特集/今、改めてプラスチック問題を考える~プラスチック汚染ゼロという野心的な目標を目指して~日本のプラスチック対策の現状と課題

2023年09月15日グローバルネット2023年9月号

福島大学 経済経営学類 教授
沼田 大輔(ぬまた だいすけ)

 私たちの身の回りのさまざまなものに使用されるプラスチックは、気候変動、自然・生物多様性の喪失、汚染と廃棄物という「地球の三重危機」のすべてに影響を及ぼしており、世界各国で対策が講じられています。2022年にはプラスチック汚染の根絶を目的とした国際条約の交渉が始まり、日本が議長国を務めた今年4月のG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合では、2040年までに追加的プラスチック汚染を終わらせることを目標とする共同声明が発表されました。
 今回の特集では、プラスチックが製造、使用、廃棄される過程で、気候、自然、人々の健康に対してどのような悪影響が生じるのか。また、汚染の根絶のためにどのような国際条約が必要なのか。そして、日本国内の政策は今後どうあるべきかを考えます。

 

海洋に流出してしまうプラスチックや資源の消費を削減し、カーボンニュートラルを進めるなどのため、2020年7月からレジ袋有料化の原則義務化、2022年4月から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下、プラ新法)」の施行など、プラスチック対策は多様に展開している。本稿では、プラ新法を例に、筆者が福島県で見聞きする情報を紹介しつつ、日本のプラスチック対策で今後求められると考えられる視座を提起する。

プラ新法における「リサイクル」の側面

プラスチックは私たちの便利な生活に多様に組み込まれている。コンビニエンスストアをはじめ、多くの場所でプラスチックがあふれている。ほとんどの食品・菓子・飲料などは、ペットボトルやプラスチックにしっかり包まれて陳列されている。弁当を買うときに何も言わないとプラスチック製のフォークやスプーンが付いてきたりする。店舗に並ぶ歯ブラシやヘアブラシもプラスチックでできていることがほとんどである。

こうしたプラスチックを家庭に持ち帰ると、それぞれのプラスチックの用途が容器包装か製品かで、自治体が求める分別・捨て方が異なることを、皆さんはご存知であろうか。

前段の例だと、ペットボトルや菓子を包むプラスチックは「容器包装プラスチック」、フォーク・スプーン・歯ブラシ・ヘアブラシは「製品プラスチック」といわれる。プラ新法ができるまでは、「容器包装プラスチック」は資源ごみ、「製品プラスチック」は不燃ごみであったりした。資源ごみを入れた袋に、製品プラスチックと容器包装プラスチックが混ざっていると、選別工場ではじいている自治体もあった。これがはじかれなくなり得るというのが、プラ新法ができた一つの成果であろう。

ただし、製品プラスチックも資源ごみとして回収してくれ得るといっても、住んでいる自治体による。例えば、製品プラスチックを分別収集・リサイクル(再商品化と呼ばれる)するのにかかる費用を払うことを受け入れる自治体に居住している必要がある。

図1は、福島県の59市町村における製品プラスチックの分別収集への対応状況を自治体単位で示したものである。これを見ると、実施中の自治体は少なく、多くの自治体で「未定」となっている。自治体名を見ると、広域行政組合単位で行動していることもうかがわれる。筆者が審議会などで関わっている会津若松の広域行政組合は「2024年度から」に含まれる。この背景には、ごみ焼却炉の建て替えが関係していると見られる。

すなわち、製品プラスチックの分別収集・再商品化を行うことが、循環型社会形成推進交付金の交付要件になっている。循環型社会形成推進交付金は、市町村などの一般廃棄物処理施設の整備に交付される。自治体としては、住民への告知などを含めて、製品プラスチックの分別収集・再商品化の費用を日々負担することと、循環型社会形成推進交付金をてんびんにかけることになり(石川(2023))※1、人口減少などで財政が苦しい自治体に、厳しい対応を迫っている。

※1 石川雅紀(2023)「プラスチック新法で何が変わる?」『月刊廃棄物 2023年5月号』 pp.10-13

一方、大きなリサイクルプラントがあり、製品プラスチックの回収について自治体と民間企業が協働で効率化を推進することを後押しする枠組みもプラ新法では設定されている(再商品化計画認定制度)。しかし、こうした立ち位置にない自治体も多い。今後はプラ新法に対する自治体間の調整・プラ新法に伴い苦境にあえぐ自治体への支援を、環境省や都道府県が強化していく必要があるであろう。

プラ新法における「えらんで」「減らして」の側面

プラスチックは前述の通り、多様な使われ方をしており、政策立案側の思いもよらない側面もあると考えられ、各主体の創意工夫が求められる。このことから、自主的な取り組みを応援するやわらかい法律(ソフトロー)としてプラ新法は位置付けられる(細田(2021))※2

※2 細田衛士(2021)「プラスチック資源循環促進法の意義と各主体の役割」『月刊廃棄物 2021年8月号』pp. 26-29

環境省は、「えらんで」「減らして」を「リサイクル」とともに私たちに求めている。「えらんで」は、製品プラスチックを使うなら環境に優しいものをということで、プラスチックの使用量が少なく、使用後に収集・リサイクルしやすい製品を選ぶという意味である。「減らして」は、製品プラスチックを使わず、使うならできるだけ繰り返し使うといった意味である。一般に、環境負荷の観点からは、リサイクルよりも、「えらんで」「減らして」といったリデュース・リユースの方が優先度は高い。

しかし、ソフトローであるためと思われるが、各主体の「えらんで」「減らして」行動は、できる人ができるときに行っている段階と思われる。プラ新法施行後も、弁当を買うとき、スプーンやフォークは、「要りません」と私たちがレジの人に言わないかぎり、付いてきたりするのではないだろうか。「えらんで」「減らして」をできる人が行いたいと思っても、そうした行動をとりづらい状況は各所に見られる。

図2は、福島県郡山市の宿泊施設(大手を除く)について、アメニティーの提供方法をまとめた一例である。これを見ると、「全部屋に置いて提供」は、ヘアブラシは30%、歯ブラシは76%となっている。また、「フロントで提供」「セルフサービス」になっていても、無料が一般的である。ヘアブラシや歯ブラシは自分で持っていく、なければ買うことを基本とすれば、私たちの「えらんで」「減らして」行動は変わるのではなかろうか。しかしながら、この変更を受け入れるかはサービスとの兼ね合いもあると考えられ、提供方法の変更を応援する仕組みづくり・変更を受け入れる機運の醸成も期待される。

今後は、「えらんで」「減らして」「リサイクル」の行動をする人の範囲を広げていく必要があろう。そのために、「えらんで」「減らして」「リサイクル」の行動をデフォルト(初期設定)にする取り組みを進めるなど、それらの行動が得で便利な社会を構築していく必要があるであろう。

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