環境ジャーナリストからのメッセージ ~日本環境ジャーナリストの会のページ台風と気候変動~どう伝えるか

2022年10月17日グローバルネット2022年10月号

井田 寛子(気象キャスターネットワーク)

台風に対する気候変動の影響

9月14日~20日にわたって西~北日本の広い範囲に影響をもたらした台風14号。

九州の南で一時中心気圧が910hPaまで下がり、18日19時頃鹿児島市付近に上陸したときには935hPa。大型で非常に強い勢力で上陸しました。上陸時の気圧を見ても、歴代4位タイ。1951年以降の上陸時の中心気圧が低い気象庁の記録1位は925hPaの第二室戸台風(1961年)、2位は929hPaの伊勢湾台風(1959年)なので、それに迫る勢力の台風となりました。

気象庁の台風などを要因とする特別警報の基準は、「伊勢湾台風」級(中心気圧930hPa以下)で接近・通過すると予想される地域に発表されますが、基準に入る鹿児島県には暴風波浪高潮の特別警報が発表されました。暴風や大雨と共に記録的となり、最大瞬間風速は大分県佐伯市蒲江で50.4メートルを観測し統計開始以来1位、総雨量は宮崎県美郷町南郷で980ミリを超えました。

台風の発生や発達のメカニズムは明らかになっていないことも多い中、海上の温かい水蒸気をエネルギーとして発達することは明確で、近年の日本近海の海面水温の上昇は、台風を発達させる要因の一つになっています。今後、気候変動(地球温暖化)が進んでいくと、台風はどのような影響を受けるのでしょうか。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書によると、非常に強い熱帯低気圧の割合と最も強い熱帯低気圧のピーク時の風速は、地球規模では、地球温暖化の進行に伴い増加すると予測されています。

 

気象情報で気候変動問題を伝えること

極端な気象現象が多発する今、異常気象増加の背景に気候変動があることは科学的に証明されていますが、その関係性を定期的に報道で伝えることは多くありません。極端な気象現象や災害が発生しているときには防災情報が最優先になりますし、通常の気象情報ではいつどこに雨が降るのか、暑くなるのか寒くなるのかなど、日々の天気に関心は寄せられますが、限られた放送時間の中では、気候変動問題との関係性を伝える時間が与えられないのが現状です。

自分事と感じにくい気候変動問題を身近なこととして捉えてもらうために、毎日の気象情報の中で定期的に伝えていくことは効果的ですが、多くの放送では実現できていません。

 

日々の報道でどう伝えるか

内閣府が全国18歳以上の日本国籍を有する者3,000人を対象に行った「気候変動に関する世論調査」(令和3年3月)によると、「気候変動影響の情報について何で知りましたか?」という問いに対し、「テレビ・ラジオ」は93%、「新聞・雑誌・本」が66.9%、「学校などの教育機関」は37.4%、「TwitterやFacebookなどのSNS」は24.3%と、SNSが普及する今でもマスメディアが多くの割合を示しています。

また、「日常生活の中で気候変動影響を感じることは何ですか?」という問いに対し、「夏の暑さ」が89.8%、「雨の降り方の激しさ」81.6%と、日頃の天気の変化から影響を感じている人が多数となっています。

一方で、「気候変動適応を実践するに当たり、どのような課題があると思いますか?」という問いに対しては、「どのような基準で選択し、どのように取り組めばよいか情報が不足していること」(63.3%)や、「日常生活の中で常に意識して行動するのが難しい」(32.9%)など、情報が十分に届いていないことや身近なこととして具体的には捉えにくい状況がうかがえます。

気候変動問題に対して一般の関心を高めていくために、メディアで日常的に報道することは大きな役割の一つであると感じます。どうしたら報道の中で伝える時間をもらえるのか、どんな内容であれば視聴者に響くものになるのか、伝える側にいる一人として、今後も真剣に向き合っていきたいと思います。

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