環境ジャーナリストの会のページ異分野の橋渡し役を目指して

2021年04月15日グローバルネット2021年4月号

毎日新聞 編集編成局次長 兼くらし医療部長
田中 泰義(たなか やすよし)

田舎育ちである。実家はカエルが騒々しく鳴く水田に囲まれ、満点の星が見えた。その影響で自然観察が好きになり、大学で地球物理学を専攻した。新聞記者になってからは主に地球環境問題を取材した。「21世紀は環境の世紀」と話す有識者が現れ、自分が早くから環境問題に関心を持ってきたことに誇りがあった。最近、新型コロナウイルスなど医療や社会保障も担当するようになり、環境問題の解決のために視野を広げる重要性を痛感している。

環境分野から離れて

これまで何度も「X年後には気温がY度上昇/世界でZ億人が水不足に直面/気象災害が多発/島国は水没の危機」などとする将来予測に関する記事を書いてきた。こうした予測が非現実の世界ではないと思い、休職して米アラスカ大学に留学。「地球環境のセンサー」といわれる北極圏の変化を見つめた。他にも太平洋の島国ツバル、森林火災の頻発する米西海岸、大気汚染の深刻な中国・重慶などを訪れた。

スウェーデンの環境活動家、グレタさんが「私たちの未来が奪われようとしている」と訴え、世界中の若者を鼓舞したが、国内外の多くの報道が役割を果たしたと思う。今、世界は脱炭素社会に向かって歩み出した。これまでの歴史を振り返ると、画期的な変化である。

しかし、気候危機の状態は続いている。「類は友を呼ぶ」ということわざがあるように、私の周囲には環境問題に関心のある人が多かったが、医療や社会保障を担当するようになると、関心の高くない人の存在に気付いた。彼らは「温暖化に関心がありますか」と聞けば、「ある」と答えるが、行動につながっていないのではないか。弊社が衆院選などで「争点」を問うと、最大の関心事は「年金・介護・医療」に代表される社会保障だ。温暖化と表裏の関係にあるエネルギーを含めても環境問題への関心は20ポイント前後低い。

行動を促すには

行動変容が重要なのは、感染症対策にも当てはまる。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、東京大学の奥原剛准教授は、①知事 ②感染症の専門家 ③コロナ病棟で働く医師 ④患者 ⑤感染爆発地域住民のうち、どのメッセージが市民の感染対策行動を促したのかを検証した。詳細は省くが、最も影響を与えたメッセージは、頻繁に取り上げられた「何の対策も取らないと国内で42万人死亡の可能性あり」とした感染症の専門家ではなく、「マスクも防護服も不足。同僚が一人でも感染したら、スタッフが自宅待機となり、治療を続けられなくなる。それでも私たちは踏みとどまる」という医師だった。

また、東京女子大学の橋元良明教授の調査によると、昨春に市民が新型コロナウイルスの危険性を認識したきっかけとなった最大の出来事は「志村けんさんの死」で、「緊急事態宣言」などを上回った。

ナチス幹部アドルフ・アイヒマンは「一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」と語ったという。上述した「Z億人が水不足」などの将来予測報道は重要だが、さらなる工夫が必要といえそうだ。

つながりに気付く

朝日新聞の北郷美由紀さんが本コーナー「SDGsという接着剤」(2019年12月号)で、「環境、社会、経済は絡み合っていて切り離すことはできない」と指摘した。環境と医療も関係が深い。

ウイルスは、森林破壊などで野生動物との距離が縮まり、ヒト社会に侵入しやすくなったと、専門家が警告している。今年1月に当会主催のシンポ「気候変動と社会変容」で、東京大学の橋爪真弘教授は「温暖化で蚊の生息域が北上し、日本でもデング熱の拡大リスクが高まっている」と語った。市民の健康は、医療費の抑制にも貢献できるはずだ。

一つの課題の解決は他の課題の解決に寄与すると考える。私にできることは小さく、目前の事象に対処するのが精いっぱいだが、報道が各分野の橋渡しとなり、課題解決につなげたいという気持ちを強くしている。

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