさや食べ物のおいしさを伝えたい」~

永島 太一郎(ながしま たいちろう)さん
株式会社永島農縁 代表取締役

新型コロナウイルスの感染防止のために外出自粛が求められていた2020年4月から5月にかけて、なぜか「おうち時間にシイタケ栽培」が密かな話題になった。その仕掛人がこの永島さん。横浜市のキノコ農家だ。

永島さんが育てる「おひさまシイタケ」はコロナ禍による影響で飲食店向けの販売は9割減。思わぬ事態の中、4人の息子たちと過ごしながら思い付いたのが、育てて収穫も体験できる菌床栽培セットだ。ネットで販売してみたところ、「にょきにょき生えてくる!」「心が癒やされる」などの声がSNSで広がり注文が殺到。在庫の5,000セット近くを完売してしまった。水やりに気をつければ4~5回は収穫できる。中には一つひとつに名前を付けたり、「しいたけが大好きになった」という人も。さらに、このブームは業界にも広がり、大手菌床メーカーの売り上げは前年に比べ3倍も増えたという。

もともと外資系銀行に勤めていた永島さんだが、結婚後、500年以上続く奥さんの実家の農園を継ぐことになり、専門学校や生産者団体などで農業の技術だけでなく経営までを体系的に学んだ。勉強で訪れたシイタケ農家で収穫したてのシイタケをその場で焼いてごちそうになり、その味に感動して自分でも栽培したいと考えた。戦後、地元で初めて花の栽培を始めた先代のおじいさんの「時代のニーズに合わせた農業に挑戦してみなさい」という後押しにも支えられたという。

「おひさまシイタケ」はあえて太陽の光に当てて原木栽培に近い環境で育てる。農薬は一切使わず、菌床は国産広葉樹のおがくずと米ぬかやトウモロコシの芯など。収穫に使った後は、野菜栽培の堆肥として使う。

永島さんは、収穫体験やバーベキューなど子供も大人も農業を体験できるイベントを積極的に企画する。また、若手農家のグループ作りや加工商品の開発、体験型農場を整備するなど、企画はいずれも進行中だ。

江戸幕府が政権返上した日が誕生日。その「新しいものを生み出していくエネルギー感が好き」で、「大政奉還」をEメールのアドレスの一部に使う。「こんな時だからこそ、前を向いて農業の楽しさや食べ物のおいしさをどんどん発信し、未来につなげていきたい」と熱く語る。38歳。(絵)

タグ:,