INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第80回 中国の気候変動対応レビュー

2023年10月13日グローバルネット2023年10月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

今年も11月30日から12月12日までの予定で、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が開催される。会議に先立って、この30年余りの中国の気候変動対応について、国の管理体制、国内対策の目標と実績、国際社会に提示した目標等の面から若干のレビューをしてみたい。

国の管理体制の変遷

気候変動対応に係る中国の管理体制の歴史を振り返ると、最初に関連組織が整備されたのは1990年2月までさかのぼる。国務院(日本の内閣に相当)は、環境保護委員会(当時)の下に国務委員(副首相級)をグループ長とする「国家気候変動調整小グループ」を設置し、気候変動関係の政策と措置の調整と制定を担当させた。その後1998年に国家発展計画委員会(当時)をヘッドとして13部門が参加する「国家気候変動対策調整小グループ」を設置した。2003年には参加部門を15に拡大し、国家発展改革委員会地区経済発展司に弁公室(事務局)を設置した。

2007年には第11次5ヵ年計画(2006~10年)の目玉になる重要政策である「節能減排」(省エネ・汚染物質排出削減)と結び付けて、国務院総理(首相)をグループ長とする「国家気候変動対応および省エネ・汚染物質排出削減業務指導者小グループ」を新たに設置した。国務院の20以上の部門のトップがこれに参加した。翌2008年の国務院機構改革では国家発展改革委員会に気候変動対応司を新設し、気候変動対応に関する国内の重要な業務および国連気候変動枠組条約の履行等の重要な国際業務を一元的に管理する体制を構築した。そして2018年には国務院の機構改革により新たに設置した生態環境部に、気候変動対応司を組織人員ともに丸ごと移管し、生態環境部が気候変動対応と生態環境保護に関する業務を統一して管理する体制が完成した。

2020年の国連総会で習近平国家主席(総書記)が初めて中国の二酸化炭素排出ピークアウトおよびカーボンニュートラルの目標時期について発表すると、翌2021年には国務院副総理(副首相)をグループ長とする「二酸化炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラル業務指導者小グループ」を設置し、国家発展改革委員会に事務局を置いた。

5ヵ年計画等における目標の変遷

中国において最上位の国家計画は、5年ごとに制定される国民経済と社会発展5ヵ年計画である。この5ヵ年計画では各種の目標が掲げられるが、このうち「拘束性目標」という分類(属性)の目標が、その名前のとおり政府に対して最も拘束力がある目標である。これは強制的かつ固定的な目標で、国のマクロコントロールの意図を示しており、達成が義務付けられた目標とされている。これ以外に「予測性目標」がある。

5ヵ年計画で初めて気候変動について言及されたのは第10次5ヵ年計画(2001~05年)であり、「世界的な気候変動の緩和に資する政策と措置を実施する」必要性を提示したが、目標は設定していない。第11次5ヵ年計画(2006~10年)で初めて(二酸化炭素排出削減と深い関係を有する)省エネルギーに係る拘束性目標が設定された。二酸化炭素に直接言及した拘束性目標は次の第12次5ヵ年計画(2011~15年)で初めて制定された。各5ヵ年計画の目標と実績を表1に整理したが、これら2つの目標はいずれも単位GDP当たりで算出した数値目標であるので、ざっくり言うと、GDPの伸び率が目標とする低下率を上回ると、エネルギー消費総量や二酸化炭素排出総量は増加することになる。実際、目標は達成したが二酸化炭素排出総量は今なお増加し続けている。

この5ヵ年計画の拘束性目標とは別に、上述したように、2020年9月の国連総会で習近平国家主席は初めて「二酸化炭素排出量を2030年前にピークアウトさせ、2060年前にカーボンニュートラルの実現に努力する」(注:「3060目標」あるいは「双炭目標」と呼ばれる)ことを発表した。この目標は直ちに、翌2021年に制定された第14次5ヵ年計画と2035年長期目標に反映された。また、同年9月に「中国共産党中央委員会および国務院による新発展理念の完全かつ正確な全面的貫徹による二酸化炭素排出量ピークアウト・カーボンニュートラル実現に関する意見」を提示し、この中で2025年、2030年および2060年の目標を示すとともに、ピークアウト・カーボンニュートラル実現に向けた主要な施策とロードマップを示した。

国際社会に提示した目標の変遷

中国が国際社会に対して二酸化炭素の排出抑制に関する具体的な数値目標を示したのは、2009年が最初である。同年12月に開催される国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)に先立って、「2020年までに単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を2005年比で40~45%低下させる」という目標を提示した(注:この目標は2019年に前倒しで達成、2020年の実績は2005年比で48.4%低下)。

また、2015年には「2030年頃に二酸化炭素排出量をピークアウトさせ、併せて早期にピークアウトするよう取り組み、2030年までに単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を2005年比で60~65%低下させる」という国家自主貢献目標を国連に提出した。

そして2020年には上述のとおり習近平国家主席が国連総会で「双炭目標」を発表した。この時2060年前のカーボンニュートラル実現については(その不確実性から)「努力する」と表現されており、また、中国国内では2060目標は「目標」ではなく「ビジョン」と表現されていたが、翌2021年の国連総会での習近平国家主席の演説では、「努力」の2字が削除され、「実現を目指す」と一歩進んだ表現になった。

また、2020年12月の国連等が主催した気候野心サミットで習近平国家主席は「2030年までに単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を2005年比で65%以上低下させる」と発表し、これまでの「60~65%」から「65%以上」に目標を高めた(表2)。

二酸化炭素以外の温室効果ガス対策については今のところ数値目標は発表していないが、2021年4月に米国主催で開催された指導者気候サミットにおいて習近平国家主席は「モントリオール議定書キガリ改正案を受け入れ、二酸化炭素以外の温室効果ガスの管理コントロールを強化する」と発言している点は今後注目すべき内容である。

「双炭」目標達成に向けた中国の態度

最後に、国際社会からピークアウト時期やカーボンニュートラル時期の前倒し等についての働きかけや圧力が高まる中で、中国の断固たる立場を明確に表明している習近平総書記(国家主席)の「重要講話」を紹介しておきたい。今年7月に開催された全国生態環境保護大会席上での発言である。

「『双炭』の約束と自主的行動の関係であるが、我々が約束している『双炭』目標は確固不動のものであるが、この目標に到達する方途や方式、テンポや強度は我々が自ら主導権を握り、決して他人に左右されないようにすべきであり、また必ずやそうしなければならない。」

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