INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第73回 「減汚降炭」の実施計画公表される

2022年08月15日グローバルネット2022年8月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

今年4月号の連載第71回で、2020年代の環境政策の重点は「減汚降炭」になると紹介した。「減汚降炭」とは、「汚染物質の排出削減と二酸化炭素(CO2)排出の低減」という意味の新造語である。最近の重要な政策文書の中で頻繁に出てくるこの言葉は、2021年の十大新語の一つに選ばれた。汚染物質の排出削減とCO2排出の低減を同時に実現するコベネフィット対策の実施、汚染物質排出削減対策と気候変動対策に係る政策の統合が今の中国の最新トレンドになっていることはこれまでも触れたとおりだ。

このような流れの中で、去る6月に「減汚降炭」の具体的実施に係る計画(「減汚降炭コベネフィット効果向上実施方案」)が策定された。生態環境部、国家発展改革委員会、工業情報化部、住宅都市農村建設部、交通運輸部、農業農村部、国家エネルギー局の7部門連名で全国の地方政府等に通知されるとともに、一般公開された。2021年1月に生態環境部が単独で通知した「気候変動対応と生態環境保護に関する事業の統合と強化に関する指導意見」から1年半の歳月を経て、ようやく関係省庁連名での取り組みに「昇格」したといえる。

それでは、この「実施方案」の構成(8分類29項目)に沿って概要を見てみることにしたい。

 

1.直面する情勢

先進国が環境汚染問題をおおむね解決した後、CO2排出抑制を強化する段階に移行したのとは異なり、現在、中国の生態文明建設は①生態環境の根本的改善および②CO2排出ピークアウト・カーボンニュートラルの実現という二つの戦略的任務に同時に直面しており、生態環境の多くの目標達成に向けての対策要求は一層際立っており、汚染物質削減とCO2低減を連携させて推進することは、既に中国の新たな発展段階における経済社会発展の全面的なグリーン化に向けての必然の選択になっている。

 

2.全体要求

ここでは、全体の方針である指導思想、5つの業務の原則および主要な目標について述べている。

(一)指導思想では、汚染物質削減とCO2低減のコベネフィット効果向上の実現を、経済社会の発展における全面的なグリーン化の促進に向けた総合的な手掛かりとし、美しい中国の建設とCO2排出ピークアウト・カーボンニュートラルの目標に狙いを定め、汚染防止と気候対策の全体性を科学的に把握し、構造調整と構成配置の最適化を鍵とし、対策の最適化を重点とし、政策連携と仕組みの革新を手段とし、法規基準を整備し、科学技術のサポートを強化することで、環境対策の総合的な効果を全面的に高め、環境効果、気候効果、経済効果のすべての面の効果向上を実現する、としている。

(二)業務の原則のうち、①「コベネフィット効果向上の優先」では、CO2排出ピークアウト・カーボンニュートラルと生態環境保護に関する業務を統一的に計画し、目標、地域、分野、任務、政策、監督管理における連携・協調を強化し、生態環境政策とエネルギー産業政策の協同性を強化し、CO2排出ピークアウト行動で環境対策をさらに深化させ、環境対策をもって質の高いピークアウトの推進を後押しする、としている。

②「発生源での予防と抑制の強化」では、環境汚染物質とCO2排出の主要な発生源に焦点を当て、主要分野、重点産業、重要なプロセスを優先し、資源とエネルギーの節約と効率的な利用を強化し、汚染物質削減とCO2低減に資する産業構造、生産方式、生活様式の形成を加速する、としている。

③「技術ロードマップの最適化」では、水、大気、土壌、固体廃棄物、温室効果ガスなどの各分野における排出削減要求を統一的に計画し、対策目標、対策プロセスおよび技術ロードマップの最適化を図り、自然に基づくソリューションを優先し、技術の研究開発・応用を強化し、複数の汚染物質と温室効果ガスの協同抑制(コーコントロール)を強化し、汚染防止とCO2排出対策の協調性を強化する、としている。

④「メカニズムのイノベーションへの注力」では、既存の法律、法規、基準、政策体系、統計、モニタリング、監督管理能力を余すところなく利用し、管理制度、基礎能力および市場メカニズムを整備し、汚染物質削減とCO2低減を一体的に推進し、効果的なインセンティブと制約を形成し、汚染物質削減とCO2低減の目標任務の実施を強力に支える、としている。

⑤「先行試行の奨励」では、大衆レベルの積極性と創造力を発揮し、管理方式を刷新し、それぞれ特色のある典型的な方法と効果的なモデルを形成し、普及と応用を強化し、多くの層および多くの分野で、汚染物質削減とCO2低減のコベネフィット効果向上を実現する、としている。

(三)主要な目標として、2025年までと2030年までの段階的目標を掲げている。

①2025年までに汚染物質削減とCO2低減を連携させて推進する業務の仕組みをおおむね形成する。重点地域と重点分野の構造最適化と調整、グリーン・低炭素発展において著しい成果を上げる。普及可能な代表的な経験を数多く形成する。汚染物質削減とCO2低減の連携協調の程度を効果的に高める。

②2030年までに汚染物質削減とCO2低減の連携協調能力を顕著に高め、CO2排出ピークアウト目標の達成に貢献する。大気汚染防止重点地域のCO2排出ピークアウトと大気質改善を連携させて推進することにおいて顕著な成果を収め、水、土壌、固体廃棄物等の汚染防止分野における協同対策の水準を大幅に高める。

 

3.発生源での予防と抑制の強化

上述の(二)業務の原則の②で具体的な原則の内容が書かれているが、ここでは、以下の(四)から(七)の内容について具体化している。

(四)生態環境のゾーニング管理の強化(五)生態環境参入管理の強化(六)エネルギーのグリーン・低炭素化の推進(七)グリーンな生活様式の形成加速

 

4.重点分野の優先

優先すべき重点分野として、以下の(八)から(十二)の重点分野におけるコベネフィット効果向上の推進を挙げている。一部の重点分野では2025年、2030年までに達成すべき数値目標も掲げている。

(八)工業分野(九)交通輸送(十)都市農村建設(十一)農業分野(十二)生態建設

 

5.環境対策の最適化

最適化すべき環境対策として、以下の(十三)から(十六)の環境対策における協同抑制(コーコントロール)の推進を挙げている。

(十三)大気汚染防止(十四)水環境対策(十五)土壌汚染対策(十六)固体廃棄物汚染防止

 

6.イノベーションモデルの実施

(十七)地域(十八)都市(十九)工業団地(二十)企業のそれぞれのレベルにおいて、汚染物質削減とCO2低減の協同イノベーションの実施を求めている。

 

7.サポート能力の強化

(二十一)技術研究開発の応用における協同の強化(二十二)法規・基準の整備(二十三)協同管理の強化(二十四)経済政策強化(二十五)基礎能力向上について具体的に説明している。

 

8.組織的な実施の強化

最後に、組織的な実施の強化では、(二十六)組織的な指導の強化(二十七)広報教育の強化(二十八)国際協力の強化(二十九)考課と査察の強化を挙げている。

 

この「実施方案」では、これまでの政策文書に比較して原則的な考え方や実施すべき内容と方向性がだいぶ具体化してきたといえるが、一方、この通知を受け取った具体的に事業を実施する地方政府等から見れば、まだまだ採用すべき技術等の具体性に欠けているともいえる。中国側が資金を出すのであれば日本が協力する余地があると思うが、どうであろうか。

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