環境ジャーナリストの会のページ激甚災害から命を守るために必要なパラダイムシフトはどのように起こるのか

2020年08月18日グローバルネット2020年8月号

日本環境ジャーナリストの会準会員
堀田 真弓(ほった まゆみ)

新型コロナウイルスの感染拡大により、日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)の勉強会は、5月に引き続き6月と7月もオンラインで開催された。平日の夜でも自宅から参加できるため、学生の参加者が増えたように思う。

パラダイムシフトが求められている

6月の勉強会のテーマは、「コロナ時代のSDGs」であった。講師は、JFEJ副会長でNHKエンタープライズのエグゼクティブプロデューサー堅達京子さんと、テレビ朝日「スーパーJチャンネル」土曜のメインキャスター山口豊さん。

堅達さんは、withコロナの今こそ真のパラダイムシフトが求められていると述べた。新型コロナウイルスの出現には自然環境破壊が大きく関わっているという話の後で、堅達さんが引用した「地球というピッチが壊れてしまえば、サッカーの試合はできない!」というポール・ポールマン(前ユニリーバCEO)の言葉が非常に印象的だった。新型コロナウイルスの感染拡大により、オリンピックも、事業活動も、日常生活も、すべては地球環境が人類にとって安定的に機能していることが前提であることに気付かされたからかもしれない。

山口さんは、コロナ時代にあって、ますます分散型社会に移行する必要性が高まっていることを説いた。日本がドイツの9倍もの再生可能エネルギー資源を活用できるポテンシャルを持ちながら、なお外国で産出される化石燃料に依存し、毎年19兆円もの資金が海外に流出しているという話に衝撃を受けた一方で、講義後の質疑において、再生可能エネルギーの研究を行っていると話す学生の熱心な姿勢に希望を感じる場面もあった。

激甚災害と地球温暖化

奇しくも「令和2年7月豪雨」の前夜となった7月2日に行われた勉強会のテーマは「激甚災害をもたらす台風や豪雨の実体と将来予測」であった。講師は名古屋大学宇宙地球環境研究所教授の坪木和久氏。最初に、近年日本で多発している豪雨についての解説があった。大気に含まれる多量の水蒸気は河のように帯状に流れていて、2015年9月に茨城・栃木両県を流れる利根川の支流、鬼怒川の決壊を起こした豪雨の際には、太平洋で大量の水蒸気を含んだ「大気の河」が関東から東北地方に流れ、その中で発達した積乱雲が列になって線状降水帯を形成し、多量の雨を降らせた。この豪雨ではアマゾン川の2倍の水蒸気が「大気の河」を流れ、その半分以上が雨になって降り注いだと考えられている。

さらに話は台風の仕組みや激甚災害と地球温暖化の関係にも及んだ。気温上昇によって大気に含まれる水蒸気の量は増え、海水温の上昇により巨大な台風が勢力を維持したまま日本列島に接近する可能性は高まるという。シミュレーションの結果によれば、平均気温が約2℃上昇した場合、2013年にフィリピンを襲ったスーパー台風ハイエンのような強烈な台風が日本に上陸する確率が高まり、880ヘクトパスカルの台風が伊豆半島沖に上陸した場合、東京湾の高潮は6mもの高さになるという。質疑の際に、昨年の台風19号のような異常気象の原因が温暖化であると証明することはできないのかと、坪木氏に尋ねてみた。すると、従来の気象学の枠組みでは、個別の異常気象について、時間軸の異なる気候の枠組みから因果関係を結論付けることは、次元の違う話と捉えられていたそうだが、近年、「富岳」のようなスーパーコンピューターの高速化と大規模化によって、シミュレーションに関する技術が発展したことにより、シミュレーション上のパラレルワールドで温暖化のある世界と無い世界を創り出し、温暖化が個別の気象イベントにどの程度寄与しているかを明らかにすること(イベント・アトリビューション)が可能になってきているという。

坪木氏の著書『激甚気象はなぜ起こる』の最終章には、危険を知らせる情報が発信されていても人びとの行動にはつながらないこと、また、ギャップを埋めるパラダイムシフトを起こすヒントが記されていたように思うので、ぜひ皆様にもお読みいただきたい。

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