INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第76回 オゾン汚染防止攻略行動計画

2023年02月15日グローバルネット2023年2月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

北京市、「不都合な真実」には触れず?

今年1月6日、北京市は2022年の大気環境状況について記者発表した。年明けすぐに前年の大気環境基準の達成状況を取りまとめて発表するのは、膨大なデータを取り扱う関係者にとって大変な作業だが、毎年のようにさりげなく行うところが素晴らしい。こういうところを見ても北京市の行政能力の高さがわかる。ちなみに昨年は1月4日に発表している。

今年の発表のポイントとして、①年平均値の環境基準が設定されている4項目(PM2.5、PM10、NO2、SO2)のすべてが前年より環境濃度が低下または横ばい(SO2)であり、引き続き4項目とも環境基準を達成していること、②2013年以降主要な大気汚染物質であったPM2.5が、10年間で89.5μg/m3から30μg/m3まで低下し(低下率66.5%)、初めて環境基準(年平均値35μg/m3)を達成した2021年(33μg/m3)よりもさらに下がったこと(図参照)、③2022年にはPM2.5が172日間連続で環境基準(日平均値75μg/m3)を達成し(2013年の連続達成日数は最長でも13日間)、半年近く連続で「北京ブルー」の状態であった、と強調していたことが挙げられる。

良いこと尽くめの発表だが、私は記者との質疑応答議事録も含めて精査してみた結果、昨年の発表と比べてみると「不都合な真実」を伏せているのではないかという疑問を抱いた。昨年はCOとO3を含む6項目の環境基準すべてを初めて全面達成したと強調していたが、今年の発表資料や会見ではO3の話には全く触れていなく、データも発表されていなかった。わずかに最後に「オゾン(O3)の問題は日増しに際立っている」と述べているだけであった。私はおそらくO3の環境基準は達成できなかったのであろうと勝手に推測していたが、案の定、1月末に生態環境部が発表した資料によると、2022年の北京市のO3濃度は前年より14.8%も上昇し(171μg/m3)、環境基準値(160μg/m3)を超えていた。

このようにPM2.5対策の目途が立ってきた今、O3対策が最重要課題にシフトしてきている。

オゾン汚染防止攻略行動計画等の発表

北京市の例を見るまでもなく、近年オゾン汚染の防止は大気汚染対策上の最重要課題になってきている。有効なデータがそろっている2013年以降の全国のオゾン濃度平均値の推移を見ると一貫して上昇傾向にある(2020年および2021年はコロナの影響で若干低下)。このことを踏まえ、2021年11月に中国共産党中央委員会と国務院が連名で出した「汚染防止攻略戦を徹底的に戦い抜くことに関する意見」(注:環境政策上の最上位文書に位置付けられている)においてもオゾン汚染防止対策が強調されているところである。そして1年後の2022年11月には、この「意見」に従って具体的に実行するための実施計画になる「重度汚染天気解消、オゾン汚染防止およびディーゼルトラック汚染対策攻略戦を徹底的に戦い抜くことに関する行動計画」(以下、「行動計画」)が生態環境部、国家発展改革委員会等15部門連名で発表通知された。今回はこの行動計画の中から最重要課題に浮かび上がってきたオゾン汚染防止に関する内容を中心に注目して見ることとしたい。

行動計画制定の背景

行動計画発表と同時期に明らかにされた記者会見用資料によれば、行動計画制定の背景について次のように説明されている。

「2021年全国の都市のPM2.5の平均濃度は30μg/m3で2015年から34.8%減少し、全国の優良日数(注:日平均値の環境基準を達成した日数)の割合は87.5%で2015年から6.3ポイント上昇し、人民大衆の青い空に対する幸福感、満足感は顕著に高まった。しかし、大気汚染防止対策の状況は依然として厳しく、京津冀(北京市、天津市および河北省)およびその周辺等の地域では秋・冬季の重度汚染天気が依然として多発、頻発しており、全国の半数を超える都市で依然として重度汚染天気が発生し、人民大衆の「心肺への脅威」となっている。オゾン汚染が日増しに顕著になり、特に夏季は、一部都市の大気質の基準超過をもたらす最も重要な要因となっており、今年(注:2022年)に入って、全国のオゾン平均濃度は前年同期比6.4%増となっている(筆者注:2023年1月末に生態環境部が発表した資料によれば、最終的に前年比5.8%増であった。)。ディーゼルトラック汚染はいまだに効果的な解決に至っておらず、移動発生源の窒素酸化物の排出は全国の窒素酸化物の総排出量の約60%を占め、PM2.5とオゾン汚染への寄与率が大きい。」

オゾン汚染防止の重点地域、攻略目標等

オゾン汚染防止攻略行動計画の重点地域、攻略目標および主要な措置等は次のように定められた。

1.重点地域
5~9月を重点期間とし、オゾン汚染が比較的突出している京津冀およびその周辺地域、長江デルタ地域、汾渭平原(山西省、河南省、陝西省の一部)を国のオゾン汚染防止攻略の重点地域とし、珠江デルタ地域、成渝(成都市、重慶市)地域、長江中流都市群およびその他のオゾン基準超過都市は国の指導の下で攻略を実施し、重点の特化、地域別の政策施行を堅持し、揮発性有機化合物(VOCs)と窒素酸化物の排出削減を強化し、能力を向上させ、弱点を補う。

2.攻略目標
2025年までにPM2.5とオゾンの協同制御(コーコントロール)が好ましい成果を上げ、全国のオゾン濃度の上昇傾向の効果的な抑制を実現し、全国の大気質優良日数の割合87.5%を達成し、VOCs、窒素酸化物の排出総量を2020年比でそれぞれ10%以上減少させる。

3.主要な措置
主要な措置として次の5項目を挙げている。

①VOCsを含む原材料・補助材料の発生源代替行動
 家具、自動車、建設機械等の業界において、VOCs含有量が低い原材料・補助材料への代替を加速し、塗料、インク、粘着剤、洗浄剤等のVOCsを含む原材料・補助材料の基準達成状況に関する共同検査を実施する。

②VOCs汚染対策基準達成行動
 簡易型低効率VOCs処理施設の整理・改善の実施、VOCsの無組織排出の改善強化、異常モードの下での排ガスの排出に対する管理・抑制の強化、VOCsに関係する産業クラスターの処理能力の向上の推進および石油製品のVOCsの総合的な管理・抑制を推進する。

③窒素酸化物汚染処理能力向上行動
 低効率脱硝施設の徹底調査・改善の実施、石炭燃焼ボイラー、製鉄、セメント、コークス製造等の重点業界の超低濃度排出改造の推進を行うほか、バイオマスボイラーのうち安定的に窒素酸化物排出濃度基準を達成することができないものについて高効率脱硝施設を追加設置するなど、工業用ボイラーとガラス、鋳造、石灰等の業界の窯炉の基準を引き上げ、改造を行う。

④オゾン精密予防・抑制体系構築行動(詳細省略)

⑤汚染源管理監督能力向上行動
 汚染源のモニタリング・監視の強化、処理施設の運営・保守に対する管理監督の強化、石油化学工業、化学工業、塗装、医薬品、包装・印刷、製鉄、コークス製造、建材等の重点業界についてオゾン汚染防止のための的確な監督・支援を行う。

光化学反応等により生成されるオゾンは、煙突等から直接排出される物質でないだけに制御は難しい。

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