続・世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する環境団体第1回 ミャンマー・インレー湖周辺住民の持続可能な生活に向けて

2022年01月14日グローバルネット2021年12月号

認定NPO法人地球市民の会
柴田 京子(しばた きょうこ)

地球市民の会は2003年からミャンマーで事業を開始し、①農業支援、②地域開発、③教育支援、④環境保全、⑤国際交流の五つを事業の柱として活動しています。2017~2018年に地球環境日本基金の助成を受け、ミャンマー連邦共和国シャン州南部に位置するインレー湖周辺地域で循環型農業の技術を用いた環境保全型農業の普及と実践に取り組みました。

インレー湖はミャンマー有数の観光地であり、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)にも指定され、国際的にも注目されています。しかし、近年、水質汚染や森林破壊、ごみ問題など湖を取り巻く環境の悪化が指摘されています。具体的には、住民による生活排水の垂れ流しや栽培用肥料の過大投入、ごみの投棄による水質汚染の進行、富栄養化による水草の繁茂、土砂の流入による湖底の上昇および湖内の舟運への障害、水質悪化による住民の健康被害などです。湖底の上昇や水質悪化は、湖内の環境変化を引き起こし、湖内の生態系にも影響を与えています。

助成事業では、事業地の産業である農業に注目し、「環境保全型農業を湖畔村で普及・実践することにより環境面と経済面の両面でインレー湖周辺住民が持続可能な生活を送ることができるようになる」ということを目標としました。

2年間を通して、パイロット事業地2村で環境保全型農業の普及、アグロフォレストリーも取り入れた植林の実施による湖への土砂流出防止策を実践しました。環境保全型農業の成果物は、「有機農産物」として付加価値を付け、慣行農業の生産物よりも高値でヤンゴンにて販売し、生産者にもより多くの売り上げを還元することができました。

●助成後の取り組み

助成をいただいた事業での反省として出ていたことや地域住民から出されたアイデアに基づき、活動を継続したり、新たな活動を開始したりしています。

 

◆学術機関との連携

助成期間と同時期から大学との連携を開始し、インレー湖の水質調査、気象観測、水位・水温・流量観測、水質調査、水利用・排水処理実態調査・環境意識調査を行いました。専門家の目線から汚濁負荷量の算定・評価に基づき、インレー湖の水質形成機構を検討するとともに、水質シミュレーション解析などを行った上で、今後必要となる水質保全対策について検討していただきました。これらの資料は非常に説得力がある材料として、啓発活動実施時に使用しています。

 

◆現地NGOとの連携による啓発活動の継続

環境保全に関する啓発活動は、主にTPA Myanmarという現地のNGOと協働し、現在も継続して行っています。2019年は576名、2020年は308名に研修を行いました(写真①)。2021年は新型コロナウイルス(Covid-19)感染拡大の影響により集会が制限されたため、思うように研修ができていません。気付き、理解し、行動に移すまでには時間を要すると思っています。地道な活動を継続していき、一人でも多くの人が行動に移すことができるように努力していきたいです。

写真① 現地NGOと連携して続く研修

 

◆植林活動の継続

2017~18年の助成期間中には、10,640本の植林を実施しました。その後も2019年に5,800本、2020年に7,970本、2021年に6,650本の植林を行っています。活動を継続する中で、地域住民の植林への積極的な姿勢と意欲の高まりを感じています。

植林を希望する村が非常に増えました。そしていざ植林をすることが決まったら、住民全員が労働奉仕で植林を行い(写真②)、乾季に向けて防火帯作りも実施します。

写真② 地域住民が労働奉仕によって行う植林活動

現在では湖畔や水路周辺地域だけではなく、湖の東西に広がる山岳地域での植林も行っています。

 

◆有機野菜販売の継続

助成期間中にも取り組んだ有機野菜の販売を継続しています。ヤンゴン市内のアパートで開いていた有機野菜販売店がホテル内の敷地に移転し、店の規模が大きくなりました。一方、Covid-19やクーデターの影響で帰国を余儀なくされる外国人が多く、顧客が激減した時期もありました。そのような状況を受けて、販売店と連絡を取り合いながら外国人向けから地元の人向けの販売にシフトし、ミャンマー人が好む野菜の品種を栽培するなど工夫をしています。

 

◆ホテイアオイ堆肥のビジネス化

湖に過繁茂したホテイアオイを引き上げ、助成事業でも行っていた堆肥作製を引き続き実施し、販売を開始しました。2019~2021年の間で133 tのホテイアオイを引き上げ、45 tの堆肥を作りました。また、現地農業省機関での成分分析も受け、品質向上に努めています。Covid-19の影響により移動や運搬が制限される中ですが、販売も少しずつ始まっています。

 

◆ごみ委員会の発足

水中、水上、湖畔に散乱するごみに対して住民の問題意識は高まっていきました。当会が事業を実施する地域の中で、若者が中心となって組織した「ごみ委員会」はごみ箱を設置し(写真③)、ごみが散乱しないよう呼び掛けました。当会からもごみの削減や堆肥化などに関する研修を実施しました。若者の力は非常に影響力があり、若者グループ同士が交流することにより、さらに活動が盛んになってきています。

写真③ 設置するごみ箱を運搬するごみ委員会の若者たち

●「行動の10年」に当たって

助成事業終了から3年が経過しましたが、助成期間中に実施した活動によって地域の人びとに気付きを与えることができ、多くの人を巻き込んだ積極的な活動につながっているという実感があります。意識の変化も感じられるようになり、若者たちの積極的な行動につながっています。若者がやるなら大人もやらなければ! と言って地域全体で動いていこうという流れが出てきました。

国連は持続可能な開発目標(SDGs)の目標達成年である2030年までを「行動の10年」とし、取り組みのスピードを速めて活動規模を拡大するよう呼び掛けていますが、地域を巻き込み自分事と思って行動を起こせる人を増やすこと、そしてその活動を継続していくことの大切さを改めて感じます。当会もそれらのことを心に刻み、今後の活動を継続していきたいと思っています。

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