環境条約シリーズ 354北海道・北東北の縄文遺跡群が世界文化遺産として登録

2021年09月15日グローバルネット2021年9月号

前・上智大学教授
 磯崎 博司

2021年7月の世界遺産委員会において「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道6ヵ所、青森県8ヵ所、秋田県2ヵ所、岩手県1ヵ所)が世界文化遺産として登録された。その遺跡群は、約1万5,000年前から5,000年前までの縄文時代に津軽海峡の両岸地域に同一の文化圏が存在したことを示している。当時は冷温帯落葉広葉樹林が広がり、山・川・海の産物に恵まれたが、それでも1万年以上の間、採集・狩猟・漁労を基盤とする生活様式が継承されたことは世界的にも珍しい。

その間、土地形状を大きく改変する農耕・牧畜に移行せず、温暖化や寒冷化に伴う環境変化に適応しながら独自の文化圏と生活様式が継承されたこと、草創期から晩期までの各時代を代表する定住的居住形態を表す遺構(竪穴式や掘立柱の建物跡、貯蔵穴、貝塚)および信仰・精神文化を表す遺構(墓、祭祀用盛土、環状列石)が含まれていること、また、当時の地形(山麓・平地・川・湖・海岸)それぞれの利用形態を表す遺構がそろっていることは、世界遺産委員会において、登録基準ⅲおよびⅴに沿っていると評価された。

各遺跡から多くの石器・土器・骨器・土偶(遮光器土偶を含む)が、また、湿った場所の遺跡からは赤漆塗りの木製大皿や薄く精巧な木器が、貝塚からも多様な魚介や獣・鯨の骨が出土した。墓からは、幼児の足形の付いた粘土板や筋萎縮症で動けなかったと思われる成人の骨も出土しており、傷病者を家族および集落で支えていたらしい。出土品(動産)自体は世界文化遺産の登録対象ではないが(世界遺産条約1条、作業指針48)、建造物や遺構(不動産)の背景や用途が上記のような多くの出土品によって物語られていることは、登録基準ⅲに沿っていると評価された。

ただし、構成遺産を分断する現代の道路や構築物などの問題が指摘されており、追加的に以下を行うことが勧告された。a)対象区域内の私有地の公有化促進、b)不適切な構造物の撤去・影響軽減、c)発掘記録・遺物目録・調査報告書の充実、d)保全管理への利害当事者すべての参加促進、e)詳細な管理区分地図の提出。

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