INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第89回 2025年の全人代政府活動報告

2025年04月17日グローバルネット2025年4月号

公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

昨年と同じく3月5日から11日までの7日間、第14期全国人民代表大会(「全人代」、国会に相当)第3回会議が開催された。今年も閉会後の内外の記者を集めた首相会見はなかった。大会初日に李強首相から政府活動報告が行われたが、報告は3つの内容で構成され、具体的にはⅠ.2024年の活動の回顧、Ⅱ.2025年の経済・社会発展の全般的要請と政策の方向性、Ⅲ.2025年の政府活動の任務、である。今年の政府活動報告の中からグリーン低炭素発展・生態環境に関連する部分をピックアップして紹介するとともに、若干のコメントを加えてみることとしたい。

Ⅰ.2024 年の活動の回顧

まず2024 年の活動の回顧では、最初の総括的な報告部分で「生態環境がさらに改善された」とした上で次のように述べている。

「地区級都市および地区級以上都市の微小粒子状物質(PM2.5)平均濃度は2.7%低下し、大気質優良日の割合は87.2%に上昇し、水質が優良な地表水の割合は90.4%まで高まった。単位GDP当たりのエネルギー消費量の減少幅は3%を超えた。再生可能エネルギーの新規導入容量は370ギガワットであった。」

また、項目別の報告では「生態環境保護を持続的に強化し、グリーン・低炭素発展の水準を高めた」とした上で具体的に次のように述べている。

「生態環境総合対策を強化し、主要汚染物質の排出量がさらに減少した。重要生態系の保護・復元に向けた重要プロジェクトを踏み込んで実施し、砂漠化・砂化した土地が「ダブル縮減」し続けた。重点業種の省エネ・低炭素化を推進し、新エネルギーの開発・利用を推し進め、非化石エネルギー由来の発電量は全体の4割弱を占めた。温室効果ガスの国内クレジット制度を導入した。排出量取引がますます活発になった。」

なお、昨年の報告では直面している困難と課題の例として「生態環境保全対策は前途多難である」と述べていたが、今年の報告ではこのような記述はなかった。

Ⅱ.2025 年の経済・社会発展の全般的要請と政策の方向性

今年の主な所期目標について、「GDPの伸び率は5%前後とする」、「食糧生産量は7億トン前後とする」など昨年同様7つの目標を掲げているが、このうちグリーン・生態環境に関連する目標としては、「単位GDP当たりのエネルギー消費量を3%程度減少させて、生態環境を持続的に改善する」が挙げられている。昨年の目標では「2.5%程度減少」だったので、目標を若干強化している。このグリーン・生態環境関連の所期目標について、過去の書きぶりはのとおりである。主要汚染物質の排出削減については引き続き継続実施されているが、この2年は主な所期目標の中では言及されていない。

Ⅲ.2025年の政府活動の任務

ここでは、10項目に分けて2025年の政府活動の任務を紹介しているが、そのうちの「(九)炭素排出削減・汚染対策・緑化・経済成長をバランスよく推進し、経済・社会発展の全面的グリーン化を加速する」の項で、以下のように詳しく紹介している。

 

生態文明体制改革をいっそう深化させ、産業構造の調整、汚染対策、生態系保護、気候変動対策を一体的に推進し、生態環境優先、節約・集約、グリーン・低炭素の発展を推し進める。

汚染対策と生態系建設を強化する
青い空、澄んだ水、きれいな土を守る戦いを持続的に踏み込んで推進する。固形廃棄物総合対策行動計画を策定し、新汚染物質の総合対策と環境リスク管理を強化する。生態系のブロック割管理を踏み込んで実施し、山・川・林・田・湖・原・砂の一体的保全と系統的対策を行い、国立公園を主体とする自然保護地体系の整備を全面的に推進し、「三北」プロジェクト(※)の代表的な取り組みに重要な成果が得られるよう推し進める。生物多様性保全重要プロジェクトを実施し、長江の10年間禁漁を揺るぐことなく継続する。生態系保護補償、生態系サービス価値実現の仕組みを整える。「美しい中国」先行区の整備を積極的に推進し、人民大衆のよい生態環境への新たな期待に応えていく。
※「三北」プロジェクトとは、中国北部に位置する西北、華北および東北地域に大規模な森林地帯等を建設するプロジェクト

グリーン・低炭素経済を加速的に発展させる
グリーン・低炭素発展を支援する政策と標準体系を充実させ、グリーン・低炭素産業が健全な発展をするための環境を整える。グリーン・低炭素先端技術モデルプロジェクトを踏み込んで実施し、グリーン建築など新たな成長分野を育てる。資源総量管理と全面的節約の制度を整備し、エネルギー消費・水消費重点企業の省エネ・節水管理を強化し、エネルギー多消費プロジェクトを強力で効果的に管理・規制する。廃棄物の循環利用を強化し、再生材を大いに普及させる。グリーン消費奨励の仕組みを整え、グリーン・低炭素の生産方式・生活様式の形成を推し進める。

二酸化炭素排出量ピークアウトとカーボンニュートラルを積極的かつ穏当に推進する
第2期国家二酸化炭素排出量ピークアウト試行事業を着実に行い、一連のゼロカーボン産業団地とゼロカーボン工場を整備する。炭素排出ダブル抑制(総量・原単位抑制)の制度体系の構築を急ぎ、全国炭素排出権取引市場の対象業種を拡大する。炭素排出算定を行い、カーボンフットプリント管理体系とカーボンオフセット認証制度を確立し、グリーン貿易障壁に進んで対応する。「砂漠・ゴビ・荒地」新エネルギー基地の整備を加速し、洋上風力発電を発展させ、電力の地産地消と送電施設の整備を一体的に推進する。石炭火力発電の低炭素化の試行を展開する。気候変動対策重要事業パッケージを計画し、グローバル環境・気候ガバナンスに積極的に参加しリードする。

「部長通り道」という大臣ぶら下がり会見

最後に、全人代期間中のメディアの取材機会について触れておきたい。冒頭述べたとおり今年も閉会後の内外の記者を集めた首相会見はなく、大会中実施されたのは外交部長(外務大臣)等一部の有力大臣の会見だけであった。その他の注目すべき大臣等には「部長通り道」と呼ばれるぶら下がり会見がセットされた。これはその名のとおり、大臣が議場から出てくる赤じゅうたんを敷いた通り道にメディアが待ち受けていて、大臣を足止めし、2、3問程度質問して大臣が答えるものだ。黄潤秋生態環境部長も2人の記者から質問を受けた。質問内容はあらかじめセットされていたと推察するが、私が感心したのは黄部長の説明ぶりだ。原稿もなしに、「えー」とか「あー」とか言葉を伸ばすこともなく、15分近くよどみなく正確な数字を次から次へと並べて丁寧に説明するのだ。その優秀さ、記憶力の素晴らしさにただただ感服するばかりであった。

「部長通り道」で取材を受ける黄潤秋生態環境部長(出典:生態環境部ウェブサイト)

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