マダガスカル・バニラで挑戦!~アグロフォレストリーでつなぐ日本とアフリカ第8回 アグロフォレストリーの価値

2025年04月17日グローバルネット2025年4月号

合同会社Co・En Corporation 代表
武末 克久(たけすえ かつひさ)

2月から3月上旬にかけて4週間ほどマダガスカルに行ってきました。マダガスカルにはもう何度も足を運んでいますが、今回もまた心を強く揺さぶられる訪問となりました。

滞在中、2022年8月に視察した農園を再訪問する機会がありましたが、まるで違った景観になっていて驚きました。以前はまだ造成したての農園で、中心となるライチの大木はありましたが、その他の木々はまだ細々としたものでした。それが、アカシアにしろクローブにしろオレンジにしろシナモンにしろ、随分と成長していましたし、その下に生えるバニラのつるも、たくましく育って大きなグリーンバニラをたくさん実らせていました。森のような立派なアグロフォレストリーになっていたのです。熱帯では木の成長が早いですね。わずか2年半でこんなにも緑が増えるのかと驚くとともに、ここまで農園を育てた農家の努力に感動しました。現地では素晴らしい取り組みが行われている。一方で私たちはまだまだこれに貢献できていない。そういう反省を持ち帰ることになりました。今回はそのことを紹介します。

●アグロフォレストリーの定義

今回はアグロフォレストリーのことをお伝えしたいと思っています。アグロフォレストリーといってもさまざまな形態がありますし、そもそもアグロフォレストリーの定義には定まったものがありません。私たちの場合は、地域の固有種を含む、複数の種の植物で構成された階層構造を持つ農園をそう呼ぶことにしています。こう定義したとしてもその形態はとても多様です。家畜が放牧されている場所もあります。私たちはマダガスカル、インドネシア(ボルネオ島)、日本のアグロフォレストリーを見ていますが、それぞれ気候も違えば成り立ちの背景も違いますし、社会情勢も直面している課題も異なります。そのため、形態だけではなく社会的な意義も異なってきます。

例えばマダガスカルでは、伐採や焼き畑によって草原と化した場所に作物や木を植えてアグロフォレストリーを造成しています。そのため、植生はそれほど豊かとはいえず、換金作物や食用の種が目立ちます。

ボルネオで私たちが目にしているアグロフォレストリーは人工林ではありますが、多種多様な種が茂り、まさに天然林のような景観です。その中に果実を利用する木が点在しています。いずれも農家の食料や収入を支えるとともに森林の保全や再生に貢献しています。

日本ではアグロフォレストリーという言葉はほとんど使われませんが、里山の使われなくなった森林をもっと活用しようとする取り組みが行われています。このような活動は日本版アグロフォレストリーの復興といえると思います。木の幹を木材として使うだけでなく、枝葉をエッセンシャルオイルなどの香りやオイルの原料として活用したり、森に生えるかんきつなどの果物やキノコ類を食材として採取したり、今はそれほど注目されていない森の価値を再発見しようとする試みです。森林(里山)保全と合わせて、地方創生や伝統の継承という意義を持ち合わせています。

このように多様なアグロフォレストリーですが、いずれも自然と共生しながら自然の恵み(生態系サービス)を最大限に活用し、自然の森と近しい景観を持つ点で共通しています。

●アグロフォレストリーのメリット

アグロフォレストリーの農園では、多様な植物が育つことで自然林と同様のしっかりとした生態系が出来上がります。それ故にアグロフォレストリーには幾つかの特筆すべき特徴があります。

  1. 肥料や農薬を使う必要がなく、実際に私たちのサプライヤーの農園ではこれらは一切使用されていません。農家は下草を刈ったり枝を剪定したりして農園を整備します。病害虫が発生したときには手などで物理的に取り除きます。
  2. 高木を含め多くの木が茂る農園は強風や大雨に強いです。マダガスカルでも日本でもサイクロン(台風)が通過しますので、これはとても大切な働きです。
  3. 年間を通してなんらかの収穫が望めるため、農家の収入が安定します。例えばマダガスカルでは、バニラは7月に、クローブは9月、ライチは11月に収穫のピークを迎えます。バナナやパイナップルは通年収穫できます。
  4. 作物と一緒に地域固有の木を植えるため、森が再生されます。森林がどんどん少なくなっているマダガスカルにおいては非常に意義あることです。しかもお金を生む森ですから、再び伐採されてしまう心配がありません。
  5. アグロフォレストリーの農園が炭素の吸収源にもなります。慣行農法ではむしろ土中からの温室効果ガスの排出が問題視されていますが、アグロフォレストリーの農園は空気中の炭素を農園や土中に固定します。つまり、アグロフォレストリーを続ければ続けるほど、農地が広がれば広がるほど大気中の二酸化炭素が減ります。炭素クレジットを発生させることも可能です。

    2年半で見違えるほど緑が増えていた農園。牛ものんびり草を食む。

●アグロフォレストリーを維持し広げるために

「アグロフォレストリー、素晴らしいじゃないですか! どんどん広げましょう!」と思った人もいるかもしれません。実際にマダガスカルでは、バニラやカカオの農家を支援するプロジェクトではアグロフォレストリーが奨励されていることが多いようです。ただ、このように素晴らしい取り組みもそこで栽培される作物が売れて農家に収入をもたらさない限り続きません。そのためには、作物を品質の良い加工品に加工する、そして国内販売する、もしくは輸出する役割を担う者が必要です。また、私たちのように国外での販路を広げる者も必要です。アグロフォレストリーが続くためには、農園での努力も当然不可欠ですが、品質の良い製品を生産できるか、またこのようなビジネスパートナーを持てるかが重要な鍵となります。

私たちのように輸入・販売を担う者は、とにかく彼らの製品をできる限りたくさん売りさばくことがその役割です。私たちもそれなりに販売量を伸ばしています。しかし、今回の訪問でその量がまったく足りないことを再認識しました。もっと販売量を増やさなければいけない。そのためにどうすればいいか。アグロフォレストリーで栽培されるこの価値ある製品をどのような価値を訴求しながら販売するべきか。試行錯誤しています。環境に優しいこと、エシカルであること、フェアトレードであること、地域貢献していることなど、付加価値になりそうなものはたくさんありますが、このような価値がまだほとんど経済的には認められていない日本において、このようなことを訴求することが果たして正解なのか。これで、販売量を増やすことができるのか。不安になります。かといって、他の既製品との価格競争に挑むこともできれば避けたい。このようなジレンマの中にいます。

これまでは、販売先候補を広くするためにも、市場からの信頼を得るためにも、高品質であることを第一に掲げてきました。価格は、安くはないですが高すぎず使いやすいところにしてきました。いわゆる持続可能性に関わる価値は、「わかる人にわかってもらえればうれしい」というスタンスではあるものの、生産者とのつながりやアグロフォレストリーの魅力も訴求してきました。しかし、これから販売量を劇的に増やすためには、これまであえてやってこなかった薄利多売の製品ラインをつくるなど思い切った割り切りが必要かもしれない。そう考えているところです。

マダガスカルの専門家が解説するアグロフォレストリー(動画)https://youtu.be/eE2zrpezJYA

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