フロント/話題と人八重樫 志仁さん(先住民族としてのアイヌの権利を明らかにする 森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト副代表)

2023年07月14日グローバルネット2023年7月号

先住民族としてのアイヌの権利を明らかにする

八重樫 志仁(やえがし ゆきひと)さん
「森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト(アイヌ森川海研)」副代表

「アイヌ民族は過去150年の間にあらゆるものを奪われてきた」。言語、文化、宗教、民族の誇り、そしてヤウンモシㇼ(アイヌ語で北海道)の土地と自然。アイヌ語を使わず、伝統的な慣習も生活の中で見られなくなり、アイヌとして育つことが難しくなった。

八重樫さんはアイヌ人口が比較的多い北海道浦河町で育ったが、中学時代の差別をきっかけに地元を離れた。東京で大学を出て就職し、アイヌとしての意識も無くなっていたが、偶然手にした北米インディアンの本をきっかけに、アイヌの歴史に興味を持った。30歳で浦河へ戻った後、アイヌの文化伝承者の話を聞いたり、アイヌのグループに加わり活動するようになった。

当時はアイヌ新法制定運動が盛んで、アイヌの権利の話が議論になることも多かった。しかし、97年のアイヌ文化法は文化の振興を規定したもので、民族の自立を目指す法ではなく、むしろアイヌ民族運動は弱体化したと感じた。福祉政策により和人(大和民族)との同化が進む状況に絶望を感じることもあった。

「アイヌ自身が自分たちの歴史を知り、多数派である和人にも知ってもらう必要がある」との思いで、アイヌ民族の文化の保存と伝承、発展を目指し、2016年に「レヘイサム(アイヌ語で名無し)」という団体を作り、その活動の中で先住権問題に携わっていた上村英明さん(アイヌ森川海研代表)と知り合った。八重樫さんの親世代はアイヌの伝統的な暮らしをしていたわけではなく、森川海の自然を利用する権利、と言われても実感がなかったが、アイヌの文化慣習を学び、伝承者の話を聞き、改めて自然との深い関わりを理解し、上村さんの勉強会などでサケを捕る権利、森や土地に関する権利が重要であること、今の制度ではそれが全く認められていないこともわかってきた。
特集に寄稿いただいているので併せてお読みください。

「アイヌ森川海研では、アイヌの生活や文化、ヤウンモシㇼの自然が大きく変化させられてきた中、アイヌの人びとがどれだけ大変な思いをしてきたか、先住民族としての権利とはどのようなものか、わかりやすく伝えたい」。2019年のアイヌ施策推進法でも先住権は認められておらず、その見直しが来年予定されている。今後に関心を持ってほしいと期待する。60歳。(ぬ)

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