続・世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する環境団体第7回 バングラデシュ・シュンドルボン地域におけるコミュニティベース型シードバンクの設立を通じた里山農業保全活動

2022年12月15日グローバルネット2022年12月号

日本環境教育フォーラム客員上席研究員、江戸川大学社会学部講師
佐藤 秀樹(さとう ひでき)

●事業の背景と課題

ユネスコの世界自然遺産に登録され、ベンガルトラ等の野生動物が生息する自然豊かなバングラデシュ・シュンドルボン地域周辺の農業は、緑の革命以降、人口増加に伴う農業生産量の効率を図る目的で、農薬や化学肥料を多用するハイブリッド(F1品種)を導入した。しかし、地域固有の在来作物の栽培・利用は、F1品種の拡大によって減少している。また、農薬や化学肥料の多用は、人間の健康への影響と共に、同地域の生物多様性の損失や、動植物の生息・生育場所の減少につながっている。さらに地域住民の経済的貧困の問題も深刻である。

●事業の目的

地域住民が農作物の在来作物品種の栽培・保存・利用や環境保全型農業を進めることは、地域の中の伝統的農作物の歴史や文化をあらためて認識することによって、その固有性のある在来作物種子の重要性を後世に伝えていくことが農村社会の持続性の観点から重要である。本事業では、農業者40世帯を対象として、彼らが主体となって農作物の在来種子を採取・保存・栽培・利用や環境保全型農業に関する食農学習を進めながら、シードバンクの設立による適切な自然資源管理の下で里山保全農業を進めるための仕組みづくりを行うことを目的とする。

●現地の在来種子利用等に関する現状調査の主な結果

現地100人の農業者を対象としたインタビュー調査(2019年)では、次の通りであった。

  • 農作物では、米や、野菜では、ホウレンソウ、ナス、カボチャ、ユウガオ、オクラ、ゴーヤ等が栽培され、カレー料理に使用される。
  • 最近では、換金性の高いスイカ栽培が盛んである。
  • 市場販売向けの野菜栽培では生産性の高いF1品種が多用されている。
  • 自家消費用として地域在来種の品種を使用した栽培も存在した。
  • 化学肥料や農薬はコストが高いことから、家計に影響を与える。
  • 農薬や化学肥料の多用による健康・環境への影響が懸念される。
  • 在来作物品種の生産性は決して高くないが、有機栽培ができ、味としては在来種の方がおいしく感じる。

●活動内容

各年次での主な活動は、下記の通りである。

第1年次:
現地の協働団体や行政、農業資材会社、大学、公立小学校等と連携しながら、在来作物種子の採取・保存・利用や環境保全型農業に関する現状調査の実施、農業者40世帯を対象とした組織形成、圃場での研修会の開催や教材開発等を行った。

現地の在来種子を保存するための処理作業

在来作物種子の保存

第2年次:
500の農家や11の公立小学校を対象とした在来作物種子の採取・保存・栽培・利用や環境保全型農業の拡大を目指すための普及啓発活動を実施した。また、在来作物を使用した料理のレシピ本の作成とその試食会の開催、ならびに当該地域を訪れる観光客への在来作物を使用した料理の提供等を行った。

第3年次:
500の農家や11の公立小学校を対象とした在来作物種子の採取・栽培・保存・利用や環境保全型農業の普及啓発活動、ならびに受益者40世帯による在来作物のマーケティングの取り組みを中心に行った。また、在来種子カタログの作成、在来果樹(500本)の植林、農業フェアの開催や他地域から若い農業者5名を招待し、在来作物について学ぶスタディツアー等を実施した。

●活動成果

活動の成果としては、行政、大学の専門家、NGO、農業者や小学校等のさまざまな関係者と連携・協働した研修会・ワークショップ等の開催を通じて、在来種子の採取・保存・利用や環境保全型農業の進め方について理解を深めることができた。そして、在来品種の栽培・保存・利用や堆肥作りを通じた環境保全型農業技術研修会を1,000名の農業者に実施し、彼らの技能向上に寄与することができた。また、54種類の在来種保存・栽培、それを活用した料理本の開発を通じて、在来品種を地域として積極的に保存するための基盤強化につなげることができた。

ローカル市場における在来作物のマーケティングを開拓することで、在来作物を栽培することの意義や受益者(農業者40世帯)の生計向上につなげることができた。在来作物の市場での販売では、事業実施前と比べ、約10%/世帯の現金収入の増加となった。

在来品種(野菜)のローカル市場販売

次世代を担う小学生350人には、地域固有の価値としての在来種の内容についてポスター等で伝えることで、その知識の向上に寄与することができた。第3年次の事業終了前には地域の在来作物種子の栽培・保存・利用に関するガイドラインを作成して行政機関に提出することで、農業政策の一つとして重視してもらえるようアピールを行った。

小学生対象の在来作物に関する食農学習会

●今後の課題と展望

第3年次の事業終了後は、現地パートナー団体のNGOが現地の活動をフォローアップしていく。今回の受益者(40世帯)のような小規模零細農業生産者が直面している経済的な貧困の課題解決と、在来作物の利活用に関する普及啓発(食農学習やマーケティング)の両立を図りながら一層促進・拡大を進め定着していけるのかが課題である。今後の展望としては、事業成果の持続性と住民の自立発展性を意識しながら、在来作物によるローカル料理を活用してツーリズム業界との連携・協働を図ることや、在来作物による地域ブランドを確立できるような商品開発等につなげていけるよう考えていきたい。

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