環境条約シリーズ 345国際海運における温暖化対策の強化

2020年12月15日グローバルネット2020年12月号

前・上智大学教授
 磯崎 博司(いそざき ひろじ)

 国際海事機関(IMO)の第75回海洋環境保護委員会が2020年11月に開かれ、現行のエネルギー効率基準を強化して海運からの温室効果ガス排出をさらに削減するために、MARPOL(海洋汚染)条約附属書VI第4章の改正案が承認された。それは、IMO温室効果ガス排出削減初期戦略(2018年)に定められている国際海運の炭素集約度(エネルギー消費量当たりの二酸化炭素排出原単位)を2008年比で2030年までに40%削減するという目標に沿っている。

 現行の削減義務はエネルギー効率設計指標(EEDI)と船舶エネルギー効率管理計画(SEEMP)に基づいている(本誌2017年12月)。ただし、EEDIは400総トン以上の新造船に限られている。

 改正案は、現行の義務の上に、炭素集約度をさらに減らすための義務を追加した。それは、船の改装・艤装ぎそうという技術面と運航面での対策を定めている。

 まず、技術面では、400総トン以上の既存船に対象を広げ、新しい指標(既存船エネルギー効率指標:EEXI)に基づいた炭素集約度削減措置を定めた。各船舶には、特定されたEEXI(船種ごとに設定されたEEDI基準値より引き下げるべき割合)を達成することが義務付けられる。

 次に、運航面では、5,000総トン以上のすべての船舶に対して、炭素集約度指標(CII)に基づく削減対策を義務付けた。年間運航CIIは、船舶等級に応じて達成すべき運航炭素集約度の年間削減係数を示している。各船舶によるその達成度はAからEで評価され、SEEMPに記録される。D・E評価の船舶にはC以上を達成するための修正実施計画の提出が求められ、行政や港湾管理者にはAまたはBへの誘導・奨励措置を取ることが求められる。

 なお、開発途上国、とくに、小島しょ国や後発途上国の必要に配慮して、上の追加措置による影響を評価する基準も合意された。この改正は、2021年に開かれる第76回海洋環境保護委員会において正式に採択される予定であり、EEXIとCIIは5年間で見直される。

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