NSCニュース No. 143(2023年5月)定例勉強会報告「人財(人的資本)について ~情報開示とマネジメントにおける世界の潮流と日本企業の取組~」

2023年05月15日グローバルネット2023年5月号

NSC 勉強会担当幹事
サンメッセ総合研究所(Sinc)所長・首席研究員
川村 雅彦(かわむら まさひこ)

近年、国内外で注目される人的資本。3月7日に開催した勉強会(オンライン開催)では、日本企業は人的資本の取組と開示をどのように進めていくべきか、海外動向および国内の取組事例を講演いただいた。以下、その概要を報告する。

【人的資本(人財)の情報開示とマネジメントにおける世界の潮流と日本企業の取組】
 PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティ・アドバイザリー部 ディレクター 中村良佑氏

(1)人的資本情報開示の潮流
●「人的資本」の捉え方と法制化
 「人的資本」とは、内閣府の人的資本可視化指針、経済産業省の価値協創ガイダンス2.0、旧IIRC(国際統合報告評議会)の統合報告フレームワーク等によって定義される、「人材は企業価値を生み出す源泉である」とする考え方。各国で「人的資本情報開示」を拡充する法定化が加速している。
 〈日本〉企業情報の開示に関する内閣府令(2022年):金融庁ディスクロージャーWG報告書を受け、サステナビリティ情報開示の拡充を規定
 〈EU〉企業サステナビリティ報告指令(CSRD)(2022年):非財務情報開示指令(NFRD)から対象の拡大、開示基準をより具体化した指令。本指令を受け各国で法制化
 〈米国〉人材投資の開示に関する法律(2021年):SEC(米国証券取引委員会)規則として、上場企業が人材投資に関する情報を開示する義務と、その基準を法制化

●人的資本に関する情報開示領域
 育成:リーダーシップ等、従業員・エンゲージメント、流動性:離職率、定着率等、ダイバーシティ、健康・安全、コンプライアンス・労働慣行・人権

(2)日本企業の現状と課題
人的資本の情報開示の重要性は認識されつつも、個々の開示指針の理解や人的資本情報の選択等、実務面の対応が追い付いていないのが現状。課題は開示情報の選択基準の曖昧さ、収集した情報の信頼性、情報の収集・作成プロセス構築、社内コミュニケーション不足、情報ごとの開示媒体の整理。

【リコーグループのESG情報開示】
 (株)リコー ESGセンター ESG推進室室長 羽田野洋充 氏

(1)開示委員会での意思決定
 年次報告書や適時開示書の適切性・正確性の判断、開示手続きにおける情報開示の要否判断に加えて、投資家の投資判断に資する会社情報の積極的な開示に関する審議や開示手続きのモニタリングを実施。

(2)企業価値向上に向けた情報開示の強化

 ○ ESG活動のレベルアップと情報開示は企業価値向上の両輪と認識する

 ○ さまざまな開示媒体を活用してESG情報開示の強化を図る

 ○ お客様先、社外での活用も進める

(3)社会・投資家の期待に応えるための情報開示における留意点

 ○ 社会・投資家の期待に応える開示になっているか?

 ○ リコーらしい開示、リコーだから発信できることは何か?

 ○ 開示のタイミングは適切か?

 ○ 開示媒体(法定開示、任意開示)は適切か?

(4)金融庁「記述情報の開示の好事例集2022」~人的資本、多様性等~に採択

 ● 有価証券報告書2022年3月期の開示内容

① ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とワークライフ・マネジメント:OAメーカーからデジタルサービス企業への変革は、個別人材の能力発揮と協働で創出される。経営課題の一つと位置付け取り組んでいる。

② Global D&I Statement(人材育成方針と社内環境整備方針に相当)を公表し、取組の3軸は以下のとおり。
 ・多様な人材の活躍推進
 ・両立支援と働き方の見直し
 ・自律的な意識・風土の醸成

③ ESGデータブックで人材データ(人的資本)の詳細な開示を行う。女性活躍は重点取組ゆえ、女性比率指標をグローバルと日本国内(グループと単体)に分けて掲載。
 2020年4月(2021年度)より、グループ本部に「CHRO(最高人事責任者」を設置。

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