フロント/話題と人ティマ―・マヌルンさん(環境NGO Auriga Nusantara(アウリガ・ヌサンタラ)創設者・代表)
2025年06月16日グローバルネット2025年6月号
日本の「再エネ」がインドネシアの森にとって新たな脅威に
~消費国政府・企業としてできることを~

ティマー・マヌルン さん
(環境NGO Auriga Nusantara(アウリガ・ヌサンタラ) 創設者・代表)
日本の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の支援を受け、急拡大したバイオマス発電。現在、発電容量の約7割で海外産の輸入燃料が燃やされている。その一つ「木質ペレット」の輸入元として、近年急成長しているのがインドネシアだ。同国で違法伐採や森林破壊の根絶に取り組む環境NGO アウリガ・ヌサンタラ(以下、アウリガ)は、昨年10月、現地のペレット産業と熱帯林伐採の関連を暴いた報告書を発表。
5月に代表のマヌルンさんが初来日し、関連する企業や省庁、メディア、NGOに対して現地の危機を訴えた。
インドネシアの森林破壊の状況を毎年モニタリングしてきたマヌルンさんたち。2016年以降減少していた森林破壊面積が22年に増加に転じ、分析を進める中で、農園や鉱山開発、木材生産等の従来の要因に加えて、ペレット生産と関連した伐採が増えていることが判明した。全国の事例をくまなく調査して発表した昨年の報告書では、カリマンタン島のバイオマス向け伐採許可区の全てがオランウータンの生息地と重なり、貴重な固有種の宝庫であるスラウェシ島北部では日本の商社も出資するペレット工場で天然林の伐採が確認された。同国のペレットの99%が日本および同じくバイオマス発電を推進してきた韓国に輸出されている。マヌルンさんは「日本がこれら地域のペレットを買い続ければ、貴重な種の生息地を奪い、絶滅に加担することになる」と警鐘を鳴らす。現地のペレット産業や政策は今後の日韓の需要増を当て込んで展開しているため、「輸入国が森林破壊由来のバイオマスを買わない方針を示せば、状況は変えられる」と繰り返し強調する。
「群島」を意味するNusantara(サンスクリット語)と、古代の戦闘用馬車の「御者」および星座の「御者座」を意味するAuriga(ラテン語)を組み合わせた団体名には、この島々の問題解決に向けた道筋を照らし、導いていくという意思が込められている。今回の来日前には韓国にも初訪問し、同国のNGOと今後の連携を協議した。「日韓とインドネシアひいては東南アジア全体が一つになり、森林破壊の無い健全なエネルギー移行を促したい」と、海をまたいだ市民社会の協力に率先して取り組む気概をのぞかせた。(克)