環境ジャーナリストの会のページオンラインでつながる地域の環境、世界の環境

2020年06月15日グローバルネット2020年6月号

日本環境ジャーナリストの会会長
朝日新聞編集委員

石井 徹(いしい とおる)

日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)がほぼ毎月開いてきた勉強会は核の活動の一つである。旬の人たちから話を聞き、会員の親睦を深め、外の人たちと交流する貴重な機会でもあった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大で開けなくなった。

Z00Mなどを使った会議や授業の動きが広がる。メディアでもオンライン取材を始めている。電話と違って複数でやり取りしたり、資料を共有したりには便利だ。何より、なかなか直接会えない状況で、相手の顔を見ながら話すのは楽しい。会でも5月からオンライン勉強会を始めることにした。

 

地方紙とどう連携していくか

4月に会のメンバーで何度かオンライン会議を開いて練習した上で、5月18日に最初に招いた講師は、京都新聞編集委員兼論説委員の日比野敏陽さんだ。現在は編集部長として東京支社に勤務する。最近は記者会見を切り上げようとする安倍晋三首相を止めて会見を続けさせたことでも話題になった。京都議定書を採択した1997年の国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)の担当以来、世界や地域の環境問題にも造詣が深い。

テーマは「地方紙とどう連携していくか/地方の環境問題の取り上げ方」だった。会員の勤務地や居住地は東京が中心だ。イベントも平日の夜に都心で開くことが多い。地方の環境問題に目を向ける機会も少ない。全国各地の市民やジャーナリストとどう交流を深め、連携していくのかは、会にとって大きな課題だ。だが、オンラインなら、通信事情さえよければ、全国どこでも、世界中の人たちともつながれる。

日比野さんは、琵琶湖で酸素を多く含む表層の水と酸素が少ない下層の水が混じり合う「全層循環」が2年連続で起きなかったことを報告。地球温暖化の影響が地域に表れている例として今後の生態系への影響を懸念した。一方で、「琵琶湖の水質自体は改善されているので、公害の時のように危機感を共有するのが難しい」と話した。

また、京都府の福知山市や舞鶴市で稼働・計画しているパーム油を使ったバイオマス発電所に対する住民の反対運動を紹介。温暖化対策として進められている再生可能エネルギーが、地域によっては環境破壊をもたらしている実態について触れた。パーム農園開発は、インドネシアなどの住民や生態系にも深刻な影響を与えている。地球温暖化防止という大義に隠れ、忘れられがちな個々の被害に目を向け、地方と連携する必要を改めて感じさせた。

 

人と自然との関わり合い方

第2回の5月26日の講師は日本環境教育フォーラム理事長の川嶋直氏。山梨・清里を拠点に、約40年間活動する参加体験型環境教育の草分けの一人である。「アフターコロナ/人と自然との関わり合い方」と題して、外出自粛によって休校状態に追い込まれた自然学校の窮状や、コロナ後の自然との付き合い方についてお話しいただいた。

川嶋さんの卓越した知見は自然だけにとどまらない。伝え方についても並外れた技術を持ち、いくつもの著作がある。パワーポイント全盛時代に、マーカーで手書きした紙を磁石でボードに貼る「KP(紙芝居プレゼンテーション)法」など、その手法はユニークこの上ない。この機会にコミュニケーションの秘訣も学びたいと思った。

KP法を使った川嶋さんのオンライン勉強会には、想定を超える40人が参加した。コロナ禍でもオンラインでの講演を重ねているだけあって、舌を巻く話のうまさで、聴衆の笑い(音声はミュートにしていたので、チャットの文字だが)も絶えない。本来は訪問する予定だった中国の自然教育関係者への研修や各国の国立公園関係者との会議もオンラインになったという。最後は「(コロナ前には)もう戻れない 戻りたくない 戻る必要もない」というメッセージで締めくくった。

多くの人と直接会えず、自然に抱かれることが難しいいまだからこそ、人と会うことの意味や自然の大切さについて考えたい。オンラインは、そのためにとても役立つ道具だ。今後もオンラインによる地方や海外の人たちとの交流の可能性を探っていきたい。

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