特集/コロナ禍から見えてきた環境破壊の罪②~強靭で持続可能な「コロナ後の世界」を目指して~新型コロナとつながる熱帯林破壊、対応を求められる日本の金融機関

2020年07月15日グローバルネット2020年7月号

米環境NGOレイン・フォレスト・ネットワーク(RAN)
「責任ある金融」シニア・キャンペーナー

ハナ・ハイネケン

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言が解除され、日本の社会全体は「コロナ後」の姿を模索し始めています。これからは経済や社会、日常の生活が受けた大きなダメージを速やかに回復し、より良い社会を構築することが求められます。
 本特集は、そのための具体的な対応として、循環型社会、自然資源を擁した観光地、そして金融機関の環境・社会問題への対応などについて論じていただき、強靭で持続可能な社会をどのように築いていくべきか、今後の社会の在り方について考えます。

 

新型コロナウイルスの感染拡大は、熱帯林破壊とも大きな関係がある。投融資を通じて東南アジアの熱帯林破壊を助長してきた日本の金融機関は、森林を守り、次の感染症を防ぐ責任がある。

2020年4、5月、日本の3メガバンクはESG(環境・社会・ガバナンス)与信方針を改訂した。みずほフィナンシャルグループが森林セクター方針に画期的な基準を盛り込んだ一方、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)は改善はあったものの進展は遅く、メガバンクの中で対応が分かれる形となった。

熱帯林保護は感染症予防策

国連環境計画(UNEP)インガー・アンダーセン事務局長は今年4月、新型コロナウイルスの感染拡大について「自然をうまく管理すれば、人間の健康も維持できる」と見解を発表した。壊れやすい生態系に人間が入り込むことで、人間と野生生物の接触がかつてないほど増大していることや、野生生物の違法取引が深刻な感染症を悪化させていると説明した。新しい感染症の約75%は人畜共通感染症であり、こういった感染症から毎年約10億の事例と数百万人の死者が発生していると警鐘を鳴らしている。その因果関係はで示される。

動物由来感染症の危機を拡大させる要因の一つとして森林破壊が挙げられる。研究機関のグローバル・フォレスト・ウォッチによると、2001~15年の世界の森林破壊の50%以上はパーム油、パルプ、紙、牛肉、大豆、カカオ、木材等の産品生産が原因であり、これらの産品は総称して「森林リスク産品」と呼ばれている。農園や植林地開発のために森林は伐採され、開発に伴う道路建設はさらなる森林破壊を引き起こし、違法伐採等の事業活動のために森林へのアクセスを容易にする。森林を分断して野生生物の移動ルートを遮断し、生息地を断片化する。

また同機関によると、2016~18年に森林破壊は悪化し、2019年のみで1,190万haの熱帯林が失われ、その内の3分の1は原生林だった。東南アジアの熱帯林破壊の80%は農業用の土地利用転換が原因で、多くはパーム油、紙パルプ等の生産や林業のための大規模開発による。陸上生物種の大半が熱帯林に生息していることからも、感染症予防策として熱帯林を保護することは極めて重要である。

気候危機の観点でも、熱帯林は二酸化炭素の吸収など気候の安定にも重要な役割を果たす。熱帯林は周辺で暮らす地域住民や先住民族にとっては住居であり、生活の柱であり、宗教的または精神的なよりどころでもある。国連「持続可能な開発目標」(SDGs)目標15では「2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な管理の実施を促進し、森林破壊を阻止し、劣化した森林を回復」するという目標が掲げられ、他の目標に比べて10年も期限を前倒ししている。森林保護がいかに喫緊の課題であることかを伺い知ることができる。

日本の金融機関の熱帯林破壊との関わり

日本の金融機関、とくにメガバンクの投融資先には、東南アジアの熱帯林や泥炭地を破壊し、人権侵害に関与している企業が複数ある。現地の紙パルプ企業やパーム油企業に加え、王子製紙、丸紅、住友林業、伊藤忠や住友ゴムといった日本企業も含まれ、森林を犠牲にしながら、パルプ、木材、天然ゴムを生産、加工、または調達している。

RANは、東南アジアの熱帯林に悪影響を及ぼしている103社の中から、資金を受けた金額が多い上位10社の森林リスク部門を抽出し、日本の金融機関による投融資の流れを分析(2017年~2019年8月)、最も資金調達額が大きかったのは王子製紙だった。同社は熱帯地を含む世界中で紙パルプ事業を展開している。インドネシアでの合弁パートナー企業3社(コリンド社、インドフード社/サリム・グループ、APP社/シナルマス・グループ)は、熱帯林破壊や違法行為、人権侵害を含む環境・社会問題について長年指摘されてきた。しかしながら合弁事業は継続されている。

王子製紙への主な資金提供者はSMBCと三井住友信託銀行である。またMUFGは、東南アジアを拠点とする企業、とくにシナルマス・グループのパーム油企業への投融資が他の金融機関と比べて多い。そして、3メガバンクは違法な労働搾取と泥炭地の開発が指摘されてきたサリム・グループの重要な資金提供者である。両グループは、インドネシア政府が2019年の森林火災への関与を理由に農園事業を凍結した農業関連企業に含まれている。

みずほ、邦銀で最も厳しいESG方針を発表

みずほは4月15日に発表した方針改訂で、熱帯林破壊阻止に重要な対策を新規採用した。まず、パーム油、木材・紙パルプ 部門への投融資におけるグローバル・ベストプラクティスである「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ方針」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の策定を邦銀で初めて投融資先に要求した。そして地域住民等への「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC:Free, Prior and Informed Consent)の尊重も求めている。また、社会問題に関する顧客企業の改善策が不十分である場合は資金提供を停止することも盛り込んでいる。

SMBCにも方針改善は見られた。方針の改定によって、森林伐採を伴う事業での火の使用を禁止し、パーム油事業においては「新規農園開発時の森林資源および生物多様性の保全、児童労働などの人権侵害が行われていない」場合にのみ資金提供を行うとしている。MUFGは去年策定された方針によって、森林セクターの全融資先の事業に認証機関の認証を求めているが、他のメガバンクと比べては遅れを取っている。また、農林中金と三井住友信託は森林セクターの方針を今年初めて策定した。農林中金は、パーム油事業会社にRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)の認証取得を要求していることは評価できる。

2017年頃から、国内外のNGOは日本の金融機関に継続的なキャンペーンを展開してきた。この2年間で各金融機関の対応は強化された一方、環境と社会に対してポジティブ・インパクトを及ぼすには、みずほが採用したNDPEを含む方針強化を行い、現地の生産会社だけでなく、日本の商社にも適用することが重要だ。

邦銀は東南アジアも含め、世界中で銀行業務を展開しているため、その影響力は大きい。森林と人権を保護し、気候危機に対応するためには、より一層の厳しいESG方針を策定し、徹底的に実行することが期待される。

参考: RAN 報告書『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』要約版(2020 年5 月)、『森林火災・違法行為とメガバンク』(2020 年1 月)

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